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2022年12月21日

原料高騰下だからこそ求められる「農業経営マネジメント」

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 2022年が終わろうとしている。今年は、特に農林漁業にとっては逆風となった一年だったのではないだろうか。新型コロナウイルス感染症が収束するどころか中国でのロックダウンによる物流の混乱に加え、突如始まったロシアによるウクライナへの侵攻によって世界の物流機能が混乱、さらに円安も厳しい状況に拍車をかけている。本稿では原料高騰下における「農業経営マネジメント」の必要性について、筆者の考えを述べたい。

◆農林漁業における生産コストは軒並み高騰

 図表1~3は原油・肥料・飼料価格の推移を示したグラフである。どれも軒並み高騰しているが、原油価格は2020年当初の新型コロナウイルス感染症の拡大が始まった2020年4月の底値からは一時期6倍にも高騰、肥料(高度化成:基本成分のみ)価格も2020年から約1.6倍、2005年からは約2倍に高騰、飼料(乳用牛若齢育成用:ばら1t)価格は2020年から約1.4倍、2005年からは約1.8倍に上昇している。これらはあくまで一例にすぎず、他に資材なども軒並み高騰しており、農林漁業における生産コストが軒並み高騰している。

図表1 原油価格の推移

図表2 肥料(高度化成:基本成分のみ)価格の推移

図表3 飼料(乳用牛若齢育成用:ばら1t)価格の推移

◆マネジメントの視点で考えると経営コスト全体が上昇

 マネジメントの視点で考えると、コストの圧迫要因は生産コストだけではない。原油価格の高騰は、機械を動かすために使用するだけでなく農林水産物の運搬にも使用するため、物流費にも影響がある。段ボールなどの資材費の高騰も同様である。さらに最低賃金の上昇に加え、人手不足によって時給を上げざるをえず、人手を確保するために人件費も増えざるをえない状況となっている。その結果、損益計算書で考えると、製造原価(生産コスト)の増加によって「粗利」が下がり、さらに人件費・物流費などの販管費の増加によって「営業利益」はさらに圧迫されてしまう。特に第1次産業は販売単価が低いこともあり、そもそも営業利益率は高くない。そのため、経営コストの圧迫によって黒字だったらまだ良いが、赤字に転落してしまう農林漁業者が増えることを危惧される。

図表4 経営コストの増加が経営の圧迫要因に

◆農林水産物の「価格転嫁」の難しさ

 資材・肥料・食品メーカーなどは、原料コストが上がっていることを理由に、今年に入って軒並み値上げ実施をしている。「第1次産業側でも価格転嫁しないと割に合わない」という声はもちろん多い。しかし、それが現実的には難しいのが現状である。
 現在の既存流通システム(生産者→JA→市場→仲卸→食品・小売・外食等)では、市場(中央市場・産地市場)でセリによって値段がつけられている。つまり「需要」と「供給」によってのみ値段がつけられており原価は考慮されていない場合が多い。どんなに生産コストが上がろうが、豊作で供給量が多ければ値段は下がり、不作で供給量が少なければ価格が上がってしまうのである。※ここでは価格形成の話をしており、JA・市場が悪いという話はしていない。

図表5 国内の生鮮食品(青果)の流通構造

◆個々の農林漁業者がマネジメントをする時代に

 では、生産者が「価格転嫁」をする方法はないのか。結論から言うと「ある」。それは自ら販路を開拓して相対取引をすることである。しかし、これを提言すると「どこに売ったら儲かりますか」という質問が多い。しかし、販路と一言で言っても「加工用・青果用」「BtoB・BtoC」「高価格向け・低価格向け」「国内向け・海外向け」など選択肢はいくつもあり、それぞれが求める規格や品質なども異なる。つまり、一言で自ら販路を開拓すると言っても「自分で考えなければならない時代」となっているのである。

図表6 どこに売るかも自分で決める時代に

 新型コロナウイルス感染症については、日本でも2類から5類に下げる議論が出るなど、世界でも「ウィズコロナ」の道筋は見えてきている。しかし、ウクライナ情勢についてはまだ先がまったく見えない状況であり、原材料価格の高騰および円安がいつまで続くかわからない。「今を耐えればいつかは下がる」という人もいれば、「今の状況が3年~5年、ひいては今が常態化するかもしれない」と危惧する人もいる。先が見えない状況だからこそ、生産者一人一人がJA・市場に出すのが良いのか、直接販売するのか、直接販売するのであればどの販路に売るのが自分に向いているのかなど、そして、最終的にはどうすれば儲かるのかという経営管理(マネジメント)を考えなければいけないのではないだろうか。

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