EN

CLOSE

TOP > 食×農の現場から > 個を活かした新しい農業経営者ネットワークづくりに挑む 〜くまもとFTC
食×農の現場から
REPORT | 2020年3月27日

個を活かした新しい農業経営者ネットワークづくりに挑む 〜くまもとFTC

地域農業を支える若手農業生産者の取り組みについては、昨年12月に開催した当機構中部支部セミナーにおいて、4名の農業経営者の方々から、その取り組みや経営理念等を発表いただいた。(https://jfaco.jp/report/1515
その際には、伊那食品工業(株)塚越最高顧問を囲み活発な意見交換が行われる等、参加者の皆さんの関心が高かったことから、あらためて、それぞれの取り組みの状況等につき、順次インタビューのうえ、本欄で紹介したい。

今回は、すでに2018年(平30年)に本欄で取り上げた浅井雄一郎氏に続いて、熊本県全域に広がる若手農業経営者のネットワークである「くまもとFTC」の活動をご紹介すべくサプライジングファーマーズ(株)代表の木山勇志氏を訪ねた。

くまもとFTC事務局をつとめるサプライジングファーマーズの外観

木山勇志氏(サプライジングファーマーズ(株))

 

思い描く経営を実現するため、人のつながりをつくる

「くまもとFTC」(以下、FTCという)は、熊本県が県内の若手農業経営者の育成を目的に2010年(平22年)に立ち上げた「くまもと農業経営塾」で学んだメンバーが集まり、2016年(平28年)に設立された。
熊本県内で農業を営む20〜30代の経営者を中心とする任意団体で、FTC自体では販売等の実務は行っていない。現在、全体で約60名の農業生産者が参加しているが、構成は、会費のある「正会員」20名と、それぞれ関心のある事業に参加する「ネットワーク会員」約40名から成り立つ。
FTCは、木山氏が先の中部支部セミナーでも強調していたとおり「個々の農家の活動をグループが制約することなく、それぞれの特色を活かせるネットワークづくり」を志向する点を特色とする。FTCの規約の「目的」の項では「農業の未来を切り開くために、互いに発展し、新しい農業モデルを切り開く先駆者となることを目指す。」と語られているが、詳細の活動を細かに規定するものはない。木山氏も「経営を安定させ、ひとりではできないことができるよう、人のつながりをつくる。そのためにいろいろなプロジェクトを立ち上げ、関心のあるメンバーが参画してもらえればいい」と参加メンバーの人数には特段のこだわりはない。「お互いの困りごとをいっしょに解決したい」と言い、「ふわっとしているのが売り」と笑う。

具体的な活動として、設立当初は、果菜・葉菜・根菜の各部会での先進地視察、技術や経営の勉強会を中心に取り組んでいたが、現在、部会活動は休止中とのこと。足下では部会の区切りにとらわれず、メンバーが関心の高い内容に自由に参画できるようプロジェクト等への手上げ方式での活動に重点を移し、互いの経営革新に寄与する実践を重視していると話す。

現在FTCは、農業県熊本の広域をカバーしさまざまな品目をつくる会員が集まるという特徴を活かし、次のような活動を行っている。

① 会員数を活かす

一定の経営内容を持ちながら、品目も地域もまちまちで、法人・個人も混在し、経営規模も異なる多くのメンバーが集まる農業者グループは全国的にも珍しい。そのためか、メーカー等からさまざまな勉強会のオファーがあるという。
最近では、この勉強会から大手小売業との協業による資材共同購入の動きが進む。参加メンバーの揃う各地域で、同社の個店単位に説明会を開いたり、予約数を取りまとめたりする活動に取り組むことで、相互にwin-winの関係を構築しつつ、資材価格の低減を図る。

② 広域・多品目ネットワークを活かす

全体で7,409k㎡と広大な面積を持つ熊本県は、県内各地に様々な特産品を持つ。これを活かし、FTCでは地元の市場卸や輸出事業者等と連携し、共同物流や輸出といった各種プロジェクト等にも参画、個々では難しい販路開拓の実証事業等に取り組む。
もともとは、メンバーが相互に売り先を紹介しあうことからスタートした内容というが、食のプレーヤー全体の収益確保が厳しい状況のなかで、「買い手が喜んでメンバーの産品を買う状況を構築する」ことを発想の原点とし、うまく連携することでブレイクスルーを狙う。

 

③ 価値観の共有を活かす

グループ化には、グループにより個人や一経営体ではできないことができるようにする点にメリットがある。なかでも、様々な品目を持つ経営者が経営に対する価値観を共有できたことで、繁忙期の違い等を活かした人材の融通を含めた作業の相互補助(受委託)や農業機械のシェアリングができるようになった。さらに、FTCの看板で地元の農業高校に対する継続的な共同リクルートなども行っているという。
共同リクルートについては、個々の経営体では採用人数や頻度が限られており、高校との継続的な関係構築は難しいが、理念を共有するFTCだからこそ、グループでの募集を続けることで、採用を希望するメンバー農家がFTCとして高校との間で信頼関係をつくることができるという。加えて、就農を希望する非農家の高校生をFTCとして受け入れることで様々な経営体を見せることが可能となり、就職(農)先のイメージを広げ、生徒の希望にあった就職(農)先の選定にも貢献していると話す。

 

一方的に教わらないことで育まれる強さ

FTC創立時から中心として関わってきた(株)丸宏農園(熊本市南区・パセリ、葉物野菜)の高木利郎氏は、自身の体験からFTCの強みを「情報が自然と集まってくる」ことと語る。
それまで施設園芸を行ってきた高木氏が経営の多角化を目指し、露地栽培をはじめて2年目のこと。うまくいかずやめようかと思っていた頃、違う作目の部会の会議を聞いていて、自身が知らなかった工程があることに気づいたという。それを取り入れることで生育が見違えるように改善した。「技術面の情報交換がある。お互いがどういうことをしているか知っている。聞けば答えをもっていたり、日頃のやりとりのなかでちょっとずつ答え合わせしたり」と高木氏はその利点を語る。

高木利郎氏((株)丸宏農園)

丸宏農園で栽培するパセリ

高木氏は、FTCの役割を「自分で考えて組み立てていくことで成長する場」と言い切る。
早くから法人化が進んだ熊本県では、親の経営を着実に引き継ごうとする若手も少なくない。全国的にも有名な農業経営体も少なくないし、先輩経営者によるサポートも数多く見られる。しかし、中小規模の経営体では、まずは栽培を一から覚えること、経営はその後で、とする傾向がまだまだ強い。そうではなく、はじめから栽培も経営もなぜこういうことをしているのか、ひとつひとつを自分で考え経営を全体として組み立てていくことに意義があるというのが高木氏の考えだ。

作業でも経営でも、独りよがりにならずメンバー間で切磋琢磨していくために、プラットフォームとなる人間関係が不可欠になってくる。自分の考えを実証しようと高木氏が地域の新規就農者たちと設立した(株)アグリグランド(南阿蘇村)は「FTCの存在によってメンバーがしっかりしてきた」と話す。誰かに一方的に教わるのでなく「聞く⇔応える」という関係性が互いを成長させる。

FTC活動風景(写真提供:くまもとFTC)

FTC活動風景(写真提供:くまもとFTC)

 

くまもとFTCのこれから

農業のネットワークというと、農協にはじまり、共同出荷のような販売面でのネットワークや、農業法人協会のような法人が集まった団体、集落営農に代表されるような地縁集団といったものが思い浮かぶ。しかし、少し前から、今回取り上げたFTCのような独立した若手生産者が複数集まり、法人化する・しないに関わらず、互いに連携し様々な活動を実施するケースが各地に見られる。
グループ化の取り組みや活動に必要な条件は、当機構が開催した「若手農業者グループ・バトルサミット」参加グループの活動をもとに(公財)流通経済研究所 折笠室長に整理いただき、本欄に掲載(https://jfaco.jp/report/1412)したが、その取り組みや形態等はさまざまに及ぶ。

FTCでは、グループのメンバーの多くは、地域内では「次世代の農業経営リーダー」と目されており、自身がまず自立して農作業や営業を確立することが前提となる。そのため、理念においても個人の経営を優先することが基本だ。このため、共同出荷などで産品を集める場合にも、本業で出荷する余剰部分をまとめる形となり、買い手側にも目立ったメリットが出にくいという。一切の拘束は行っていない自由さが多くの会員を集める一方、共同で事業を行う求心力を持ちづらくなっているのが現状ともいえるのではないか。

設立4年目を迎え、さらなる成長に向け進みはじめたFTC。今後の物流やマーケットの動向をにらみつつ、消費地からやや離れた熊本という立地も勘案し、喫緊の課題として、産地加工を行うことを考えているという。
ただ、その際、これまでのように各メンバーの独自性を尊重しつつ、将来の熊本を担う農業経営体が対等にグループを組むなかで新たなビジネスモデルを創ることが可能か、興味は深まる。メンバー個々の経営を優先する「くまもとFTC」の挑戦に注目したい。

(中部支部事務局長 内田文子)

 

グループ名:くまもとFTC
共同代表 :川口貴史((株)straight代表取締役)、坂上隆也(マルタカグループ代表)
設   立:2016年(平成28年)
会 員 数:約60名