2021年8月30日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
昨今SDGsが急速に注目されつつある。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称であり「持続可能な開発目標」と訳されている。SDGsは2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された国際目標であり、17のゴールと169のターゲットから構成されている。今回はこのSDGsを「食/農林漁業」の視点から述べてみたい。
SDGsはすでに欧米を中心に世界の風潮となっており、日本においても大手企業を中心にSDGsに取り組む企業が増えている。また、1年延期したうえで開催された東京オリンピック・パラリンピックにおいても、「Be better, together /より良い未来へ、ともに進もう。」をコンセプトとしてSDGsに取り組むことをPRしている。
では、農林漁業分野とSDGsはどのように関連しているのだろうか。SDGsの17のゴールと169のターゲットを見てみると、「2.飢餓をゼロに」の中に「農業」、また、「14.海の豊かさを守ろう」に「漁業」、「15.陸の豊かさを守ろう」に「森林経営(林業)」というワードが出てくる。そういった意味では農林漁業に取り組むことによってSDGsに取り組んでいると言えそうである。しかし、筆者が本稿で述べたいことは、そういった部分的な話ではなく、農林漁業分野に関わることこそがSDGsの目標を横断的に実践できる可能性があるということである。
農林漁業には単に「生産」という側面だけでなく、農山漁村の魅力と観光需要を結びつける「農観連携」。障がい者雇用の推進といった福祉との連携による「農福連携」。収穫体験や動物・植物の命をいただく「食農教育」。東京オリ・パラで提供する食材としてGAP認証の取得を推進する等の「農林漁業×スポーツ」。農地での太陽光発電、農業用水路での小水力発電、森林でのバイオマス発電といった「農林漁業×再生可能エネルギー」。そして農林漁業と最先端技術を掛け合わせることによる「スマート農業」など、他産業と融合することによってSGDsの観点からしても複数の要素が絡み合う可能性がある。
ここで、日本人の星野紀子氏が代表を務める非営利活動団体ADIMAの取り組みを紹介したい。ADIMAはアフリカの貧しい農家さんが自立して子供たちの健康と将来を守っていけるように支援している公益団体であり、現在は西アフリカのブルキナファソにて、大豆を学校菜園で育てて給食に利用する活動と農家の組織化に取り組んでいる。
ブルキナファソは、国連開発計画(UNDP)による人間開発指数(HDI)で189カ国中182位(2019年度)と世界で最も貧しい国の一つである。そのブルキナファソの学校では、1年のうち3ヶ月分の給食(コメ・油・豆類)を国が支給しているが、夏休みとなる雨季の3ヶ月を除く残りの6ヶ月分の給食は父兄の寄付に頼っているため、給食を運営できない学校がとても多い。その結果、給食を食べることができない子供達はドロップアウトせざるをえず、満足に教育を受けられない子供が増え、その結果、低収入の職業にしかつけないという悪循環に繋がっている。そこでADIMAは日本の戦後にもあった「学校菜園」で大豆を栽培し、その大豆を現地の身近な料理「クスクス」として提供することで、子供達が学校で給食を食べられるようにしたのである。また「クスクス」は小麦粉で出来た粉状のパスタだが、現地の栄養士と協力して、焙煎大豆(きな粉)を加えたクスクスを開発した。この大豆給食で子供が1日に必要とするたんぱく質の76%を摂取できるようになったのである。2020年は15校に大豆学校菜園・給食事業を導入することができ、4000人の子供たちが大豆給食を食べている。
これまで多くの子供たちがドロップアウトしていたが、このADIMAの取り組みによって学校に通えるようになり、教育を受けられるようになった。つまり、農業に取り組むことが従来の「2.飢餓をゼロに」だけでなく、大豆給食によって学校に通えることで「4.質の高い教育を」に繋がり、さらには教育を受けることによって「1.貧困をなくそう」に繋がっているのである。
ADIMAの取り組みの舞台はアフリカであるものの参考になる点が多い。ただ農業だから「2.飢餓をなくそう」だけに取り組むのではなく、農業を起点に様々なターゲットに波及していくことができるのである。つまり、本当の意味でのSDGsとは「17のターゲットのどれに自社の取り組みが当てはまるのか」ではなく、自社の取り組みを通して「17のターゲットのどの項目に派生していくのか」という視点で考えることが重要であり、農林漁業分野はSDGsのどの項目にも派生していく可能性があると考えている。
※参考資料:ADIMAのクラウドファンディングの取り組みhttps://readyfor.jp/projects/bf2021