EN

CLOSE

TOP > 食×農の現場から > 【特別寄稿】若手農業経営者によるグループ化への取り組みと展望
食×農の現場から
REPORT | 2019年10月31日

【特別寄稿】若手農業経営者によるグループ化への取り組みと展望

 

<「若手農業者グループ・バトルサミット」を振り返って>

日本食農連携機構では、2017年1月から、毎年1回、3ヵ年にわたり、全国の若手農業経営者グループ有志の皆さんにお集まりいただき、「若手農業者グループ・バトルサミット」(以下、サミット。)を開催してきました。
このサミット開催により、若手農業経営者グループの皆さんが相互に生の声をぶつけ合い、目標や諸課題等を議論するひとつの場とできた点は、大きな成果と考えております。当機構としては、この成果にとどまることなく、次のステージに向けた対応に歩を進めるべく、前回開催をもって、現行の形での開催は、一旦、ひと区切りをつけることといたしました。
本稿では、サミットの事前の視察訪問や集まりの場でのアドバイス等に継続的に携わっていただいた(公財)流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室長の折笠俊輔氏に、当サミットでの取り組みの振り返りとともに、グループ化の課題等を整理していただきました。

本稿がサミットにご参加いただいた皆さんをはじめ、現在グループ化に取り組まれている方々の活動の参考となることを願うとともに、本稿へのご意見やご感想等を、是非ともFacebookグループ「若手農業者グループサミット」にお寄せいただき、新たな議論の場としていただければと考えております。

なお、当サミットにつきましては、「食農塾」に体裁を変え、初年度はエリアを東北に絞り、(株)でいたらぼ 宮川博臣代表ほかの協力を得ながら、若手生産者の皆さんの実践と事業に結びつくような企画となるよう、アグリフューチャージャパン(AFJ)鈴木参与と連携して、取り組みを進めております。こちらでの取り組み等も、随時、前記Facebookグループで発信していきたいと考えております。

※なお、文中の写真は、昨年の各グループの事前訪問の際に撮影したものの一部を掲載しております。訪問グループの様子は、前記Facebookグループにてご紹介しています。

(日本食農連携機構 田中)

 

アグリフューチャージャパン鈴木参与:挨拶(2017年)

初回(2017年)、資料

0.本稿の目的

若手の農業生産者を中心に、個人の経営の法人化が進む一方、そうした農業法人が地域内外でグループを形成する動きが活性化している。独立した若手生産者が複数集まり、法人化する、しないに関わらず互いに連携し、様々な活動を実施している。
本稿では、こうした農業者によるグループ化の特徴を整理したうえで、そのメリットや課題について論じていきたい。

 

1. グループ化の条件

まず、ここでいうグループ化について条件を整理し、定義を行いたい。日本食農連携機構では、2017年~2019年にかけて、複数の若手農業者グループへの視察訪問や、それらのグループを集めた「若手農業者グループ・バトルサミット」というイベントを実施した。そのイベントに参加した多くの若手農業者グループの取り組み内容や特徴から、本稿で述べる「グループ化」に必要な条件を以下の通り整理した。

 

グループ化に必要な条件

① 理念と目的

自立した経営を行う農業生産者が集合し、組織化するためには、集合する理由や目的が必要である。そのため、グループ化の前提条件として、グループに参画する農業生産者同士での理念と目的の共有が必須である。
考え方や信念が異なる農業生産者、経営者が一つの組織として活動していくためには、組織として目指すべき未来像や理念が必要である。同じ目的を持ったうえで、多くの個性が集まることで新しいアイデアやイノベーションが生まれてくる。

テーマ別分科会(2018年)

グループ討議(2019年)

② 対等性

グループ化をするうえで、まず重要となるのは対等性である。グループに参加する若手生産者がある程度の対等性を持っていることがグループ化の前提となる。ここである程度と表現したのは、グループには必ずリーダーが必要となるため、リーダーシップを発揮するメンバーと他メンバーという関係性は存在するためである。しかし、リーダーをはじめとするグループ内の役割分担は存在するものの、基本的にグループに参画する生産者同士は対等であることがグループ化の前提となる。そのため当然ながら、リーダーの選出や役割分担はグループ内における話し合いや、選挙、議決をもって決定されるものとなる。
この対等性があることが、特定の代表者が決まっており、その代表者を中心として、指揮命令系統が確立した形である組織(会社法人等)と一線を画す要素であるといえる。本稿で論じるグループ化の「グループ」は、このような意味で大手企業とその子会社等の関係を示す「グループ」とは異なり、連合体に近いものであるといえるだろう。

③ 活動性

グループ化で重要な要素の一つに、グループとしての活動をしっかり行うことがあげられる。活動内容は、勉強会やイベント出展、情報交換、共同販売など様々なものがあるが、グループとしての活動は、それぞれの農業経営にプラスとなるものである必要がある。
そのため、懇親のみを目的とした組織で年に数回懇親会を実施するようなものは、本稿ではグループと定義しない。グループとして実施するべき取り組みを実際に実施しているなど、活動の実態があるものだけを本稿ではグループとみなす。

④ 帰属意識

これは、参画するメンバーがそのグループのメンバーであるということを認識している必要があるということである。
メンバーであると認識、つまり帰属意識が参画する生産者それぞれの中になければ、継続して活動性を担保していくことは難しい。また、それぞれの生産者がグループに参画する大きなモチベーションとして、同年代や同地域、同業の仲間を得られることが挙げられる。グループに対しての帰属意識は仲間との絆によってもたらされるものであるため、グループ化において、そのグループへのメンバーの帰属意識は重要な要素であるといえる。

⑤ 透明性

グループとしての活動を実施していく場合、グループ運営における透明性はグループの維持・拡大にとって非常に重要な要素であるといえる。特にグループで生産物の販売や資材の共同購入を実施する場合、販売価格や仕入れ価格をグループ内で透明化し、グループとしての収益や会計情報を共有していくことが重要となる。
しっかりと資金等を管理していたとしても、経済活動における収支についての透明性を確保していない場合、参画メンバーの不満、リーダー等への不信につながる可能性がある。加えて、リーダーの選出、役割分担等についても透明性が求められる。透明性が無い場合、仮にそうでなかったとしても、特定のメンバーが優遇されているように見えてしまうことがあるためである。

⑥ 地域性

必須ではないが、多くの生産者グループは地域性を有している。その範囲は県域であることもあれば、市町村単位であることもある。範囲の大小はあれ、地域が同じ場合、顔を合わせやすいだけではなく、同じ地域に住む仲間として地域を活性化するという理念を共有しやすいメリットがある。また、気候条件等も同様であることも多く、技術的な情報交換も効果的になる。
ただし、地域だけではなく、作目や営農の方法などでグループを構成している事例もあり、地域性は必須の条件ではないと言える。例えば、輸出を目指すグループを構成する場合、最も大きな地域の範囲である日本という地域性を使ってグループ化するよりも、輸出というテーマでグループ化を図る方が効果的であるためである。
そのため、必須ではないがグループ化の目的として地域の活性化や地域農業の発展を掲げる場合、地域性や地縁は重要な要素となる。

以上の要素を踏まえ、本稿のテーマとする「グループ化」について、ここでは次のように定義する。

「グループ化とは、自立した経営を行う農業生産者たちが、共通の理念・目的のもとに集合し、自立した経営を維持しながら対等性・透明性をもった組織を立ち上げ、その組織に帰属意識を持ちながら活動することである。」

GREEN8の皆さん(熊本県八代市)

Lifeの古田さん(長野県下條村)

 

2. グループの事業範囲

ここでは、グループとして取り組むことに価値のある事業について、事例を踏まえて紹介する。グループ化する最大の意味は、個人や一経営体ではできないことをグループ化することで実施できることにある。共同で動くことで効率化できる、より高い効果をあげることができる活動を実施できることがグループ化の最大のメリットである。

活動①:資材等の共同購入・共同仕入

農業資材や肥料、農薬等についてグループメンバーが共同で購入することでロットを大きくすることができるため、売り手に対しての交渉力が高まり、低価格で購入することができるようになる。一定以上のロットになること、そこに多くの生産者が参画していることから、資材メーカー等に対してのオリジナルオーダー、カスタム化対応を依頼できるケースもある。
グループとして共同で販売活動、販路拡大に取り組む場合、ブランディングの一環として、付加価値を高めるための資材(グループオリジナルの肥料や堆肥等)を独自に作成することもある。

活動②:機械等のシェアリング

同一品目を生産している場合など、機械等をグループ内でシェアすることで互いの設備投資を削減できる可能性がある。高額でかつ、年間を通して利用頻度の低い農業機械などは、共有化するメリットが大きい。ただし、同じ時期に作業が集中する場合などはスケジュール管理が煩雑になることもあり、注意が必要である。
そのため、グループによっては以下の作業の相互補助と合わせてシェアリングを行い、グループ参加者全体で作業計画を立案することも少なくない。

活動③:作業の相互補助

機械のシェアリング等と一緒に行われることも多いが、繁忙期の同一作業などを互いにサポートしあうことができる。代表例としては田植えであり、田植え機をシェアしたうえで、お互いの圃場の田植えのサポートに入ることで効率的にメンバー全員の田植えが可能になることがあげられる。

活動④:人材の融通

作目の異なるメンバー間で、繁忙期がずれる場合など、パート・アルバイト等を相互に融通しあうことができる。閑散期に自社のパートスタッフを繁忙期のメンバーの圃場支援に行かせるなどの取り組みがこれにあたる。
特定の作目で農閑期が発生してしまう場合など、アルバイト・パートスタッフの雇用の維持につなげることができる。このように人材のグループ内での融通によって、地域雇用に近い形をつくることが可能となるが、雇用保険や賃金支払の手続きが煩雑になることもあり、注意が必要である。

活動⑤:共同販売・販路開拓

グループメンバーが共同で出荷・販売をする取り組みである。実施にあたっては、グループが任意団体である場合などは、商取引の円滑化のためにグループメンバーで販売会社を別途立ち上げることも少なくない。
共同販売では、単一品目の場合は個々で対応しきれないロットに対応できるようになるメリットがある。品目が異なる場合でも、周年で供給できることによるバイヤーへの交渉力の強化や、品揃えの充実による売り場の確保、グループとしてのブランド構築による販売機会の創出が可能となる。

ルミネアグリマルシェでの販売(Life)

グループの生産者訪問(toppin)

活動⑥:教育・学習機会の提供

グループメンバーの多くが抱える課題などをテーマに、それに対する勉強会や研修会を開催する取り組みである。テーマに合わせて外部講師を招聘して実施することもあれば、グループメンバーで相互に技術研鑽を行う場合もある。
個人では呼ぶことが難しい講師をグループであれば呼べるメリットがある(資金的にも)。また、視察研修などを実施する場合も、グループ化されていることで対応してもらいやすいメリットがある。

活動⑦:ブランディングや広報活動

グループとして一緒にブランディングや広報活動を行うことが可能となる。地域の冠を使ったブランディングを実施する場合など、自分のみではカバーすることが難しいブランド構築が可能になる。
また広報活動の面においても、グループ化することでイベント出展などにつき作目を変えて年間を通じて実施することができるようになる。こちらについては、各グループメンバーの広報活動、ブランディング活動との住み分けに注意を払い、相乗効果があるように実施していくことが求められる。

ファーマーズクラブ・赤とんぼ(山形県東置賜郡)

ファーマーズクラブ・赤とんぼ(山形県東置賜郡)

 

3. グループ化のポイント

(1)理念の共有

グループ化を進めるうえで最も重要なポイントの一つは、理念の共有である。グループ化した理由、そのグループが目指すべきビジョンをしっかりと定め、それをグループメンバーと共有する必要があり、その共有によってグループへの帰属意識が醸成される。
グループの立ち上げ当初は色々と上手くいっていたが、人数が拡大していくにしたがって、人間関係などがこじれ、うまくいかなくなる本質的な要因は、この理念共有にある。立ち上げ当初のメンバーは理念を理解し、同じ志を持つ同志として集っていたため、どのようなプロジェクトもスムーズに進めることができるが、組織や取り組みの幅が拡大していくに従って、理念の共有がなされていないメンバーが増加していくために意見の衝突などが発生し、プロジェクトがスムーズに進まなくなるのである。
ここから、グループの立ち上げ時は、理念を共有できるメンバーを絞り込み、少人数で立ち上げること、そしてグループを拡大していくときには、理念の共有ができているかをしっかりと確認してからメンバーに迎えることが重要であると言える。メンバーが急拡大している場合などは、理念がしっかりと共有できているかを確認する必要がある。

(2)透明性の確保

また、グループ化の重要なポイントとして要件でもあげた透明性があげられる。特に販売を伴うグループ形態の場合、その会計、仕入れ、販売について透明化することは必須であると言える。
メンバーが拡大した場合など、透明化されていない場合、執行部への不信感につながるためである。あいつらばかり儲けている、といった謂れなき批判を出さないためにも、透明化は重要である。

 

4. グループ化の課題

グループ化、グループの運営については、以下のような課題があげられる。

(1)フリーライダー問題

グループが拡大していくうちに、グループの資源利用や支援を受けつつも、グループの活動には参加せず、貢献しようとしないメンバーが発生する可能性がある。
これはいわゆるタダ乗り問題といわれ、タダ乗りが発生すると他のメンバーの不満につながってしまう。意図してフリーライダーをしている場合は非常に問題であり、排除を考えなければならないが、意図せず、フリーライドしてしまっているパターンも存在する。その場合は、グループのマネジメントとして、メンバーがフリーライドしないように役割を与えることも検討する必要がある。

(2)組織マネジメントの問題

グループとして活動を活発化していくほど、そのマネジメントが重要になっていく。特に複数の活動を実施する場合などは、活動ごとに責任者を定め、定期的に会合等を行い、進捗確認を行いつつ、各活動をメンバーでサポートしていける体制をつくる必要がある。
また、グループとしての意思決定のプロセスを定め、明示していく必要がある。グループとしての重要な決断を行うとき、どのようなプロセスを経て、最終的に意思決定がされるのか、可能であれば規約や定款等で定めることが望ましい。合わせて総会や役員会などの会合の位置づけも明確化しておく必要があるだろう。

(3)組織としての拘束力の問題

販売や資材の仕入れを共同で行う場合など、組織としての拘束力をどこまでもたせるのか、が課題になるケースがある。グループで販売を行う場合など、必ずグループへ出荷することを義務付ける、といった拘束の問題である。
これは、基本的にはグループとメンバーの個々の経営体は対等であるという原則から、拘束は行わないことが望ましいと言える。つまり、理想を言えば拘束などを行わなくてもメンバーが付いてくるグループ運営を行っていく必要がある。そもそも、各メンバーが理念を共有し、グループへの帰属意識を持ち、グループの活動を自らのものと認識していれば、拘束を行う必要は無いのである。

(4)個人の経営とグループ経営の関係

どれほどグループ活動が活発化しても、グループメンバーは独立した経営ができることが前提である。メンバーはグループを利用しながら個人の経営を強化し、それによってグループの活動も活発化していくことが理想であり、目標である。あくまでもベースはメンバー個人の経営にあるということを忘れてはならない。

ブレンドファーム(京都府八幡市)

なまら十勝野(北海道芽室町)

 

5. これからの展望

以上を踏まえ、これからのグループ化、グループ運営を展望する。

少子高齢化を背景に、国内マーケットの縮小が予想される中、食の産業では小売・外食産業のM&A等による集約化・大型化が進んでいる。同時に、競争が激化することによって、差別化のための付加価値の高い農産物の需要が拡大している。さらには家庭の食卓のありようが変わり、中食・惣菜などの調理済み食品の需要が広がっている。こうした環境の変化から、農業経営は定時・定量・定品質で比較的大ロットが求められるマーケットへの対応と、少量多品目、高付加価値が求められるマーケットへの対応の両方が必要な時代になった。
こうした需要に対応していくために、グループ化は大きな意味を持つ。個人で対応しきれない需要にグループで応えていくこと、品質向上や生産性向上の技術研鑽や仕組みの構築をグループ内で実施していくことなど、個人では不可能なこともグループ化することで可能になるためである。

これからのグループ化、グループ運営においては、前述したような課題をクリアしていくために、高度な経営的対応が求められるだろう。そのため、IT技術の導入(グループウェアやCRMシステム等の導入)や、専門家(法律、労務、販売、農業技術等)の活用などが必要になっていく。また、販売や仕入れなどの実務をグループで担う場合は、実際に取り組んでいるグループも出てきているが、グループそのものの法人化も視野に入ってくる。
なお、グループに求められる機能として、個人では開拓が難しい新しいマーケットの創造があげられる。輸出を含め、新しいマーケットの開拓は農業界として急務であると言える。
これからの若手農業者グループの活動に引き続き注目していきたい。

((公財)流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室長 折笠俊輔)

【参考】「若手農業者グループ・バトルサミット」への参加グループ
2017年1月;(11団体)
(株)なまら十勝野(北海道)、(株)アグリゲート東北、(有)ファーマーズ・クラブ赤とんぼ(山形)、(株)A&M、みらい学校(茨城)、信州ぷ組(長野)、夢農人とよた(愛知)、みえ次世代ファーマーズmiel(三重)、(株)ブレンドファーム(京都)、Kobe Foo Style(兵庫)、くまもとFTC(熊本)

2018年1月;(12団体)
(株)ジャパン・アグリゲート、(有)ファーマーズクラブ・赤とんぼ(山形)、ぐんまアグリイノベーション研究会(群馬)、グットファーム(山梨)、信州ぷ組(長野)、(有)恵那栗(岐阜)、夢農人とよた(愛知)、みえ次世代ファーマーズmiel(三重)、Kobe Foo Style、兵庫大地の会(兵庫)、情熱農家プロジェクトtoppin(山口)、くまもとFTC(熊本)

2019年1月;(12団体)
(株)なまら十勝野(北海道)、(株)アグリゲート東北(現(株)でいたらぼ)(山形)、信州ぷ組、Life(長野)、(株)想樹(新潟)、東美濃栗振興協議会 青年部(岐阜)、夢農人とよた(愛知)、Kobe Foo Style(兵庫)、情熱農家プロジェクトtoppin(山口)、あのか(徳島)、くまもとFTC、GREEN8(熊本)