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食×農の現場から
REPORT | 2020年8月26日

農林水産省と農業経営者との「対話」 〜コロナ禍のもとでのweb会議システムを活用した意見交換〜

新型コロナウイルス感染症拡大の影響は全国の農林水産業にも広がる。依然として収束が見通せない状況にあるが、令和2年度補正予算で、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策関係経費として、「農林水産物等の販売促進、飲食業の需要喚起」「農林漁業者・食品関連事業者の事業継続・雇用維持」「農林水産物・食品の輸出の維持・促進とサプライチェーンの見直し」を柱に、5,448億円が計上され、多くの対応が進められている。(「令和2年度農林水産予算関係補正予算の概要」 https://www.maff.go.jp/j/budget/attach/pdf/r2hosei-1.pdf

これらの対策に加えられる2次補正予算の調整が大詰めを迎え、感染影響への対策が順次打ち出されていた6月初めから、当機構の声掛けにより、農林水産省(以下、「農水省」。)の全面的なご協力を受け、地域の農業経営者の皆さんと農水省との間で、web会議システムを利用した意見交換会(以下、「交換会」。)がさまざま地域の参加者を得て、計9回開催された。
今回は、緊急性のある新型コロナウィルス対応に向けて開催されたこの交換会の概要をご紹介したい。

 

web交換会開催の経緯

日頃から、農水省職員の方々が農業現場へ出かける機会は多い。農水省は農政局と都道府県段階の支局という現場を結ぶネットワークを持つ点を強みとして、日頃から地域での広報活動や情報収集に多くの職員が当たる。彼らからの情報収集はもちろん、政策立案や実施にあたっては、本省の職員もしばしば現場へ足を運ぶと聞く。
今回のコロナ対策にあたっても、感染症対策の安全衛生問題はもちろん、販売、労働力確保等のさまざまな問題が地域、作目、経営形態ごとに異なる形で噴出するなか、早急な対策立案が求められる農水省は急ぎ現場の声を聞きたいとのニーズが予想された。一方、5月25日までの「緊急事態宣言」等、往来自粛の影響で現場訪問もままならないなか、当機構としても、会員から対策等を要望する声が寄せられていたため、日頃、情報交換を行っていた大臣官房政策課(以下、「政策課」。)に、情報交換を含めた新型コロナ対策にかかるwebセミナー開催の相談をした。
この相談に対し、政策課からも、現下の状況の緊急性等も踏まえ、小グループでのweb意見交換会を(1回のセミナーではなく、)複数回開催することをご提案いただいた。加えて、開催にあたっては、日々変動する状況にタイムリーに対応できるよう、本省の会議室をお借りすることで、関係部署のご担当も直接参加も得つつ機動的な情報交換に対応するというアイデアも追加され、短期間のうちに実施の運びになった。

 

開催概要と主なやりとり

この交換会は6月〜7月初旬の間に全9回開催された。北海道から鹿児島まで各地の穀物、野菜、果樹、畜産といったさまざまな品目の農業経営者と農協や農業法人協会など農業経営の現場を支える方々など、のべ129名が参加した。
開催にあたっては、当機構と日頃交流のある方々と相談し、地域の法人協会や若手有志等々皆さんに声掛けのうえ、webでご参集いただいた。
開催にあたっては、効率的な進行に向け事前に農業経営者から質問を受け、政策課が中心となって本省担当部署による回答準備とご担当の出席等を調整いただいた。当日の意見交換は、当機構監事の鈴木利徳氏(元(一社)アグリフューチャージャパン参与)のコーディネートにより進められた。農業経営者のご都合等も勘案、夕刻17時の開始として、最長2時間(後に1時間半)と時間を限ったなか、毎回、時間超過してしまうほどの活発なやり取りが交わされた。

地域はもちろん、規模や品目も多様な経営者が集まり、質問や意見は多岐にわたった。特徴的なやりとりをいくつかご紹介したい。

○「わかりやすく」「スピーディ」な支援 〜今回の経済対策の特徴

毎回の交換会の冒頭には、全般的な対策内容を政策課から概説の後、参加者や品目等に応じた個別事項を各課のご担当の説明が行われた。2回目の座談会の後、6月12日には、第二次補正予算が成立するなど、状況が日々変化するなか、参加者の品目や規模に合わせて必要と思われるテーマをピックアップしてご説明いただいた。
品目や取り組みによって補助率が変化する「高収益作物次期作支援交付金」や、限られた人数で運営することが多く事業継続に欠かせない「農業における新型コロナウイルス感染者が発生した時の対応及び事業継続に関する基本的なガイドライン」等、参加の関心の高い事項を中心に説明が行われるなど、参加者ニーズに合わせた個別の会議運営には、特段のご配慮をいただいた。
なお、あわせて、ちょうど直前にリリースされた「MAFFアプリ」と名付けられたスマホアプリの案内も追加され、参加者を含め関係者への活用周知も行われる等、この点でもタイムリーな情報提供の機会となった。

MAFFアプリの説明(農水省資料より)

MAFFアプリの説明(農水省資料より)

※MAFFアプリの詳しい説明やダウンロード方法は、農水省のホームページをご参照ください。
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/maff-app.html

 

今回の交換会のなかで何度も聞かれたのが「わかりやすく」「スピーディな支援」というメッセージだ。今回の支援策は、従来に比べ対象条件をわかりやすくし、簡便な手続きで申請できることを特色としているという。また、申請後の速やかな支給をうたうなどスピーディな支援を約束し、農業経営者の不安解消に役立つことを強く心がけているような印象を強く受けた。

○「新しい生活様式」への対応 〜販売チャネルの変化

「東京の生協は『巣ごもり消費』で注文が増え、絶好調。農産物通販個人宅配も同じ。欠品が続いている。」とご自身の体験を踏まえたコメントもあったが、この農水省説明者の指摘のように、販売チャネルの変化が今回のコロナ禍で随所に見られているようだ。外食向け、給食が大きなマイナスとなったが、生協やスーパーのような個人向けチャネルは好調が続いているという。交換会の参加者の中にも、「給食、飲食店向けの分を地元スーパーが取ってくれた。」(東北・野菜)というような声も多く聞かれた。
農水省説明者からは、「食物摂取量は変わらない。影響の大きい飲食や観光イベント事業に比べれば、(農業は)需要先は変われども食べる人の数は同じなので影響は大きくはない。新しい生活様式のなかで、どのような消費が伸びていくのか。変化を先取りして商売のあり方を考えていかなければ。」として、参加者に向けて激励が行われた。
とはいえ、大産地のなかで外食向けに自身で販路を開拓し規模拡大を続けてきた農業経営者のなかには、地元では自社生産分を販売しきれず「いままでやってこなかったことをやった先駆的な法人が大きな影響を受けているようだ。いままで一生懸命やって、雇用に踏み切った人が打撃を受けたように感じる。」(中部、米・野菜の複合経営)として、こうした人への支援を優先すべきではという意見も見られた。このような意見に対し、説明者からは、「いま苦しんでいるのは自分で販路を開拓したり、自分で直販する努力したり、外食の取引先を見つけてきた人が多いことは理解する。どちらを(優先して)助けるか、答えは難しい。両方がんばって生産を続けてほしい。」と、国内生産者全ての生産継続に向けた支援の姿勢を強調した。

農水省 説明者の方々

説明資料の一部

 
また、大葉やわさび、茶、花きなどのように外食やイベント向けで落ち込みが大きく、個人向け販売に切り替えても供給に合うだけの需要には及ばない作目もあることも浮き彫りとなった。これらに対し、今回手当てされた「高収益作物次期作支援交付金」では、市場動向等、実際の影響を確認のうえ加算対象品目として支援するという説明は、一律の対応から踏み出して支援の実効性を高めようとする農水省の方向性も感じられた。

○出荷できるのに届けられない 〜サプライチェーンの混乱

今回、サプライチェーンが大きく影響したのは需要の変化だけではない。交通、観光需要の変化による飛行機の大幅減便、物流現場の「三密」を避けるなどの行動規範の変化により、九州や東北といった比較的大規模な経営を展開する地域から、出荷できるのに届けられないといったケースが生じた。九州地区の座談会では、「関東地区の生協向けの注文が多い。発注数量が多すぎて生協の物流がパンクして発注を受けきれなくなり、当社分がカットされた。」(カットネギ)「いちごの輸出をやっていたが、4月以降航空が減便、影響を受け出荷数量が下回った。減便で物理的に運べる量が減ったこと、運賃が高騰したことの両方で出荷数量が減った。」(若手農業経営者グループ)というチャンスを活かせなかった残念さが窺えた。
物流費に関しては、「運賃や物流費は農産物の価格の40%かかる。物流費を(ECサイト運営者でなく)農業者に支援してもらえると輸出などしやすくなる。」(東北・米、野菜・加工)という声も上がった。
また、影響は出荷だけではない。海外での感染防止策の混乱による資材や肥料などの高騰も経営に響いているという。「(飼料、資材など)慢性的に輸入に頼らざるを得ない。為替乱高下もあるがガソリンといっしょですべてのコストが上昇している。追い打ちをかけるように販売価格が下落し、販売価格の下落とコストの上昇、二重の影響が出ている。」(北海道、肉牛)との指摘も見られた。

○需要に応えるはずの規模拡大がリスクに? 〜規模拡大中の生産者への影響

近年、法人や若手で年々規模拡大を重ねている傾向が各地に見られる。取引が順調に進むほど取引先から規模拡大を求められ、施設などの設備投資がかさむため、外部環境の急激な変化によるリスク耐性は低下しがちだ。また、農産物は収穫までの時間がかかるため、数ヶ月先の見通しが立てられない中でも作付けに入らなければならない。農水省版の持続化給付金といえる「経営継続補助金」も従業員数20名以下に限られており、大規模法人や成長中の経営体は対象外となり、作目によっては厳しい状況が続く恐れがある。
また、「毎年規模拡大を続けているので、前年比としては売上が上がっているものの、(経済産業省の)『持続化給付金』の適用要件(売上が前年同月比で50%以上減少)は満たせない。売上が上がっていても先行投資しているので経営は決して楽ではない。」(複数)
「新法人を設立、この春から稼働開始したが顧客が視察に来られない。このような状況の中、今後の取引の動きが読めない。植えないとお金にならないので、見通しが立てられないなか、植えては収穫物を捨てざるを得ない状況が続いた。もともと(前年に)売上が立っていないため持続化給付金の対象にはならない。大型事業投資した者への措置はないか。」(中部、施設園芸)といった悲鳴が、地域を牽引するような農業法人から聞かれた。

○時代に合わせて変わっていく 〜域内消費へのシフト

また参加者からは、足元の支援に加え、この秋以降の需要をはじめとする中長期的な見通しに関する話題もあがった。
当面の懸念として挙げられたのは、今秋に向けての加工事業者の動きである。外食、観光需要が影響し「加工業者の今年の仕入れが少なくなる」という不安は口々に聞かれた。これに対し、農水省説明者は「価格下落がコロナの影響かどうか見極めるのは農産物価格であれば検証可能だが、食品は難しい。加工品の価格下落があると思うので、影響を広く分析して対応を検討していきたい。状況を詳しく教えて欲しい。」と応じた。

他方、今回の新型コロナへの対応のなかで、明るい兆しを見た農業経営者もいたことも、最後に補足したい。
「給食用需要がなくなった話を地元テレビで話したところ、それを見た学校の先生たちが購入に協力してくれるようになった。これまで当地域では地域からものを買う風潮が感じられなかったが、地産地消の傾向が出てきた。地元の皆さんも何か感じるところがあったのではないか。」(東北・野菜)「穀物生産を輪作のなかに加えることで、海外産、国内他地域産から地元生産への置換を目指している。海外から入ってこなくなるリスクへの対応になっている。新規就農者などと連携し、そうした作目を広げていきたい。」(東北・野菜)と、今春、農水省より発表された食料・農業・農村基本計画を視野に入れた意見も寄せられた。

 

本交換会の意義(9回を振り返って)

今回、交換会に参加した農業経営者からは、「まったくもって時間が足りない。会議で話しながらいろいろな案が浮かんできた。」(北海道)との声に代表されるように、政策立案の中枢にいる農水省職員と直接やり取りができたこと、その場で回答が得られるスピード感等に前向きな評価をいただいた。
また、本省で交換会を開催したことで、当初の狙い通り意見交換会直前に成立した新たな支援策などの情報を随時更新していただき、都度、最新の情報をご提供いただいたことの価値は大きい。交換会中に派生して飛び出した質問を、その場で関係部署に問い合わせ追加でお答えいただいたり、後日資料をお送りいただいたりしたケースも見られたことも成果といえよう。

全交換会にオブザーバー参加した当機構理事の嶋崎秀樹氏(㈲トップリバー 代表取締役社長)も「自分の仲間だけでやるのでなく、もう少し腹を割って話す機会をどんどん増やすといい。農水省の皆さんにはよい意見を聞かせていただいた。」と、この方式に手応えを感じられた様子であった。
農水省の説明者としては、政策課を中心に毎回10名弱ご参加いただいたが、参加者(現場の生産者)にとっては視察等で個別に相対することはあっても、政策を実際に立案する職員と直接対話する機会はあまり前例がない様子。ネット越しのやり取りには、時折、接続不良の発生や聞き取りにくい場面も発生したが、直接の対話に比肩する活気を感じることができた。農水省サイドからも、毎回の会の終了時には、「今日に限らずこうした機会を作っていきたい。(農業者の)みなさんが東京に来なくても意見交換できるのはいい機会。」とのコメントをいただく等、相応の手応えを残すことができたのではないか。

今回、農水省としても、「(現在の支援策に関し)その場でお答えする」ことを目指すとして、参加者側で事前に集めた質問を農水省に提出、それを受けた政策課で回答可能な部署の担当者の参加の調整を行っていただくなど、事前準備に多大な時間と労力がかかったことは想像にかたくない。農水省の全面的な協力により成立した意見交換であったが、本省のご担当者と生産者等がそれぞれの現場にいながら直に対話できたことは画期的だったといえよう。
新型コロナという特殊な事情のもとでの緊急対応の要素はあるが、このような形での交換会につき、機動的に複数回実現いただいた農水省大臣官房政策課の皆様とご協力いただいた各部局のご担当者の皆さんには、改めて御礼を申し上げたい。

(中部支部事務局長 内田文子)