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食×農の現場から
REPORT | 2020年11月16日

産地に寄り添いながら農業流通の構造変化を牽引する ~(株)でいたらぼ/ルミネアグリマルシェ

近年、オイシックス・ラ・大地や農業総合研究所など、産地・農家と実需者等を直接結び付ける新たな農業流通プラットフォームが生まれ、消費者に届けるサービスが伸長している。その多くは、これまで農業流通を担ってきた卸売業者と異なる新たなプレーヤー企業が集荷・分荷を担うことで、多くの生産者と消費者を効率的につないでいる。この春、コロナ禍による「巣ごもり需要」でこうしたプラットフォーム型サービスが大きく注目されたことは、記憶に新しい。

今回、紹介する株式会社でいたらぼ(以下、「でいたらぼ社」。)の宮川博臣代表取締役は、生産者から実需者まで、それぞれの持つデータを共有し連携することで一堂に会し、一定の流通規模を有するプラットフォームモデルを作ることを提唱する。
そのモデルが目指すのは、消費者ニーズの多様化が圧倒的なスピードで進むなか、従来からの需要者側が細かく規格を決めて大量に集めて流通させるフードチェーン型の流通システムでは実現が難しかった農業者の経営伸長に向けた取り組みだ。そのため、バリューチェーン上にあるさまざまな立場の事業者が連携してデータを共有することで、生産者も、自らの判断で大きなマーケットへの効率的なアクセスを実現していく必要があるとする。

宮川氏が提唱する農業のプラットフォームモデル

本稿では、このでいたらぼ社の構想を具現化する取り組みの一例として、宮川氏がその立ち上げ時からプロジェクトアドバイザーを務める株式会社ルミネ(以下、「ルミネ」。)の「ルミネアグリプロジェクト」を牽引する同社新規事業部の東島樹理さんと山中理紗さんにも話を伺った。

実体験から、農業流通を見つめ直す

宮川氏は新潟県出身で、大学卒業後に国内外の金融機関等に勤務した後、2003年に山形県にIターンした。当時は、とくに地方や農業に思い入れが強かったわけではなく、「忙しすぎて、好きな釣りをしたくなったんです」と、転職の背景を打ち明ける。
転職時、山形で就職したのが商系の地元農業流通業者。その現場には「不条理で不合理な社会」があったと振り返る。ただし、この状況をそれまでの自身のキャリアを活かせば変えられると感じた宮川氏は、「顔の見える産地」をキーワードに、当時、伸長著しかった産直ギフト市場に参入。精力的な営業を通じ、実績を大きく伸ばした。

でいたらぼ・宮川氏

でいたらぼファームの商品。スチューベン種のぶどうなど、産地でしか味わえないものも並ぶ

そして、このような取り組みを進めるなか、全国規模での販売展開を意識し、2010年、関係者による販売会社の設立に参画。ところが、2011年に起きた東日本大震災で東北は大きな被害を受け、宮川氏が関係する山形の業者はこの事業から撤退を判断するに至ったという。しかし、山形での事業に手応えを感じていた宮川氏は、震災直後の売るものもない中ではあったものの、引き続きこの事業を担っていくことを決意し、事業を引き継ぐ形で、2014年には株式会社アグリゲート東北(現でいたらぼ社)を設立したと話す。
現在、でいたらぼ社は、山形を拠点に全国の農産物及び農産加工品の卸売・小売業を営むとともに、これまで培ったノウハウを活かし、生産から消費までを視野に入れたコンサルティング業務に取り組む。
「顔の見える産地」の開拓と連携づくりに全国を飛び回る宮川氏が、従来の青果物流通業者の視点では考えにくいコンサルタント事業に二兎を追う形で眼を向けたのは、同氏が山形に来た時に感じた情報と流通構造のギャップを何とかしたいとの思いがあるようだ。

ここで、宮川氏が目指す「プラットフォーム」づくりの一例として、氏が2018年4月スタート当初からアドバイザーとして立ち上げ当初から関わり、着実に実績を積み重ねつつある「ルミネアグリプロジェクト」を紹介したい。

食の文化をご一緒に。 〜ルミネアグリプロジェクト

ルミネは、皆さんご存じのとおりJR東日本の首都圏のターミナル駅を中心にファッションビル等を展開する企業だ。ファッションビルの賃貸・運営を通じ、20〜30代の働く女性をメインターゲットに「the Life Value Presenter」として事業を展開する。
ルミネブランドというと、もともと農業のイメージからは遠いように感じられるが、2018年から、ファッション、ライフスタイルに次ぐ「ライフバリュー」を提案するものとして、農業をテーマとする食文化を提案する「ルミネアグリプロジェクト」(https://www.lumine.ne.jp/agri/)をスタートさせた。

ルミネアグリプロジェクトの全体図(ルミネアグリプロジェクトホームページより)

プロジェクト立ち上げの際打ち出された方向性では、「お客様への食の豊かさ」を提案するにあたり、単に「食」を訴求するだけではなく、川上まで遡り「農業」を生活者に結び付けるという視点が置かれたという。基本となるコンセプトを固めるまでは、いろいろな議論が重ねられたが、ルミネで「農業」というと「ピンと来ない」人が少なくなかったと東島さんは振り返る。
立ち上げ時には、マルシェの開催場所の確保から出店者集めなど、様々な課題をクリアし、ようやく不定期開催により新宿駅新南改札外“Suicaのペンギン広場”でのマルシェの開催を実現。その後、着実に実績を重ね、今日では新宿駅ミライナタワー改札外や南青山、横浜で定期的なマルシェ開催等に至っている。ただし、足下ではコロナ禍により、出店者の心理的なハードルが高まっている点は悩みのようだ。

新宿駅でのルミネアグリマルシェ(写真提供:ルミネ)

南青山でのルミネアグリマルシェ(写真提供:ルミネ)

マルシェを始めたばかりの頃は、遠巻きにマルシェを眺めるスタッフも少なくなかったそうだが、2年が過ぎ、今日ではルミネのネットワークや資産を活かした展開がさまざまに拡がっていると、いくつかの事例を紹介してくれた。
ユニークなのは社内マルシェだ。ルミネアグリマルシェの商品を社内で販売したところ、スタッフから大好評だったという。「みんな、青果物のことを知らないんですよね」と東島さんは笑う。

ルミネ社内で行われた販売の様子(写真提供:ルミネ)

果物の味に感動したスタッフからたくさんのメッセージが寄せられた

ルミネのスタッフは年代的にルミネの顧客層に近く、実際ルミネで買い物をすることを通じて企画を深める方も少なくないという。農業といわれてもはじめピンとこなかったスタッフが、マルシェを通じ農産物や生産者に接することで、農業への理解を少しずつ深めていく。加えて、ルミネスタッフが実際に畑を訪れ、生産者や地元の方と交流する機会も生まれていると話す。

ルミネの皆さんが山形の生産者を訪れた際のひととき。右端が東島さん(写真提供:宮川氏)

スタッフの方ご自身が発見した農産物の豊かさと喜びをお客様にも伝えようと、物販、レストランのメニュー展開等にも連動するなど、さまざまな企画が登場している。さらに、足下では、当初計画のなかでも大きなテーマとして置かれていたEC取引強化に向けても、準備を進めているという。

他方、実店舗での企画についても、素材を活かしたマルシェと飲食店舗とのコラボレーションの可能性も拡げたいと東島さんは話す。「ルミネが運営する15店舗は出店いただいているパートナー企業との関係も強い。連動できる可能性は高い」と自信をのぞかせる。その一つが、6月に横浜駅西口に開業した「ニュウマン横浜」の「2416 MARKET」(https://www.2416market.jp)。ショップで販売される神奈川の旬の野菜や果物は、今後、エリア内の飲食店でも供される等の連携を検討されているという。

会議室に貼られていたルミネの理念と行動指針。潜在的な顧客ニーズを汲み取り、「ルミネらしさ」を加えて提案する姿勢が貫かれている

ルミネ横浜店の2416マーケット。神奈川の地元で愛される商品や素材、クリエイターをルミネの視点で編集する場(写真提供:ルミネ)

東島さんたちのこのプロジェクトに向き合うスタンスは、地域や農法等に制約を設けることなく、「モノだけではなく、ヒトに会って『好き』なら、お客様に提案したい」と明快だ。栽培方法や品種にとどまらず、日々食べる生活者のことを考えて作る生産者は「めちゃくちゃコンセプチュアル」だと、東島さんたちは生産者の真摯な姿勢に寄り添い、目を輝かせる。もちろん「好き」は定量化できるデータではないが、共感と熱意、「お客さまの思いの先をよみ、期待の先をみたす。」と謳うルミネの理念からなる価値観をベースに集まる情報の厚みは、今までにない農業流通の姿を感じさせる。

宮川氏も「ルミネアグリマルシェは、生産者の販売先を拡げるひとつのきっかけにすぎない」と話す。生産者は、たまにマルシェに出店しても、その移動時間やその場での売上だけを測ると割に合わないと感じてしまうことが少なくない。売り場に立つことでお客様を知ることができると教えられても、数回経験すれば、お客様のことはだいたい理解できたと、出店から遠ざかってしまうケースも多いという。一方、ルミネアグリマルシェでは、ルミネのスタッフが売り場を回り、お客様と生産者のコミュニケーションの仲介をしてくれる。買い物を愛する販売のプロが持つ顧客と商品に対する深い愛情と好奇心によって、その場で次々と「情報」が編集されていく。この「情報」(データ)をもとに、お客さま自身もまだ出会えていない価値を農業生産者とルミネが協力して発見し、新たな提案につなげる価値観のプラットフォームが「ルミネアグリプロジェクト」から生まれていく。

「自分ひとりでできない6次化をルミネアグリマルシェで体感して欲しい」と宮川氏は訴える。

農業の流通構造は「変わらざるを得ない状況」に

この10年ほどで、少子高齢化や人口減少等に伴う消費者ニーズの多様化やEC取引の進化等々を踏まえ、農産物の流通構造を変えるべく数多くの農業ベンチャーが立ち上がったが、従来型の流通を大きく変革するには至っていない。
その背景には様々な理由が考えられようが、大きくはフードチェーンのなかで情報流が途切れていることで、生産者は作ることに専念すればよいという意識がなかなか変われないことがあるように見受けられる。そこをうまく繋ぐ役割を宮川氏やルミネが果たしていくことで、生産者と消費者、そしてさまざまな関係者が会するプラットフォームを作り上げていく可能性を、前述の「ルミネアグリプロジェクト」から強く感じられた。

一方、これまで新たな農業流通構築に取り組んできた宮川氏は、今回のコロナ禍と天候異常が従来型のチェーンモデルを変革する引き金となると予言する。
コロナ禍のもとでは、人々が外出を控え食事スタイルを変化させたことが従来型の大量物流見直しの契機となっただけでなく、巣ごもり需要で農産物宅配事業が急増し、一部に欠品を生ずる事態を発生させた。他方、長雨と高温等の想定を越える天候異常は、需給バランスを著しく崩し、品不足を招いた。この一連の出来事に、生産側や消費側だけではなく物流の制約等も加わり、従来型のフードチェーンモデルの限界を感じさせる事態が期せずして発現したようだ。また、それは一過性のものと言いきれないようにも感じられる。

想定を超える事態が当たり前となり、サプライチェーンの中で生産の増減を誰かにしわ寄せする状況が続く場合、撤退やむなしとするプレイヤーが続出し、目下の担い手不足がさらに加速することが懸念される。宮川氏はこの問題に対し、「単独の誰かが牽引するのでなく、これからはみんなで連携しながらどう変わっていくかが鍵だ」と話す。サプライチェーンのなかで個々に定められる機能や規格、生産工程のデータを共有することはもちろん、川上の農業現場から川下の消費の場にいたるまでの文化や価値観までも共有したプラットフォームを作り上げていくことこそが、宮川氏が提唱する新たな農業物流の姿と言えそうだ。
「最近、何かをやろうとしている人たちの気持ちが前に進まない。彼らの動きを前に進める、潤滑剤や接着剤になりたい」と宮川氏は語る。
大小、新旧にとらわれることなく農産物流通の全体に温かな視線を注ぐでいたらぼ社のますますの活躍を期待したい。

(中部支部事務局長 内田文子)

<組織概要>
名  称:株式会社でいたらぼ (https://datalab-farm.jp
代  表:代表取締役 宮川 博臣
事業概要:農産物及び農産加工品の卸売、小売業、農業に関するコンサルティング業務
所 在 地:
(本社出荷場)山形県西村山郡河北町西里418-1
(アグリパートナー事業部)東京都渋谷区代々木1-25-5BIZSMART代々木

 

【参考】ルミネアグリマルシェ出店概要

ルミネアグリマルシェは、毎月1回(主に第4木曜〜日曜)、JR新宿駅ミライナタワー改札外で定期的に開催される“都心型マルシェ”です。
メインターゲットは首都圏で暮らし、新宿駅を利用する20代後半~40代の女性。最近一人暮らしを始めた女性や、小さい子どもがいるママ、海外からの旅行客など、たくさんの女性に対してアプローチできます。
はじめは興味本位でも、「普段の生活に少しでもよい食べ物を取り入れたい」、そして「産地まで行きたい」になるまで、「農業」へ興味を持って頂く入口をルミネアグリマルシェは提供したいと考えています。

ルミネアグリマルシェのポイント。ターゲット層の女性を知り尽くしたルミネスタッフのさまざまなアドバイスを受けながらチャレンジできる。プロの販売者の視点を持ちながら顧客に近いスタッフの声から学ぶことが多い

<マルシェ営業時間>
毎月第4木曜〜日曜日開催。※12月開催日のみ第3木曜〜日曜日開催。
平日、土曜:13:00-20:00
日曜:11:00-18:00
(1日からでも出店可能です)
<出店者>
主な販売品が「青果」「加工品」である生産者や産地に携わる事業者、または生産者をとりまとめた自治体(自治体の依頼を受けた外部専門機関を含む)

マルシェの出店やその他「ルミネアグリマルシェ」に関するお問合せにつきましては、ルミネアグリプロジェクトのホームページにある「CONTACT」からご連絡ください。
https://www.lumine.ne.jp/agri/