2018年7月31日
米国農業と言うと、穀倉地帯で巨大なトラクターやコンバインを駆使する近代的な姿を思い浮かべるだろう。今後、ちょっと違う風景に出合うことが見込まれている。
米国ネブラスカ大学の調査では、1960年以降、北米の大型農業機械は、毎年450キロずつ重くなっている。馬力数が大きくなり、連結して積み込む作業機械なども大型化してきた。戦車のような大きさの農機がほ場を高速で走り回り、あっという間に種まきや収穫をこなす。
作業者1人当たりの効率性は飛躍的に向上した。米国で数百ヘクタール規模のトウモロコシ農家が、ほとんど家族の労力だけで経営を営めるのは、300馬力を超える大型トラクターなど高度な農機システムを抜きには考えられない。農家の規模が拡大するにつれ、発売される農機も大型化してきた。
ところが、農機が重くなることの弊害が出始めた。土壌の圧縮(コンパクション)だ。豊かな土壌は土の粒子の合間に空気や養分、水分を保ち、微生物など多様な生物相を抱えている。長年重い農機に踏み固められることで、土壌の豊かさが失われる事例が各国でも報告されるようになった。
気候変動で厳しい気象環境が続く中、土壌の悪化はこれまで以上に農作物の作柄に影響をもたらす。土壌が持つ二酸化炭素などの温暖化効果ガスの吸収機能も低下してしまう。
大手の農機メーカーは、ほ場内ではタイヤの空気圧を自動的に下げ、道路走行の際には空気圧を戻すことで土壌への圧力を減らすなど、さまざまな工夫を凝らす。だが、農機そのものの巨大さには変わりがないため、改良効果は限定的だ。
米国の研究者らが本気で対策に取り組んでいるのが、農機の小型化だ。こう書くと「昔の姿に戻るだけか」と思われるかも知れないが、実はまったく異なる。
従来は人が操縦することを前提に農機は設計され、規模拡大に合わせて馬力数が拡大した。衛星情報や画像処理、人工知能(AI)を活用したスマート農業では、農機は無人の操作が可能となる。すでに、トラクターなどでは部分的な自動運転機能が実用化され、普及が始まっている。
無人操作が一般的になれば、大型農機の必要性は低下する。複数の小型農機をグループで自動操作できれば、効率を落とさず土壌への悪影響も避けられるからだ。
中心となっているのは米オハイオ州立大学のスコット・シーラー教授らのグループ。日本の農村で一般的な60~70馬力程度の小型トラクターに自動運転装置を載せ、小規模な作業機を接続する3Dモデル機器を開発中だという。これらの個々の機器が24時間、チームを組んでほ場でダンスをするようなイメージを提唱している。
成功のかぎを握るのはAI技術だ。道路と異なり、複雑な形状をした農地で、複数の機械が同時に効率的な作業をこなすには、膨大なデータを瞬時に処理し、機械間で情報共有できる仕組みが求められる。しかも、この分野は自動車メーカーやグーグルなども巻き込んだ最先端の技術開発が急速に進んでいる。
そう遠くない将来、小型農機がほ場をちょこまかと走り回る姿を見ることができそうだ。
(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト、山田優)