2023年3月29日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
「SDGs」がグローバルスタンダードになり、最近ではメディアでもSDGsを題材にしたニュースや番組が増えている。それに伴って「社会課題の解決」という言葉もよく聞くようになった。実際に、農林水産省の「地域食品産業連携プロジェクト」は「社会課題の解決」と「経済的利益」の両立を目指している。しかし、筆者には「SDGs」や「社会課題の解決」が独り歩きしているように感じている。そこで、本稿では農林漁業とSDGsに関係について述べてみたい。
まずはSDGsとは何かについて解説する。SDGsとはSustainable Development Goalsの略称であり日本語では「持続可能な開発目標」と訳している。SDGsは2015年9月に開催された国連サミットで採択された2030年までの国際目標であり、17の目標と各目標を細分化した169のターゲットによって構成されている。またSDGs先進国・後進国関係なく、「誰一人取り残さない」こと目指しているという点を強調しておきたい。
SDGsという考え方が周知されたことによって、大企業・中小企業問わずSDGsに関連するビジネスが増えている。一つ例を挙げると食農分野で多いのが「フードロスビジネス(フードロスの削減)」である。実際、農林水産省によると世界では13億t、日本だけでも612万tのまだ食べられる食材が捨てられている。また、SDGsの目標12のターゲットにも「食品ロスを減少させる」と明記されている。実際に食と農林漁業の現場を見てみると、農林水産物が規格外品や食品(パンなど)の売れ残りを捨てるのがもったいないので「訳あり品」として安く売るような取り組みがSDGsとして取り上げられている。
筆者はこの「訳あり品」ビジネスはSDGsではないとずっと言い続けている。それは消費者が「訳あり品」を安く買うことによって、本来買うはずで購入するはずであった正規品の生鮮品や食品が買われなくなる。そのことによって正規品が売れ残り、また値段を下げて「訳あり品」として売られるという負のループが発生する。つまり、フードロスビジネスに取り組んだ結果、生産者や食品事業者の収入は上がるどころか下がるのである。
この話をすると「捨てるよりはマシだ!」と声が必ずある。確かに「自分さえよければ良い」という考え方であれば自社の商品を全て売り切るビジネスを否定しない。しかし、SDGsの視点から見れば「訳あり品ビジネス」は低価格競争だという時点で「持続可能」ではないし、もっと言えばSDGsの「誰一人取り残さない」からは真逆の取り組みなのである。あくまで我々が第一に考えなければいけないのが「持続可能」かどうかである。
筆者のところによくある相談として「会社から何かSDGsに取り組めと言われている。このターゲットであれば解決できると思う。」という相談が多い。しかし、筆者はターゲットから考えるとSDGsは上手くいかないと感じている。そこで次のキーワードが「社会課題の解決」である。
日本国内には食農分野でも様々な社会課題が存在している。農林漁業の現場では気候変動は喫緊の課題であるし、またに二酸化炭素や脱プラスチックなどの環境問題もある。他にも、女性活躍、食農教育、そして先述したフードロスなど様々な社会課題が散乱している。大事なのはその社会課題を自社のリソース(経営資源)を活用しながらビジネスとしてどう解決していくかであり、社会課題が解決できれば16の目標および169のターゲットに何かしら貢献できると考えていくことをお勧めしたい。
先にも述べたが日本には社会課題が溢れかえっている。特に高齢化および人口減少に直面している日本においては、地方の農村および地方の基幹産業にもなっている農林漁業をどう維持していくかは食料安全保障の観点からも真剣に考えなければならない。図表3はSDGsの17の目標に対する食農分野における取り組みを分類している。あくまで筆者の分類ではあるが、16・17以外の目標に対しては何かしら食農分野での活動が当てはまっている。
図表4のように「食と農」を軸とすると農観連携、医福食農連携、農業×スポーツ、食育・食農教育、スマート農業、再生可能エネルギーなど他産業との融合も可能になる。つまり、農林漁業および食分野単独では限界があったとしても他の産業と融合しながら社会課題の解決に取り組むことによって可能性は無限に拡がり、それこそがSDGsなのである。そして、短期的な視点でなく、10年後、50年後、100年後を見据えて「持続可能」な社会を自分一人ではなく地域全体を巻き込んで実現していって欲しい。