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~太陽光使わず高コスト 都市近郊で高級路線~

2018年5月24日

投機資金で急増する米国の植物工場
~太陽光使わず高コスト 都市近郊で高級路線~

発光ダイオード(LED)を太陽光の代わりにする植物工場が、米国内で急増している。都会の高所得者に、鮮度が高い「地場産」の無農薬野菜を周年供給できるというのが強み。後押しするのは投機資金の流入だ。普通の野菜栽培に比べ、生産コストははるかに高い。バブル状態のような危うさも漂う。

イケア、中東が出資

米国ニューヨーク市近郊で世界最大級の植物工場を抱えるアエロファーム社は、昨年11月に4000万ドルの資金を調達した。米国の有名レストラン「モモフク」のオーナー、スウェーデンの家具メーカー「イケア」、ドバイの首長が出資した。
アエロファーム社は、ニューヨーク州の隣ニュージャージー州内に複数の巨大な植物工場を持っているが、新たな資金を得て、建設を加速する考えだ。
成長の後押しをするのは、ビジネスチャンスに期待する投機マネーだ。

高さ 11メートルの巨大な栽培室(ニュージャージー)

高さ 11メートルの巨大な栽培室(ニュージャージー)

巨大な体育館で栽培

アエロファーム社の旗艦工場は、ニューヨーク・マンハッタンから目と鼻の先にある。機械製造業が衰退した工場地帯の一角に、広さが6500平方メートル、高さ11メートルの巨大な栽培室がある。写真を見ると、体育館のような施設に12段の棚にトレーが整然と並び、小物野菜がLEDを浴びながら成長する。
同社によると、生産するのは富裕層に焦点を当てた小物野菜とハーブ類。すでに250種類もの品種を栽培し、企業や学校のカフェテリア、高級レストランなどに納品しているという。葉物に専念しているのは、生育したすべての植物体を商品にできるからだ。トマトやイチゴなどは、果実の部分だけが商品になり、残りの茎や葉は廃棄物として無駄になってしまう。

生産コストは50倍

植物工場の場合、単位当たりの生産コストがかさむ。日本の農水省と経産省が2009年にまとめた報告書によると「植物工場の運営コスト(光熱費)は、10アール当たり1860万円」で、太陽光を利用したビニールハウス栽培の同40万円の50倍近くなる。これだけのコストを掛ける以上、生育したすべての部分を丸ごと販売するのは当然だ。
栽培棚を立体化してトレーの数を増やたり、生育期間をできるだけ短くして収穫数を上げたりする努力は続くが、無料の太陽光エネルギーを使えない以上、植物工場の高コスト体質は避けられない宿命だ。
米国内で多くの植物工場は都市近郊に設置され「地場産」を消費者に訴えることで差別化を図る。無農薬栽培も売り物だ。しかし、コストアップ分を差別化によるプレミアムで吸収できるとはとても思えない。同じように高級路線というコンセプトで誕生した日本の植物工場が、多額の補助金をもらいながらバタバタと倒産したのは記憶に新しい。

歴史浅い植物工場

植物工場の歴史は浅い。先発組と言えるアエロファーム社ですら、振り出しは2004年。投機マネーを元にして大学の研究者が起業した。今の時点で確固とした栽培技術が確立しているとは言えない。
現在のブームは、多くの新興企業が、ふんだんに流れ込む資金を頼りに、手探りで走り出している状態だ。都市の生鮮青果物の主要な担い手に成長するのか。植物工場の未来がはっきりするのは、もう少し先のように見える。

(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト・山田優)

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