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食×農の現場から
REPORT | 2023年7月21日

広い、大きいだけでない豪州農業を体感! ~ 日本食農連携機構オーストラリア視察「見聞記」

当機構では、コロナ前の2018年9月に、初の海外視察となる北米視察を実施した。その後、次の訪問先として、機構特別会員のオーストラリア大使館にアドバイスをあおぎつつ、同国視察の検討に着手したが、コロナ禍の影響を受け、先送りとなっていた。今回、コロナによる規制等も落ち着いてきたタイミングを捉えて、訪問地をビクトリア州の州都メルボルンに絞り視察計画の検討を再開。メインテーマには、南半球に位置するオーストラリアの、日本と反対になる四季を活かしたビジネスの可能性発掘を置き、その広大な農地と水資源の制約等の環境下での現地農業の実情と事前に来訪を受けたAPALやAFPAといった農業者団体から聞いた国をあげた強固なブランド戦略や輸出取り組み等の見聞を通じ、機構メンバーの新たなビジネスモデルのヒントを探ることとした。

当機構理事を中心にメンバーを募り、本年(2023年)3月、総勢11名のメンバーで、以下の行程でオーストラリアの農業関係団体や農業生産法人等の視察を行った。訪問先それぞれで特色ある取り組みや経営への考え方等を多く体感することができたが、本稿では、特に生産者団体およびその会員生産法人での見聞内容を中心にご紹介したい。

卸売市場を視察

視察先 視察先概要など
3/11 (移動日)
3/12 CERES(教育機関) 環境分野に関する教育、研究の発展を目的に設立された特定非営利法人。設立から40年、毎年50万人が来場する。
Melbourne SkyFarm “Farm to Table”をテーマにしたビル18階にある南半球最大の屋上農園施設(2,000㎡)。開業1年余り、施設整備が進行中。
3/13 Yarra Valleyワイナリー視察 メルボルンの北東に位置する広範な丘陵地帯にブドウ畑が連なるオーストラリアで最も冷涼な気候のワイン産地。
3/14 Apple and Pear Australia Limited(APAL) リンゴ、ナシ生産者をサポートする果樹業界団体。「Pink Lady」(リンゴ)等のマーケティングやライセンス管理を行う。
Montague リンゴ、ナシ、ストーンフルーツ等の大規模な果樹生産法人。自社果樹園の面積は800ha。80の契約農家からの集荷も行う。(AFPAメンバー)
Yakult Australia ヤクルトの現地製造工場(ヤクルト本社子会社)。1日の売上本数は350千本で豪州国内とニュージーランドへ輸出する。
3/15 Melbourne Wholesale Fruit Vegetable & Flower Market 南半球最大規模の市場。ビクトリア州唯一の青果物、花卉卸売市場。豪州国内には、日本でいう仲卸はなく、生産者と実需者が直接取引を行う。
Australian Fresh Produce Alliance(AFPA) 主要な農業生産者とサプライヤーからなる組織。会員全体で国内青果物売上の半分を占める。2万人以上を直接雇用する。
3/16 Queen Victoria Market メルボルン最大規模の市場。農産物~食品加工品、伝統工芸品等多種多様。
Fresh Select 豪州最大級のレタス、ブロッコリー等の生産法人。国内3カ所に生産地域を有する。(AFPAメンバー)
AGRIBIO ビクトリア州政府とLa Trobe大学との共同研究施設。アグリテック、輸出等を研究。450名のスタッフが在籍。
Costa Group 豪州最大の園芸企業(オーストラリア証券取引社上場)。グループとしてベリー、きのこ、トマト等を生産する。(AFPAメンバー)
在メルボルン日本国総領事館 ビクトリア、タスマニア、サウスオーストラリア管轄。今回の視察を通じて感じた豪州農業の印象等を意見交換。
3/17 (移動日)

 

Apple and Pear Australia Limited(APAL)

Apple and Pear Australia Limited(オーストラリアリンゴ・ナシ協会、APAL)は、リンゴとナシの生産者をサポートする非営利会員組織。Pink Lady(リンゴ)、Tenderstem(ブロッコリー)、Bimi(ブロッコリー)、Rico(西洋ナシ)など、世界的にも有名なブランド果物や野菜の知的財産等管理、品質管理指導、マーケティングで成功を収めている。
セミナーやフォーラムを通じてリンゴや洋ナシ等の果樹農業をアシストするとともに生産者への貿易機会提供に向け、駐在スタッフ(7拠点)や現地パートナー(6拠点)からなるグローバルなネットワークを有する。手数料収入の70%は世界市場へのアクセス拡充、20%はブランド保護、10%は品質管理に充てられる。非営利団体なので利益はゼロに近い水準で運営され、当団体はマーケティングと知的財産管理に、生産者は生産に、輸出入事業者は輸出入事業に、それぞれが専念することで業界全体として発展させているという。

そのなかで、特に注目されるものが「Pink Lady」。世界最大の果実ブランドであり、小売売上高US13億ドル、生産量は70万トンにのぼるという。
3品種(Rosy Glow, Lady in Red, Cripps Pink)がPink Ladyという商標使用を認められており、日本を含む14か国で生産される。厳しい国際品質基準を満たさない限り、Pink Ladyと称することはできず、中国には、20年ほど前にCripps Pinkが盗まれたこともあり、生産は許可していないという。日本のように「ふじ」という品種をブランド化するのではなく、「品質」をブランド化しているという点が興味深い。
Pink Ladyを取り扱うには輸入業者、輸出業者ともにライセンスを持っている必要があり、APALでは約300社にライセンスを供与する。また、各拠点に“マスターライセンシー”(マスターライセンス管理者)を配置(9企業、団体)して、品質を管理している。
マーケティングについて、例えばイギリスでは出版、テレビ、イベント等を通じて実施し、Pink Ladyのシェアは22%に及び、他のリンゴより8割高い価格で販売されている。中国へは2年前からオンラインで小規模なマーケティングを開始したところという。広告費は欧州全体で年23百万ユーロ(約33億円)、世界全体では年US50百万ドル(約65億円)を投入していると話す。
味の好みは各国で異なる。欧州では酸っぱいリンゴが、アジアでは甘いリンゴが好まれるが、Pink Ladyは甘くて酸っぱいリンゴとして広く受け入れられていると自信を見せる。特に東南アジアでは、30才以下の若者がPink Ladyを好んでおり、ターゲットを若者に置いているという。

日本では、このPink Ladyはまだ大きな知名度には至っていないが、すでに関係作りは進んでいる模様だ。長野県を中心とするリンゴ生産者約50名を会員として、日本ピンクレディ協会が運営されており、2021年には青森の生産者2名が参加、今後も青森の生産者を増やしていきたいという。現時点では、日本ではふじが主流でPink Ladyのシェアは小さいが、若者には嗜好の変化も見られ、商機はあると見込む。価格はふじの3割増に設定されていると話す。
日本への輸出は2019年にニュージーランドを通じて始まったが、北半球の生産者が少なく、東南アジアや湾岸諸国は12万トンの需要があり輸出を拡大したいと意気込む。現地生産プラス輸入で、1年間を通じてPink Ladyを供給することを目標としており、是非日本でも生産を増やしたいとAPALの姿勢は明確だ。

Australian Fresh Produce Alliance (AFPA)

Australian Fresh Produce Alliance (オーストラリア生鮮食品同盟、AFPA)は、オーストラリアの主要な農業生産者とサプライヤーから成り、生鮮青果物の栽培や供給に関わる問題について、小売業者や政府が議論し成果を導くために活動を行う。

AFPAメンバー全体の生産規模はオーストラリアの生鮮青果物(果物、野菜)の売上高の約半分(91億ドルの内45億ドル)を占め、生鮮青果物輸出の3分の1以上(12億ドルの内4.1億ドル)を担うという。2万人以上の従業員を直接雇用し、1千先を超える生産者とサプライヤーのネットワークを有する巨大な組織で、オーストラリアの農業界に大きな影響力を持つ。

現在、同団体では、① 豪州産農産物の主要な輸出市場へのアクセス、② 常雇用者および季節雇用者の供給、③ 農産物の賞味期限伸長や廃棄削減に有用なパッケージング開発を含む環境面での持続可能性、④ サプライチェーン内外の農産物の安全性確保、⑤ 受粉と代替受粉源の研究、⑥ 効率的かつ生産性の高い水管理を含む水の確保、に焦点をあて、日々、これらの多様な課題に取り組んでいるという。

今回の視察では、同団体の主要メンバーとの情報交換会を開催するとともに、紹介を受けて「Montague Farm」および、「Fresh Select」、「Costa Group」という個別生産者の現場を視察することができた。続けて、各農場での生産等の様子をご紹介したい。

Montague Farm

Montague Farmは1948年創業の家族経営の農場。現社長のScott Montague氏は三代目で、現在のAFPAの会長でもある。
栽培品目は、リンゴ、洋ナシ、ストーンフルーツ(プラム、桃、アプリコット等)、ブドウ、柑橘類と多岐にわたる。当社では生産だけでなく、自社農産物を中心に地元の食材を生かした料理を提供するレストランや直売所を併設する。加えて、果樹園ツアーや施設見学の場も提供する等、消費者向けPRも図りながら経営を多角化している。

自社農場の面積は800haあるが、80先もの契約農家からも農産物を集荷しており、その契約農家の圃場面積と合わせると当社が管轄する圃場面積は合わせて2,400haにも達する。日本の1経営体当たりの経営耕地面積3.1ha(2020年農林業センサス)と比較するまでもなく、そのスケールの大きさに圧倒されるばかりだ。従業員数は正規社員が350名、短期雇用が290名ほどという。売上は1億8千万豪ドル(約162億円)と、これも日本とケタの違いの規模感だ。

選果場を視察

当社の農産物は、自社便および地域の運送会社を活用してビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州のそれぞれの配送センターから国内各地の卸売店や小売店に新鮮な状態で配送される。さらに、国内販売だけでなく、輸出にも積極的に取り組んでおり、東南アジア、北アジア、中東、ヨーロッパ、カナダなどに、高級ストーンフルーツやリンゴを輸出するという。
また、オーストラリアが積極的に輸出拡大を進めている前記「Pink Lady」ブランドのリンゴをヨーロッパやアジアに輸出しているサプライヤーでもある。そして、このPink Ladyの供給に向け2020年に新設した選果施設は50レーンを備え、年間約2億個余りのパッキングが可能なキャパシティを有する。地球環境にも配慮しており、この施設で利用される水は100%リサイクル水であり、省エネ対応の最新施設となっていると説明には力が入る。

同社が生産したPink Lady

選果場 リンゴの洗浄を行っている

選果場 仕分け行程の一部

選果場 ラベリング

Fresh Select

Fresh Selectは、創業60年となる豪州最大級のレタスとブロッコリー、カリフラワー、キャベツ等のアブラナ科野菜を生産する農業法人。社長のJohn Said氏は、前AFPA会長とのことで、生産地域は、ビクトリア州メルボルン、クイーンズランド州ガットン、南オーストラリア州アデレードヒルの3か所に拡がる。
今回は、数ある圃場の中からレタスとブロッコリー農場を視察した。レタスでは、その収量は週100万玉で、生産量はオーストラリア全体の3割を占める。拝見した圃場ではレタスの収穫を18名1グループで行っており、収穫に向けたオペレーションが肝となるようだ。今回視察時に収穫作業をしていた労働者はバヌアツ人とのことだったが、オーストラリアではバヌアツと労働者協定を締結して、労働力の確保に取り組んでいるという。

レタスの収穫作業


売れ筋はベビージェムレタス(ミニロメインレタス)であり、卸値は1パック3玉入りで2ドル(≒180円)、小売価格は3.5ドル(≒315円)という水準とのことだ。

売れ筋のベビージェムレタス

 一方、ブロッコリーについては形がいいことから日本の種苗会社のタネを好んで採用しているそうで、思わぬところでの日本との関係も感じられた。3~400グラムまでに成長したら手作業で収穫するとの話で、かなりの大作業が予想される。但し、今回視察させていただいた圃場は当社の中では小規模とのことで、1週間に15万株を植え、成長度合いを見ながら3回に分けて、7名1グループで収穫しているという。

広大なブロッコリー圃場

事前に聞いていたとおりオーストラリアでは水は貴重な資源であり、畑に使用する水は購入しているという。100万リットルで700ドル(≒63千円)であり、この敷地約200haでは年間50万ドル(約45百万円)のコストがかかっているとのこと、日本の水資源の有難みを再認識した。
また、SDGsの観点から食品廃棄物の削減への取り組みが注目されているなか、当社では野菜残渣を有効活用し、国内の人々の野菜摂取量をアップさせることを目指した取り組みを進めているという。
子会社の「NutriV」(John氏の長女が社長)では、野菜残渣を粉末にした加工品を製造販売する。スプーン1杯で1食分の野菜を摂取できるとのことで、粉末という形状を活かし様々な料理に簡単に加えることができるとの説明があった。実際に、この粉末を使ったパフのスナック菓子も製造しており、手軽に野菜の栄養分を摂取できるお菓子として、未利用資源活用の次の一手の展開を図っている。

NutriV

NutriVのパフ菓子

Costa Group

Costa Groupは、オーストラリア最大の園芸企業であり、オーストラリア証券取引所に上場する。グループとして、ベリー、キノコ、トマト、柑橘類を生産しているが、今回はボタンマッシュルームと呼ばれるホワイトマッシュルームの生産施設を視察した。
生産規模は1週間に120~190万トン。季節の需要に合わせ生産量を変え、例えば、夏は消費者の多くが夏季休暇を取得し旅行に出かけてしまうこと等での需要減に合わせて、柔軟に生産調整を行っているそうだ。生産体制は400名だが、登録者としては1千名ほどを擁するという。1日25名で2シフト制、1日20時間、週7日稼働とのことで、通年生産体制を整えている。

マッシュルームのパッキング工程

マッシュルームのパッキング工程

マッシュルームは24時間で倍に成長するが、植菌してから収穫までに50日を要する。現在、48か所で栽培しており、タイミングをずらし毎日収穫しているという話だ。
今回視察した施設では、木箱式という古い栽培手法を採用しているとのことで、1箱1.9㎡サイズで45kgほど生産される。植菌から14日でマッシュルームが発芽し、収穫は1週間で2回行うという。

栽培中のボタンマッシュルーム

なお、マッシュルームは収穫後すぐに劣化が始まってしまうため、常温保存だと賞味期限は3日程度しかないとのこと。そこで、収穫後に急速冷却することで賞味期限を2週間程度まで伸ばして出荷しているという。

最後に

オーストラリアの農業というと規模の大きさだけがイメージされがちだ。今回訪問したMontagueとFresh Selectは多くの従業員を抱える大規模生産者ながら、日本とは様子の異なる「家族経営」の形態を取り、各社とも品質へのこだわりは強い。大規模なだけでなく、きめ細かく高品質の農産物を生産しているという点がオーストラリア農業の強みと言えるのではないか、と認識を新たにした。
今回の視察では本稿で述べた先以外にも、メルボルン青果・花卉卸売市場、ワイナリーの視察や現地での日本企業の活動状況等、広く見聞する機会を得られた。今回の一連の視察により、オーストラリアの先進的農業生産事情と食に関わるビジネスの一端を体感したことを活かし、あらためて特別会員であるオーストラリア大使館との連携関係の深化を図り、同国とのビジネス面での連携構築に努めたい。

(執筆:参事 平塚康彦)