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2022年1月31日

コロナ禍で求められる「食育」から「食農教育」への転換

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 「食育」の筆頭として挙げられるのが「学校給食」ではないだろうか。全国各地で学校給食にて地場産農産物を使用する地産地消が進められており、さらには有機農産物による「有機学校給食」を目指す地域も出てきている。しかし、その一方でコロナ禍により「学校給食」および「食育」が危機に晒されている。今回はその「食育」をテーマに述べたい。

◆「孤食」&「黙食」が続く学校給食

 私が懸念しているのは「学校給食」である。私の娘は新型コロナウイルスの感染拡大が本格的に始まった2020年4月に小学校に入学し現在2年生である。少し前の学校給食のイメージは生徒達が机を向かい合わせて班になってみんなで楽しく食べるイメージではないだろうか。しかし、コロナ禍での学校給食は状況が一変しており、娘はいまだに班になって学校給食を食べたことがない。授業と同じように前を向いて黙って食べている。つまり一人で食べる「孤食」と黙って食べる「黙食」がスタンダードになっているのである。
 また、少し前にはある地域の小学校の学校給食が「コッペパン&ジャム、牛乳、デザート」、中学校では「コッペパン&ジャム、牛乳、チーズ、デザート」という簡易給食になったことが波紋を呼んだ。他の地域が休校や分散登校の対応をする中で、「全員を学校に登校させる」ための工夫だったことはもちろん理解できる。しかし、その一方で、学校給食の目的の一つである「食育」が失われてしまいつつあるように感じる。

図表1 コロナ禍による学校給食の変化

◆「食育」における学校給食の重要性

 学校給食は単に農畜水産物を調理して給食として提供しているのではない。学校給食を作るためには学校栄養教諭(栄養教諭)が給食の栄養バランスを考えながら献立を作り、それに基づいてその食材となる農畜水産物を仕入れる。逆に出荷する生産者側は献立と擦り合わせながら出荷計画を立てている。学校給食は学校だけでなく地域の生産者まで含めて多くの人の支えによって成り立っている。一方、子供達には当然好き嫌いがあり、特に野菜嫌いの子供は多い。今までであれば、クラスメイトを一緒にワイワイ食べることで、嫌いなものも食べることができたかもしれない。
 また、これまでは学校給食に協力している生産者が「食育」の授業として登壇して野菜作りの苦労や想いを伝え、一緒に給食を食べるというシーンも多くみられた。しかし、コロナ禍によって生産者との交流がなくなり、さらに「孤食」&「黙食」の中で嫌いなものを食べようとするだろうか。それどころか、学校給食自体が「楽しくない時間」として悪いイメージになってしまうのではないかと危惧している。

◆「食育」から「食農教育」への転換

 改めて注目したいのが農林漁業の現場での「食育」である。これまでも「お米作り(稲作)」や「農産物の収穫体験」は行われてきた。しかし、学校給食がこれまでのような「食育」ができない中で、これまでの「収穫体験」から一歩踏み込んで、長期的なスパンで農林漁業の現場を生徒達に体験させ、さらに出来上がった農産物が「農産物」から「食品」へと変わるプロセスまで体験させる。生徒達は自ら生産から消費に至るまでのプロセスをプログラム化することによって生産者の苦労や食品への加工する作り手の苦労までを体験することができる。つまり、従来の「食育」からより実践的な「食農教育」への転換を図るのである。

◆菓子屋と高校の連携による「食農教育」のプログラム化

 「食農教育」の事例として、岐阜県恵那市で菓子屋でありながら自社でも栗の生産に取り組む㈱恵那川上屋と岐阜県立恵那南高校の取り組みを紹介したい。
 岐阜県恵那南高校では2016年に恵那南高校魅力化プロジェクト推進事業として恵那市および㈱恵那川上屋と3社で連携協定を結び、「6次産業学習」として、学年ごとにプログラム化した。1年生は1年を通して栗畑を訪問して栽培(生産)から収穫までの作業体験を、2年生は収穫した栗の栗の甘露煮への加工体験、そして3年生は収穫した栗を使用したメニューの考案から実際に商品化するまでを担当する。3年生が実際に商品を考案する際には㈱恵那川上屋の鎌田社長に対して3年生がプレゼンテーションをするなど内容も実際のビジネス同様に実践的である。そのようにして開発された商品は㈱恵那川上屋でも販売される。さらに、地元の小中学校の給食メニュー開発にも取り組んでおり、高校生が考えたメニューを地域の後輩である小中学校の給食に提供される。
 コロナ禍がいつ収束するかいまだに先が見えない中で、学校給食による「食育」が従来の状態に戻るのがいつになるかわからない。だからこそ、「密」を回避できる農林漁業の現場でこそできる「食農教育」が注目されるのではないだろうか。

図表2 恵那南高校魅力化プロジェクト

図表3 恵那南高校魅力化プロジェクト全体図

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