2025年1月27日
(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔
フランスはカルフールに代表される食品流通業者(スーパー等)の寡占が強い国である。そのため、農産物等の売買においても、購入者側の発言権が強くなりすぎることが懸念されていた。そこで、2018年11月にフランス政府は「農業及び食料分野における商業関係の均衡並びに健康で持続可能で誰もがアクセスできる食料のための法律」(EGalim法)を公布した。
この法律は、農家が適正な価格で商品を販売できるようにし、消費者が健康で持続可能な食品を手に入れやすくすることを目指す、とされている。
具体的な内容としては、以下があげられる。
このエガリム法は、施行後も改善が続けられた。2019年改正では、スーパーでの価格設定に関する規制が強化され小売業者は農産物の価格を不当に低く設定することができないようになり、農家に対する支払い価格を適正に設定することが義務付けられた。また、小規模農家に対して、より高い価格で商品を売るための市場アクセス支援や協同組合の活用が促進された。2021年改正(EGalim 2法案)では、動物福祉と農薬使用の規制が強化され、2022年改正(EGalim 3法案)では、小売業者が農産物の価格を低く抑えすぎないように、価格交渉の透明性と公平性が2018年よりも強化された。さらに大手企業による農産物の価格決定権に対して規制を加えた。
上記のようにEGalim法は、生産者と小売業者等の取引において、価格の透明性や公平性の確保を法制化することで強制的に「適正価格」を実現しようとするものである。
しかし、これは価格や調達、販売という企業の事業戦略の根幹を成す領域において政府が法律で介入するものであり、競争を阻害する可能性もある。本当にEGalim法のような法律が無いと適正価格は実現できないのか、日本においてはよくよく考える必要があるだろう。
むしろ、法律で規定されなくても、生産者と小売業者等がお互いの再生産を円滑に実施するために、お互いの価格形成を透明化し、適正な利益分配ができるような取り組みをしていくことが重要ではないだろうか。サプライチェーン全体で付加価値をしっかりと確保していけるような取り組みこそが、今、求められている。
とはいえ、EGalim法が目指す農業分野の透明性向上や動物福祉、食品ロス削減、農薬使用の削減といった方向性は、今後の持続的な農業生産に重要なものである。良い部分は取り入れ、我が国の農業発展を目指すべきである。