ENGLISH

CLOSE

コラム

TOP > コラム一覧 > 農業のコンプライアンス

2018年10月30日

農業のコンプライアンス

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 “コンプライアンス”という言葉は、今や誰でも知っている言葉になりました。新聞や雑誌、ネットやテレビで“コンプライアンス”という言葉を見たり聞いたりする機会は、10数年前に比べて格段に増えました。
これだけ”コンプライアンス“という言葉が一般的になった背景の一つとして、今も昔も企業の不祥事が次々に発覚していることが挙げられると思います。こういった不祥事が明らかになるたび、「コンプライアンスが大切だ」と言われています。

”コンプライアンス“とは

 このように一般的になった“コンプライアンス”という言葉ですが、皆さんは“コンプライアンス”という言葉の意味をどのようにとらえているでしょうか。
 多くの場合、“コンプライアンス”には「法令遵守」という訳語がかっこ書きで付けられています。「法令遵守」とは、その言葉を見れば明らかなように、法律などの法令を守るという意味です。しかし、“コンプライアンス”が単に法令を守ることだとしたら、わざわざカタカナで言い換える意味があるのでしょうか。
 国会や地方自治体の議会で制定された法令を守ることは、いわば当然のことです(実際に法令が守られているか、という問題はありますが、少なくとも法令は守らなければならないという意識がほとんどの人にあることには賛同していただけるのではないかと思います。)。
そして、“コンプライアンス”という言葉が日本で使われ始める前から、ほとんどの人が「法令は守らなければならないもの」と考えていました。それは、必ずしも罰則のような強制力があるからではなく、罰則がないような法令でも多くの人は法令を守ってきました。そうだとすれば、法令を守ることについて、わざわざ“コンプライアンス”と言い換える必要はなさそうです。
“コンプライアンス”とは、もともと英語の“compliance”であり、これは“comply”という動詞から来ています。そして、“comply”の訳語には一般的に「(要求などに)従う」といった意味があてられています。しかし、“comply”の語源であるラテン語のもともとの意味は、「(条件・要求などを)満たす」という意味です。
そうだとすると、“コンプライアンス”とは、単に法令を守るということにとどまるのではなく、「要求を満たす」という意味を持ったものとして使われるようになったと考えられます。だからこそ、法令遵守と言わず、わざわざ“コンプライアンス”という言葉が持ち出されたのではないでしょうか。

社会の要求を満たす

 この要求をするのは誰かというと、社会であると考えられます。事業を行う企業というのは、お米やリンゴのように触れることができる実体があるものではなく、いわば人々の想像の産物です。そのため、人々が存在する価値を認めなければ企業が人々に想像されることはなく、存在する価値がないと考えられてしまいます。
 企業は、人々、言い換えれば社会にとって存在する価値があると考えられているからこそ、その存在を認められているのであり、反対に言えば、社会は企業に対して存在するに値する要求をするのです。
 このように、”コンプライアンス“とは、「社会が要求することを満たすこと」を意味すると考えるべきではないでしょうか。

農業のコンプライアンス

 前置きが長くなってしまいましたが、では農業のコンプライアンスはどのように考えればよいでしょうか。
 まず、“コンプライアンス”が「法令遵守」の意味ではないといっても、もちろん法令遵守がどうでもいいということではありません。むしろ、法令遵守は最低限の社会からの要求ですので、法令を守ることは当然です。
 そのため、農地法や労働法といった法令を守ることが手始めとなります。こういった法令は条文に明記されていることから、その法令に従うことはそれほど難しいことではありません。
 次に、社会からの要求について考えていくことになりますが、それは、法令を超えて(あるいは法令が関知していない分野で)どのような要求があり、それを満たしていくかということになります。そして、農業についていえば、「地域」と「消費者」が社会の中の大きなウェイトを占めることに特徴があります。
 農業は、土地と切っても切れない関係にあり、必然的にその地域とのつながりが生まれます。また、農産物はそれを買って食べる消費者がいます。だからこそ、地域と消費者が何を求めているのかという観点で考えていくことが必要です。
 昨今は、持続可能性ということがキーワードの一つになっており、地域でも消費者にとっても、これを重視する人が増えてきています。そのため、このような観点を忘れて、たとえ違法ではないとしても、とにかく儲かるからという理由だけで環境に配慮しない農業を行っていると、地域から見放され、消費者からも見放されるかもしれません。
 この社会の要求は法令のようにはっきりしておらず、その見極めがとても難しいものです。これまでの農業では、少なくとも明確にこのような社会からの要求を意識する必要がなかったかもしれません(特に、農業は人々にとって必要不可欠な食べ物を作っているため、必然的に社会の要求に応えていたという側面があります。)。
しかし、これからは農業を経営するということが重視されていく中で、社会がその農業企業に対して何を求めているのかを考えていくこと、そしてそれに応えていくことは、他の業界と同じく求められていくことだと考えられます。
そのため、単に法令遵守にとどまらない“コンプライアンス”経営に取り組んでいくことが必要になっていくと思います。ぜひ“コンプライアンス”をこのような観点でとらえ、事業を行っていくことを考えてみてください。

年別アーカイブ