ENGLISH

CLOSE

TOP > 食×農の現場から > 「見える化」で農業をもっと強くする 〜 (株)セラクの農業ITプラットフォーム「みどりクラウド」の挑戦
食×農の現場から
REPORT | 2020年3月2日

「見える化」で農業をもっと強くする 〜 (株)セラクの農業ITプラットフォーム「みどりクラウド」の挑戦

近年、農業界で話題の中心となることの多い「スマート農業」。その活用分野は大きく拡がりを見せており、注目度は高い。
早い時期から、圃場環境情報の見える化によってスマート農業に取り組んできた株式会社セラク(以下、セラク。)では、昨年、養豚・養鶏業者向けパッケージである「ファームクラウド」の提供を開始、耕種農業対象の「みどりクラウド」に加え、養豚・畜産事業の「環境情報の見える化」に乗り出した。
さらに、今期(2020年8月期)からは、「みどりクラウド」の目指す姿の主要パーツともいえる販売支援分野、食農データ連携プラットフォーム「みどりマーケット」の開発を打ち出している。今後、早期のサービス化を目指すとのことから、セラク本社を訪ね、宮崎龍己代表取締役にお話を伺った。

セラク・宮崎龍己代表取締役

 

我が国のスマート農業の状況

スマート農業とは、言うまでもなく「ロボット技術やICT(情報通信技術)、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)等の先端技術を活用し、超省力・高品質生産を実現する新たな農業」をいう。
農業従事者の高齢化・後継者難による労働力不足をはじめ、耕作放棄地の増加等、農業分野が抱える様々な問題を解決し成長産業化を図る試みとして、スマート農業の推進は急務とされている。国の政策においても、さまざまな技術開発・実証事業が行われるほか、気象、土壌、農地をはじめとする農業現場を取り巻くさまざまなデータを一元化するプラットフォーム「WAGRI」の整備等も進められる。

 

生産者を支え、農業を強くしていく 〜「みどりクラウド」の開発

今回、訪問したセラクは、1987年(昭62年)創業、主に企業へのITアウトソーシングサービスを展開する。東証1部に上場、2019年8月期の売上高は110億円を超える。
同社では、自社の成長分野と位置づけるDX(デジタルトランスフォーメーション)(※)部門のひとつに農業を挙げる。農業分野にもITを浸透させることで、生活を良い方向に変化させるだけでなく、既存の価値観や枠組みを覆す革新的なイノベーションをもたらすことを目指すとし、農業IoTサービス「みどりクラウド」を中核に、生産支援プラットフォームとこれから取り組む食農データ流通プラットフォームの両輪での事業成長を図る。

みどりクラウドの概要

(※)「デジタルトランスフォーメーション」とは;「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」(経済産業省が2018年12月にまとめた「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」における定義)

 

セラクが「みどりクラウド」を産学協同研究により開発したのは2015年(平27年)。「誰でも手軽に簡単にIT農業を導入できる」をコンセプトに開発・展開を進め、2020年1月現在の導入実績は全国47都道府県すべてで約2,000件にのぼっている。
「みどりクラウド」は、温度や湿度、日照量、二酸化炭素(CO2)、土壌水分などの圃場モニタリングを行う「みどりボックス」(センサー機器)と、年間計画や作業実績、収穫・出荷記録等を記録する「みどりノート」(農作業記録サービス)、それらの情報をクラウド上に蓄積し閲覧・分析ができる「みどりモニタ」(圃場環境モニタリングサービス)で構成される。

みどりボックスの外観

みどりモニタ

前述のとおり、現在はDX部門のひとつの柱として位置付ける「みどりクラウド」だが、「当社では「みどりクラウド」以前から、環境をモニタリングして栽培環境を見る技術開発をしていました」と宮崎社長は話す。まだ、世の中にIoTという言葉が普及していなかった2011年(平23年)にセラクが開発した鏡型情報端末「スマート洗面台」(鏡にAndroidを埋め込み、カメラによるヘルスケアや手をかざすだけで各種データの表示等ができる情報端末)、ついで、2013年(平25年)に開発した小型の近未来型家庭菜園機器「スマート野菜工場」は、IoTサービスの先駆けとして当時の業界やマスコミを大いに賑わせた。宮崎社長によると、「みどりクラウド」はそれらのシステム活用の延長線上にあるという。

「みどりクラウド」は「農家が買えて使える、シンプルなもの」を目指して開発された点に特色がある。しかしながら、シンプルといっても機能面では十分な機能を備え、前述のとおり圃場環境を自動計測するセンサー、PCや携帯電話上で閲覧するアプリ、データを集計・分析するクラウドサービスがラインアップされる。これだけの機能を備えつつ従来にない価格でサービスを始めたのは、同社の戦略として「(メーカーが)儲ける前に(ユーザーに)普及させるべき」という考えが根本にあったからと話す。
また、「みどりクラウド」は従来のモニタリングサービスとは一線を画すポイントがある。それは、サービス開始の早い段階から、測定したデータや圃場写真を異なるユーザ間で共有できるよう実装した点だ。もともと、篤農家といわれるような方たちの間では、互いの栽培環境について広く情報交換することは珍しくないといわれる。しかし、それまでの農業モニタリングサービスは、導入した機器が正しく動作しているかを確認する環境制御機器の付帯サービスという意味合いが強く、限られた端末で確認するだけのものが少なくなかった。高度に制御された環境下のデータは個々の経営戦略に直結する機密情報で、少なくともサービス提供側のメーカーにとっては、データをネット上のコミュニティを介しユーザ間で共有するという発想はなかったように見受けられる。

市場動向を知ることができる「営農支援」アプリの画面

セラク・みどりクラウド事業部ご担当

セラクがかつての篤農家の知恵の共有に近い形で、データそのもののやり取りすることに注目したのは、普及を加速させるためだけでなく、「(ITで)生産者を支え、農業を強くしていく」という決意のもと、個々の農業生産技術だけでなく、データを扱う農業生産者の行動やニーズそのものを幅広く観察した結果ではないかと推察する。

 

現場のITリテラシー向上こそがスマート農業普及への鍵

従来にない思い切った低価格でサービス開始した「みどりクラウド」に追随するように、最近ではモニタリングサービスの低価格化が進む。一方、セラクの悩みとして、普及には想定以上の時間がかかっていることが挙げられる。

セラクが描いていた普及シナリオは、農家と直接関わりを持つ資材販売等の農業関連企業と代理店契約を締結し、彼らに「みどりクラウド」の導入サポートを委ね、展開スピードを加速するというものだった。しかし、それがなかなか加速しない。理由は、「農家はもとより、普及させる立場にある人でさえITがなかなか使えない」という問題だ。
農家の平均年齢は66.8歳(平成30年)。彼らが設定からデータの活用までを自力で学ぶのは難しいことは、同社としても予め想定していたという。しかし、サポートを期待した農業関連企業の人々のITリテラシーが追いつかなかったことで、サービス提供企業の負荷が予想以上に高くなっていると話す。
「みどりクラウド」の導入作業自体はさほど難しいものではないという。しかし、農業をとりまく技術は多岐にわたりタテ割り化しており、導入・活用サポートを担うものと期待されていた農業関連企業等からすれば、幅広いデータ活用は「専門外」だった。さらに、今まで農業生産者の支援を総合的に担ってきた行政やJA等の普及指導員も高齢化が進む。若手への普及指導技術の継承が喫緊の課題となるなか、データ測定の意義を理解できたとしても、そのデータを活用するところまでの新たにITリテラシーを高める余裕がない様子だ。その結果、みどりクラウドを導入(活用)できているのはITへの抵抗の小さい若手農業生産者等に偏りがちで、なかなか拡がらないというのが実情だ。

宮崎社長は、スマート農業の拡大に向けては、何を置いても現場の農業普及に携わる人々へのITリテラシーの向上を進めることがポイントと力を込める。スマート農業の普及に向け、いろいろな予算等の拡充が進むなかで、この部分への支援にも目を向けることが重要ではと疑問を呈する。
国を挙げてスマート農業に取り組むための前提として、実証実験に合わせ現場のIT化を浸透させるための環境作りへの支援が重要だとする。現場レベルのオペレーション教育が進めばスマート農業が加速的に普及するとの見立ては、同社の経営方針にある「IT技術教育(人材育成)によりビジネスを創造し、社会の発展に貢献する」という考えに立脚すると言えるだろう。

セラクが「みどりクラウド」で農業IoTサービスの普及に力を入れる背景には、宮崎社長の問題意識がある。自身も地方出身という宮崎社長は、「第一次産業をITの力で復活させることで地方の雇用を創出することを願い、「みどりクラウド」の開発に踏み切った」のだと語る。同システムの普及に向けては、なお相応の時間を要するリスク等も意識しつつ、地域の再生・維持に向け、普及に向けた視線にブレはない。
加えて、生育環境のモニタリングはトレーサビリティの観点より実需側からも求められるものとなって、農業生産者だけでなく農業のサプライチェーンを取り巻く幅広い関係者への波及効果は大きいと期待は膨らむ。

 

「見守る」から「つなぐ」へ 〜農業データ流通プラットフォーム「みどりマーケット」

みどりクラウド事業では、最近1年間を見ても、蓄積されたビッグデータをデータサイエンティストが分析するサービスや、畜産向けIoTサービス「ファームクラウド」、実需者とのマッチングを拡充するための「営農支援アプリ」など多くのサービスが追加されている。足下ではさらにサービス拡充を進めるべく、農業生産者と実需者をつなぐITプラットフォームとして、前述の「みどりマーケット」のスタートに向け準備を進めている。
「みどりマーケット」は、セラクが「みどりクラウド」を介してつながっている農業生産者と、食品加工会社や飲食店等の実需者をデータで仲介するサービスだ。HACCP義務化のようにトレーサビリティ確保へのニーズが高まるなか、実需者にとって栽培状況をモニタリングできる生産者ネットワークとつながることは安定調達にも結び付く。また、天候不順等による影響もリアルタイムに共有できることの心理的な効果も期待できよう。農業生産者としても、自身の販売先との連携を深め、連携を強化させるためのデータは差別化につながるものとして魅力的だ。

みどりマーケットの概要

プラットフォームという表現には、データのやり取りそのものを重視する姿勢が現れている。現在の「みどりクラウド」は、仕組み上施設園芸での利用が中心だが、セラクではドローンでの撮影データによる収穫予測を組み合わせる等の手法で、大規模な露地栽培にも活用できるとのことだ。その他、農業用ハウスメーカーやボイラー、農機メーカーなど多彩な農業関係のプレイヤーとのアライアンス戦略が普及の鍵になると将来を見据える。

また、宮崎社長は「みどりクラウド」等従来のサービスを活用する農業生産者と、産地開拓や栽培状況等のモニタリングをしたい実需側のマッチングを狙った「みどりマーケット」を「JAの機能強化につながる仕組みにしたい」と語る。個々の農家の生産量は、家庭やレストラン等個々の消費現場には十分だが、食品加工業者の現場においては少なすぎる。加えて農産物は気象等の環境要件での収穫タイミングや量の変動が大きく、一生産者や一産地に依存するのは調達リスクが大きい。
多くの生産者を抱えるJA(JAグループ)は、大量の農産物を長期にわたり切れ目なく扱いたいスーパーや食品加工業者にとって魅力的な存在のはずだ。生産者とJAと実需者の三者が、栽培に関する基礎情報とともに日々変化する生育状況をリアルタイムなデータで共有することで、実需者の意思決定の質やスピードが格段に高まっていくことが期待できると展望する。

セラクは、「みどりクラウド」の紹介サイト上で「農業の発展は、技術の進化の歴史でもある」とし「農業はもっと強くできる、私たちはそう考えます」と語りかける。
「みどりクラウド」を導入した農業生産者からは、「アラート機能で施設の異常を検知でき大きな損失を防ぐことができた」「データを介することで父親の経験に裏打ちされた判断の理解が高まり、栽培技術向上の手がかりができた」など、手応えを示す声が各地から集まっているという。

今回のインタビューからは、導入すれば効果は大きいと自信が強く感じられ、宮崎社長の話す普及フェーズからの移行に期待は拡がる。だからこそ導入の障壁を小さくするための導入前の仕組みの整備の重要度は高い。今回のセラクの「みどりクラウド」に限る話ではなく、スマート農業の真の普及に至る道を切り拓くための環境整備が急がれる。

(中部支部事務局長 内田文子)

 

(会社概要)

会社名 :株式会社セラク
代表者 :代表取締役 宮崎龍己
資本金 :297,974,500円(2019年8月末)
従業員数:連結 2,219名(2019年8月末)
所在地 :東京都新宿区西新宿