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2018年10月30日

いのしし、鹿など野生獣が急増 対策は進むが農村を襲う

 東京・赤坂にアライグマが出没して話題を呼んだが、歓迎されない鳥獣が出回るのは農山村では普通の風景だ。多くの農村で住民がいちばん頭を悩ますのが、高齢化と並んで深刻な鳥獣被害。柵の設置や捕獲などの効果で最近の統計では被害が軽減傾向にある。しかし、現場からは「まだ山を越えたという実感はない」という声も聞こえてくる。

▽大切な農作物を荒らす

 都会の人たちには見えにくいが、全国各地で鳥獣被害は人々の生活を脅かしている。田んぼや畑、果樹地の大切な農作物を荒らすほか、林地の下草を食い尽くす。山全体が立木を残して丸裸になり、生物多様性が低下したり土壌流出につながったりする。農家はせっかく育てた稲やミカン、野菜などが収穫直前に食害に遭うと、販売できなくなる。そうした状況が数回続けば、営農意欲が低下して、農地の荒廃が進む。山間地では集落の存亡にも関わるのが現実だ。
 シカやイノシシは昔から生息していたが、鳥獣被害が顕著になったのは最近25年ほどだ。推定生息数がこの間にシカで10倍、イノシシで3倍に増えた。その分、人里に降りてきて被害をもたらすようになった。。


体験ツアーに参加して罠に掛かったイノシシを見る都会の人たち(千葉県鋸南町で筆者撮影) 

▽背景に温暖化も

 被害拡大の背景には、針葉樹が増え山の中の餌が少なくなった、温暖化で生息域が広がったことなどが関連している。また、過疎地や耕作放棄地が増え、鳥獣が人里に近づきやすくなった、高齢化で狩猟者が減ったなど人間側の事情も挙げられている。天敵のオオカミがいないことも、頭数コントロールできない理由の一つとみられている。

 農水省によると、野生鳥獣による農林水産被害額は、2016年で172億円。シカ、イノシシ、サルによる被害が7割を占める。ただし、直近のピークである12年に比べ25%減った。同省の尾室義典鳥獣対策室長は次のように説明する。

▽半減目標に向け前進

 「全国でシカは300万頭ほどと推計される。繁殖を上回るペースで捕獲が進んでいるため、頭数は減少傾向にある。23年までの10年間にシカとイノシシの生息頭数を半減させるという目標に沿って進んでいると考えている」

 国は07年に鳥獣被害防止特措法を制定。最前線の市町村で防護柵の設置などに助成している。国が支援し、現場で実働部隊の中心となる「鳥獣被害対策実施隊」を設置した市町村は、今年4月時点で1183にのぼる。

 最近では埋却されることが多い捕獲シカ、イノシシを、ジビエとして利用することを後押ししている。「現場で食肉処理できるジビエカーを年内に4台そろえる」と尾室室長。シカやイノシシの商品価値が上がれば、自然と捕獲も進むという狙いがある。

▽ICT利用も

 最新情報機器の活用も現場で始まる。山中に設置したわなにセンサーや携帯電話を設置することで、見回りの手間を減らす。ドローンによる赤外線探索で獣道を特定し、効率的なわな作りに役立てる試みもある。人になれて悪知恵を付け始めた鳥獣の上を行く作戦だ。

 しかし、課題は残る。第一は全国平均で見れば被害が軽減される傾向にあっても、地域のばらつきが広がっていることだ。広い野山を駆けまわる鳥獣を相手にするには、足腰のしっかりした若い人手が欠かせない。しっかりと取り組む市町村がある半面、高齢化が進んでお手上げ状態の地域もある。

 第二には被害の多様化が進んでいること。外来侵入生物のアライグマやキョンなど目新しい害獣の対策は遅れ気味だ。

 鳥獣害は、自然と人間がどう向き合うのかという問いに突き当たる。都会の若い人たちも巻き込んだ駆除など、人間側も長い視点で知恵を絞ることが求められている。

(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト 山田優)

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