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食×農の現場から
REPORT | 2024年8月29日

【アグリビジネス研究会(in 北陸)現地視察】 地域の食を支える取り組み ~(株)六星、北形青果(株)

はじめに

 今回は、令和6年度の第2回アグリビジネス研究会(北陸開催)の翌日に行われた現地視察で訪問した「六星むつぼしマーケット金沢長坂店」と近江町市場の中にある「北形青果近江町本店」の取り組みを紹介したい。
 機構では、年4回開催する「アグリビジネス研究会」のうち1回を関係する地方での開催としており、今年度は、能登復興支援の趣旨も含め、北陸(金沢)での開催となった。地方での開催の際には、広く研究会参加者にも声掛けのうえ、各地での地域の食を支える現場の視察を行っており、今回は、約30名の参加を得て、金沢の食を支える2先を訪問した。

 まず、1か所目の「六星むつぼしマーケット金沢長坂店」では、株式会社六星 代表取締役の軽部英俊氏に話を伺った。軽部代表は、石川県への移住を機に、有限会社六星生産組合(現、(株)六星)に入社、6次化への取り組みを進め、現在は代表を務める。
 続く、近江町市場では、多くの観光客でにぎわうなか、北形青果株式会社を訪問、取締役で近江町本店店長の北形謙太郎氏に話を伺うことができた。北形取締役は、加賀野菜の発信、販売促進に力を入れ、季節の加賀野菜の販売に取り組んでいる。

 

<訪問① 六星むつぼしマーケット金沢長坂店>

米の生産法人として、少しでも多くの人に食べてもらいたい

 株式会社六星(以下、六星という。)は、以前、機構HP「トップランナー紹介」でも取り上げているが、石川県白山市内に155ha(県内最大規模)の圃場を持ち、1,700枚程の農地で生産を行っている。
 説明の冒頭で、軽部代表は、「米を作り続けることは、土地を守ること」と自らの役割を話す。高齢化の波を受け、日本全国の米の生産者は減っているなかで、六星は、生産者のいなくなった田畑の生産を引き受け、生産を続けていくという。
 代表は、「米を生産し続けることが、田畑を守ることに繋がり、最終的に、米を継続的に供給することにつながる」と考える。昨今、異常気象により、発育不足や災害の被害を受け、収量が落ちたり、収穫ができても品質が高い米の収量が減少したりしており、なかなか安定的な生産が難しくなっているが、そのような環境下であっても安定供給ため、最大限の取り組みを続けている。
 生産した米は、玄米や精米での販売に加えて、餅や和菓子に加工され、自社店舗や百貨店等で販売する。これは、少しでも多くの人に自社の米を食べてもらいたい(米を通じてコミュニケーションをとりたい、「コメ・コミュニケーション」)という想いから始まった取組であり、今では、加工から始まり、小売やレストラン等まで幅広い取組に至っている。

説明をする軽部代表

どのようにしたら、米との接点を増やせるか?

 米の生産から餅や和菓子、惣菜の製造へと拡大を進めてきた六星は、自社店舗での販売にこだわりを持つ。自社店舗以外に百貨店等で販売もするが、自社店舗で販売することについて、軽部代表は、「消費者の声が直接聞こえ、とても良い」と評価する。一方で、米は食べてもらえないと良さが伝わらないため、良さをどのように伝えるのが良いか、とても悩んでいるとも話す。
 自社商品を通じた米と消費者の接点をさらに増やし、米を食べてもらい良さを伝えるための取組として、六星は飲食事業にも活動の場をもう一段拡大した。今回訪問した「むつぼしマーケット金沢長坂店」では、レストランで日替わりプレートランチも提供する。日替わりプレートの米はもちろん六星の米。ランチで自社の米を食べてもらい、美味しいと感じた消費者はその場で帰りがけに米を購入することができる点が特徴であり、興味深い。
 軽部代表は、「店舗近隣含む、県内の消費者だけでなく、県外の消費者の来店もあり、購入に繋げられている」と自信を見せる。店舗では、米だけを販売するのではなく、レストランで提供する惣菜やその他にも青果物、和菓子、加工品等、自社での生産物だけでなく、全国から厳選した商品を販売できるようになっている。消費者が自分の「米×○○○○」を発見し、購入できるよう工夫が加えられている。

様々な加工品や青果物を販売する店舗の様子

これからも続く「コメ・コミュニケーション」のかたち

 店舗では、「コメ・コミュニケーション」の1つとして、「お米のかよい袋」を提供する。かよい袋は店舗にて、お米の量り売りをしたときに、持ち運びしやすいように用意された袋で、1袋500円(税込)で購入できる。米は1回で5kgまで入れることができ、破れないように、頑丈な作りになっている。「お米のかよい袋」のデザインはシンプルで、もちろん米以外も入れることができる。丈夫であり、何でも入れることができる点から、エコバックとしても活用できるとのことで、今回の視察者にも人気を博していた。
 この「お米のかよい袋」という商品提案にも代表できるように、六星が仕掛ける「コメ・コミュニケーション」のかたちが、今後新たにどのようなものになっていくか、これからも地域の食を支える六星の取組に注目したい。

お米のかよい袋

<訪問② 北形青果 近江町本店>

地域の台所として地域の食を支える

 金沢を代表する近江町市場に、昭和5年から北形青果株式会社(以下、北形青果という。)は店を構えてきたという。近江町市場は、地域の台所として、地域住民の食を支え、今日まで賑わいが続く。犀川と浅野川に挟まれた立地であり、2つの川を通じて物が行き来することから、複数地域のものが手に入る場所であり、多くの人に親しまれてきた。
 実際に、この北形青果の店舗を訪問するとその青果物の種類の多さにとても驚く。きゅうりひとつを見ても、スーパーで見かけるようなきゅうりだけではなく、うりのような太いきゅうりなども多く並ぶ。観光客も北形青果など、近江町市場を訪れ、様々な野菜を購入していくといい、観光客や地域住民、地域の飲食店等、幅広い人に親しまれているという印象を強く受けた。
 今回、北形青果の店頭には、金時草、加賀太きゅうり、打木赤皮甘栗かぼちゃなど、今が旬の「加賀野菜」も並び、その形状が目を楽しませる。

北形青果店舗

地域の野菜(加賀野菜)とは?

 「加賀野菜」と呼ばれる在来野菜は、長く地域の人に親しまれてきた野菜である。在来野菜とは、「ある地域で栽培者自身が自家採種などで種苗の管理を行いながら栽培し、生活に利用してきた作物のこと」(引用1)を示し、「加賀野菜」は「昭和20年以前から栽培され、現在も金沢で栽培されている野菜」(引用2)のことをいう。現在は、15品目が「加賀野菜」に認定され、旬の時期に、「加賀野菜」として販売される。
 「加賀野菜」には、金時草や加賀太きゅうり、加賀つるまめ、打木赤皮甘栗かぼちゃ等が認定されており、どの野菜も独特な形や色をしており、初めて見た人には食べ方が想像できない。また、在来野菜は、病気にかかりやすい等の生産するのが難しいという問題もあり、その生産や消費を後世につなぐことは簡単ではないと話があった。

店頭での加賀野菜含む販売の様子

加賀野菜を守り続ける

 「加賀野菜」を作り続けても、食べる人や調理方法が分かる人がいないと、消費は途絶えてしまうため、北形取締役は、意識して「加賀野菜」の販売を行い、食べ方等を伝えることを通じて、「加賀野菜」を守り続けているという。訪れた観光客にも、「加賀野菜」の説明をする他、調理方法等も案内する等、購入後に「加賀野菜」を楽しんでもらえるよう力を入れる。旬の時期には、他の一般的な野菜と比較しながら販売をすることで、「加賀野菜」の特徴を伝えていると話す。
 一般的に、在来野菜は生産量が安定しないことから、なかなか一般流通せず、地域内で消費されることが多いが、「加賀野菜」は、北形青果など、近江町市場に行くことで購入可能となっている点は強みと言えるだろう。これまで大切に守られてきた特色のある「加賀野菜」が、引き続き、多くの消費者に楽しめるよう北形取締役の引き続きの取組を応援したい。

説明をする北形取締役

終わりに

 今回の視察では、主食であるコメと生産の限られた在来野菜の販売というそれぞれ地域の食を支える2つの現場を訪問した。2社がそれぞれが地域で、「コメ・コミュニケーション」や「加賀野菜」の伝承を通じて消費者との懸け橋となり、その背景には食文化や歴史的な背景等のストーリーがあることが、現地訪問を通じてみることができた。
 米の生産が適している石川の農地を守るための生産法人の工夫や「加賀野菜」が金沢で守り続ける青果店の取組等々、今回の視察を通じ、現地で見ることの大切さを感じられた。是非、皆さんも石川県を訪問した際には、この2か所をのぞいていただければと思う。

 

引用文献:(1)平成29年鶴岡在来作物調査報告書、(2)加賀野菜ブランドウェブサイト

(執筆:公益財団法人流通経済研究所 研究員 菅原彩華)

企業概要
会社名:株式会社六星(ウェブサイト
代表者:代表取締役 軽部 英俊
所在地:石川県白山市橋爪町104

会社名:北形青果株式会社
代表者:代表取締役 北形 誠
所在地:石川県金沢市駅西新町1-26-8