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食×農の現場から
REPORT | 2019年10月19日

「食材」提供から「食生活」の提案へ~ (株)阪急オアシス「キッチン&マーケット」

近年、スーパーマーケットなどで売られている食材をその場で調理して食べることができる「グローサラント」とよばれる物販と飲食を融合させた業態の導入がトレンドとなっている。
「グローサラント」というのは、食料品や食料品店を意味するグローサリーとレストランを掛け合わせた造語。従来の店舗のように食料品や日用品を販売するだけでなく、購入したデリや惣菜などを店内で楽しめるようにし、更にはレストランに負けないクオリティの食事を、店内あるいは店舗敷地内で提供するサービスだ。

今回は、2018年(平成30年)4月にJR大阪駅ルクア大阪地下2階にグローサラント型店舗「キッチン&マーケット ルクア大阪店」をオープンし、さらに2021年(令和3年)には阪急三宮駅の再開発ビルでのさらなる展開を予定する(株)阪急オアシス(以下、阪急オアシス。)を訪問した。

同社の松元努取締役 専務執行役員(以下、松元専務。)に、グローサラント展開にかかる取り組みのお話をうかがうとともに、さまざまなメディアで取り上げられてきたルクア大阪店を見学させていただいた。

阪急オアシス・松元専務

 

■「商品」の開発から「業態」の開発へ

阪急オアシスは、その前身を阪急百貨店の食品スーパーマーケットとして、1960年(昭和35年)に設立され、現在はエイチ・ツー・オー リテイリンググループの一員として、「みんなで創る あなたの市場」をスローガンに阪急沿線および大阪市内に79店舗の食品スーパーを展開するほか、製造・加工から販売までの、グループの「食」に関連する事業を幅広く担う。従来から、「高質食品専門館」と銘打った「専門性」「ライブ感」「情報発信」をキーワードに、百貨店のようなこだわりを持ちながら、マルシェ(市場)のような賑わいづくりを展開する店舗が好評だ。

松元専務によると、食品スーパーは、高度経済成長期には「冷蔵庫の代わり」として急速な成長を遂げながら、その後の女性の社会進出等に伴い、魚の鱗を取ったり三枚におろしたりといった一次加工、いわば「台所の代わり」として機能するようになった。さらに、温めるだけで食べられる煮付けなどにあらかじめ加工することで、食卓の団らんの時間を創出する「ダイニングキッチンの代わり」を担うよう進化を続けてきた。
そして、これから超高齢化が見込まれるなか、消費者は食材を買って調理するより、少しずつおかずを買ってその場で食べることの合理性を選択することが予測されるという。阪急オアシスでは、これからの食品スーパーがこのような「リビングの機能」にも代わっていくことを視野にいれる。

一方、松元専務は、単純に仕入れて販売するということだけ見れば、食品スーパーという業態には誰でも参入ができることが「課題」と話す。実際に、近年では、コンビニ、ディスカウントストア、ホームセンター、ドラッグストア、百円ショップに加え、こだわりの食材をセレクトする小型食品専門店の台頭に加え、来店せずに自宅で欲しい物を受け取ることができる配食サービスやネットスーパーなど、さまざまな業態によって領域を侵食されてきた。

このような環境を踏まえ、阪急オアシスでは「取られる側」から「取る側」へ切り替えを図るため、「新しいマーケット」の創出が必要と考えた。2014年(平成26年)頃から検討に着手していた阪急三宮での都心型立地での店舗出店に向け、様々な事例収集等を進めていたという。
そのなかで目に止まったのが、海外視察の途中で立ち寄った各国のグローサラント。「市場」のような雰囲気のなかで臨場感をもって食事ができる楽しさに注目したが、これらの事例の多くがレストランが食小売を併設するパターンで、小売である自社がこれからグローサラントを展開する場合のコンセプト作りには細心の注意を払ったという。阪急オアシスでは、海外での研究を拡げるとともに、国内では「道の駅」なども訪れ、「買う」ところと「食べる」ところが併存する店舗の研究を続けたと話す。

 

■都心部進出へのチャレンジ

このような検討を進めるなか、当初予定の阪急三宮での店舗企画取りまとめよりも先に、2016年にJR大阪駅前のルクア大阪へ出店打診の話が飛び込んできたという。阪急オアシスにとって、大都市の駅前立地店舗は前記のとおり検討中ではあったものの、実績はなかった。オープンまでたった1年半、松元専務らによる急ピッチの準備が始まった。

都心部では、住宅街立地と違い不特定多数が集まるという来店客動向と都市生活者の喫食実態の違いを捉える必要がある。また、当然、立地にかかるコストは高く、高い効率性が求められるという難問も加わる。梅田は数々のデパートが集まり、デパ地下グルメが競い合っている。当時を振り返り、「食品スーパーのいわゆる“茶色い”お惣菜は受け入れられないだろう」と考えたと、松元専務は話す。

検討の時間が限られたなか、ルクア大阪で阪急オアシスが採用した戦略は、飲食業との「協業」でグローサラントの一体感を高めることだった。都心部での営業・集客に強い飲食専門企業とタッグを組み、小売部門の機能を活かせる連携体制を構築のうえ、飲食の部分は専門家に担ってもらうというものだ。このため、阪急オアシスでは、連携を目指す飲食企業に声をかけ、海外の先進店舗なども一緒に視察し、イメージを綿密にすり合わせていったという。

松元専務は、小売にないノウハウを飲食企業と連携することで、グローサラントという新業態のコンセプトをスムーズにまとめていくことができたと話す。両者の関係性を丁寧に構築していった結果、「誰が来るかわからない駅前立地」でも、「キッチン&マーケット」のオープン当初の食材、食事(惣菜等)、ダイニングの各部門の売上比率予測までがスムーズにできたという。

また、具体的な企画の際は、お客さまのイメージを詳細にすり合わせたという。「“市場”はもともと買えるし、食べられるし、という場所」(松元専務談)で、各地にさまざまな市場がある。ビジュアルイメージ構築にあたり、近年は海外旅行はもちろん、海外での居住経験のある日本人が増えていることから、ベースとしてヨーロッパ風の市場のイメージを固めていった。

詳細検討にあたっては3つのキーワードをたくさん列挙することで食物販と飲食業態の融合という、いままで経験のない店づくりに向けた意識合わせを進め、限られた時間の中で多くのスタッフの間から多様なアイディアを集めることができたという。

「キッチン&マーケット ルクア大阪店」開店前に用いたコンセプト群

今回うかがったこれらのキーワードはまさに、「キッチン&マーケット」の骨格を作っている。

他方、これらの取り組みにおいてはデータ活用も欠かせない。これからのスーパーマーケットの売り上げを考えていくうえで、阪急オアシスが注目しているのが「おかず比率」だ。
通常の食品スーパーでは、農産、水産、畜産の生鮮部門、デリカ・ベーカリーの惣菜部門、豆腐など日持ちのしない日配と、乾物や加工品などのグロサリーの部門に分かれる。「おかず比率」というのは生鮮加工品、惣菜に、サラダ・カットフルーツ等を加えた新たなカテゴリーという。2008年度に10%であったおかず比率が2016年度には20%にも伸長していた。2020年度には30%を目指すと話す。

 

■老若男女が集う「キッチン&マーケット ルクア大阪店」

松元専務のお話をうかがったあと、実際に「キッチン&マーケット ルクア大阪店(以下、愛称の「キチマ」と記載。)」を訪問した。
JR大阪駅に直結する駅ビル「ルクア大阪」の地下2階の一角、超駅前立地とはいえ、駅への連絡口からは若干奥まった場所にある。店舗に着くまでには、いろいろな飲食店舗がずらりと立ち並び(「ルクア バルチカ」)、歩く者の目を奪う。そこを通り抜けた先に「キチマ」があった。

ルクア大阪地下2階のフロアレイアウト図

 

キッチン&マーケットのエリアマップ

広さ573平米の売り場エリアは、7つのコーナーに分けられる。
「Merca」はイタリアの市場を意識した売り場で、2,000種類以上の輸入ワインやクラフトビールが並び、その場でピザや軽食とともに楽しむことができるスペースを備えている。イタリアから輸入した数々のチョコレートに囲まれた巨大なチョコレートタワーも目を引く。
「SWEETS AT HOME」はスイーツコーナー、「Fresh Garden」は鮮魚と精肉にフルーツとサラダ、「DELI Station」ではさまざまなジャンルのお弁当・惣菜等、「Gourmet Corner」では、全国各地のだしや調味料、おしゃれな缶詰など加工食品に日本酒・焼酎、「la Petite」は焼きたてパン。そして、これらのコーナーの真ん中に、140席の飲食スペース「Meet & Eat Square」が用意されている。食事のできるスペースは、飲食専用スペースを含めると350席ほどになる。

各コーナーはまさに市場の活気を演出した場所となっている。たとえば、「Merca」の400種類のチョコレートや多種のアルコール類など、阪急オアシスならではの仕入れ力に圧倒される。それでもまったく窮屈に感じないのは、店舗のコンセプトでもある欧風の市場(マルシェ)と広場(スクエア)の両方を備えているからだと感じる。
訪問した時には「北海道物産展」を行っていたが、一般的な催事でよく見かける物産コーナーのような個別の陳列でなく、店内のいたるところに商品を展開し、数多くの商品を扱っていた。こうすることで、通常アイテムが並ぶ見慣れた棚も新鮮さを感じ、何か見つけるためにじっくり見ようという気持ちが高まってくる。
商品仕入れは通常なら本社商品部で一括仕入れのところ、店舗の若手に裁量が与えられ、チャレンジするものもあるとのこと。目利き力の育成にもおおいに役立つと考えられる。

スイーツマーケットでは選りすぐりの商品がボリューム陳列される

旬のぶどうも盛りだくさん

店内いたるところに北海道フェア対象商品が並べられており、見つけるのが楽しい

北海道フェアで紹介するポップコーン

惣菜や弁当といった中食コーナーも、デパ地下のデリカテッセンとまったく変わらない美しさで目を奪う。しかも、スーパーならではのボリュームを全面に出した陳列はマルシェそのもので、思わず手を伸ばしたくなる。
店内トップクラスの売上を誇るサラダバーでは、さまざまな野菜やドレッシング等を用意し味わってもらうことで、店頭で販売する目新しい食材にも手が伸ばしやすい。また、サラダバー用の特別なドレッシングだけでなく、有名メーカーのおすすめ商品を実際に食べることで、ドレッシングの持ち帰り購入につながり、メーカーのプロモーション機会の拡大にもつながっているという。

大人気のサラダバー

お弁当もエスニックなどさまざまに工夫を凝らされている

フルサービスが受けられる各コーナーの飲食店スペースは、売り場からは少し奥まった場所にあり、落ち着いて食事ができるようになっている。とはいえ、物販との調和がはかられ、回遊を促される。飲食店舗はさまざまな工夫をこらして、お客さまのお腹の空き具合にあわせた商品を提供する。

店頭で一口大にカットされた肉を買い、店内でセルフBBQできる

フルサービスで供されるパスタをイートインでも食べられるよう工夫

店内では、平日午後にも関わらず、多くの人でにぎわい、スタンディングスツールでクラフトビールを何本も飲む若者や、お惣菜とワインを楽しむ地元の女性、デザートをゆっくり楽しむOLなど、たくさんのさまざまなお客さまがそれぞれの時間を楽しんでいた。
お客さまは、店内で食べていかれるだけではない。「キチマ」では、他店舗に比べ持ち帰り比率もアップしているという。小売ならではの圧倒的な仕入れ力と陳列のダイナミックさや美しさが、惣菜類の購買意欲を高めていると推察される。阪急オアシスが「小売がフードコートの谷間を埋める業態になれないか(松元専務談)」と考え抜いた答えのひとつが現れているといえよう。

「meet&Eat Square」は、キチマで購入した惣菜やアルコールなどを楽しむお客さまで一日中賑わっている

開業2年目も半ばを迎えた「キチマ」では、お客さまの動向を見ながら改良を加え、よりお客さまにフィットさせた店舗へ成長させていくという。また、自分たちで掴んだノウハウを再来年開業の三宮店など、ほかの店舗へも応用させていくという。
「不特定多数の来店が見込める「キチマ」は、(イベントを)梅田に寄せることで発信力を高めることができ、農業生産者など地域の事業者にも役に立つだろう。「キチマ」によって、自社の考え方にも幅が持てるようになった」と松元専務は先を見据える。

地域の食品スーパーは次の社会に向け、さまざまな取り組みをはじめている。阪急オアシスのさらなる取り組みに注目したい。

 

(中部支部事務局長 内田文子)

 

<会社概要>

会社名:株式会社阪急オアシス(https://www.hankyu-oasis.com

資本金:1億円

所在地:大阪府豊中市岡上の町2丁目2番3号

代表者:代表取締役社長 並松 誠