2022年11月30日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
日本には四季があり、春夏秋冬で収穫できる農林水産物は多種多様である。その中でも秋は気候的にも収穫体験の時期に適しており、全国各地で様々な観光体験が展開されている。しかし、観光農園が増える中でどう差別化をするのが良いのか、悩んでいる事業者(生産者含む)は多いのではないだろうか。本稿では「体験農園」に焦点を充てて述べてみたい。
図表1は、農林水産省の「6次産業化総合調査」を基に作成した、観光農園の市場規模の推移と取扱品目の割合である。2014年度の約364億円から2018年度の約403億円へと順調に増加していたが、2019年度から減少し2020年度は2018年度から比べると約25%減少している。しかし、これは2020年以降に世界中で感染拡大した新型コロナウイルス感染症の影響によるものであることは間違いない。
また、観光農園の取り扱い品目を見ると「梨狩り」や「ぶどう狩り」といった「果実」が85.3%と圧倒的シェアを占めており、続いて「野菜」が15.0%、「ジャガイモ掘り」や「さつまいも掘り」といった「いも」が6.7%と続いている。
本題に入る前に観光農園の価値について考えてみたい。例えば、稲刈りやジャガイモ芋掘り・さつまいも掘りなど収穫してすぐに食べることは難しいので、「収穫する」という体験が付加価値になる。また、取扱品目でもトップであった果実については、「収穫する」という体験に加えて、その場で「食べる」という体験が組み合わさることによって、さらに付加価値が高まる。
なぜ、「食べる」ことに価値があるのか。一般的な果物は収穫してから市場を経由して店頭に並ぶまで時間が経ってしまうため、完熟な状態で送ると、傷んでしまったり腐ったりしまう。そのため店頭に並ぶまでの時間を計算して、熟し始めのものを収穫する場合が多い。一方、収穫体験では、完熟した果物を収穫直後に「食べる」ことができるのである。しかし、いちごであれば10個~20個も食べることはできても、りんごやぶどうなどは、収穫したものをその場で食べたとしても一個(房)か二個(房)しか食べられない人が多い。
では、一回にたくさん食べられない果物狩りで付加価値を高めるためにはどうすればよいのか。
千葉県山武郡横芝光町にある㈱アグリスリーは實川勝之社長がパティシエだったことを生かし、梨園をショーケースのように表現した自称「日本一キレイな梨園」を運営しており、梨の品種は40種類にも及ぶ。
特徴的なのが同社の梨狩りであり、まず梨狩りの前に品種の説明を受けながら梨園の中を試食しながら回る。筆者が訪問したのが10月頭の最後の時期であったが、「王秋」→「豊月」→「秋満月」→「大天梨」→「甘太」を食べさせてもらった。品種ごとに味が違うのはもちろんだが、その味についても「みずみずしい」から徐々に「濃厚な」品種へと食べ比べていくことで、味の違いもわかりやすい。その上で、自分の好きな品種を「選んで」収穫するのである。つまりアグリスリーでは「食べ比べて自分が好きな品種を選んで収穫する」ことで消費者の満足度を高めているのである。
観光農園だけでも付加価値を高める工夫はさまざまできる。しかし、最後にもう一歩踏み込んで付加価値について追及してみたい。10月頭に㈱アグリスリーに訪問した際、「梨狩り」だけでなく農園バーベキューも行った。ただの一般的な肉をメインとしたバーベキューではない。アグリスリーの周辺には田園風景が広がっており、その田んぼを眺めながら炭で火を起こして魚や地元の農産物を焼く。そして、その魚を具にしてアグリスリーが栽培した新米を炊いたご飯で「おにぎり」を自分で握った「世界に一つだけのおにぎり」を目の前に広がる田んぼを見ながら食べるのである。「焼く」「作る(握る)「食べる」という体験を組み合わせただけでなく、景観までがセットで付加価値になっている。農林漁業から距離のある消費者をターゲットにする場合には特に効果的である。このように観光農園は消費者にとって「非日常」を体験できる貴重な場所であり、その価値を最大限に生かした「体験」を提供していって欲しい。