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食×農の現場から
REPORT | 2018年10月17日

豊かな自然とマーケットを活かし、さらなる発展を目指す  ~ サンクゼールの米国オレゴン州への進出

2018年9月、弊機構では設立10周年記念事業の一環として、会員の海外戦略検討の一助となるよう、理事会員を中心に参加を募り総勢11名による海外視察を行った。
この視察のメイン訪問先として、会員で北米に進出を行っている株式会社サンクゼール(以下、サンクゼール社という。)の現地法人であるサンクゼール・オレゴン・オーチャーズ社(以下、SCOO社という。)を訪問、久世直樹代表取締役社長のお話を伺った。

サンクゼール社のオレゴンへの進出

株式会社サンクゼール(本社;長野県飯綱町)では、2017年4月に米オレゴン州・ニューバーグにある果実加工工場を買収。同州の良質な農産物資源を活かし、高品質のジャムやコンポート等の生産・供給体制を構築するとともに、米国市場への進出を進めている。

同社のあるニューバーグはオレゴン州最大の都市ポートランドから、車で約30分。米国内でも有数のベリーやナッツの産地で、周辺には緑豊かな耕地が広がる。

オレゴン州の位置(Wikipediaより)

ニューバーグはポートランドから車で30分程度

 

サンクゼール・オレゴン・オーチャーズ社(SCOO社)の概要

SCOO社は、2017年4月にコンポート、ジャム、ジュース、業務用ドレッシングなどの加工工場(1,000坪)を周辺の30エーカー(約12ha)の農地とともに買収、取引先とともに従業員を引き継いで設立された。
サンクゼール社では、もともと生産能力の増強に向け日本国内での工場投資を計画していたが、2015年3月から、海外担当役員の久世直樹常務取締役(当時/現 取締役副社長)が米国西海岸に渡り、JETRO等の協力を得て米国の小売および業務用食品製造業の市場を調査。その結果、大きな潜在マーケットの存在を確認するとともに、大幅なコストダウンが可能となる米国での工場買収による規模拡大を決断した。

オレゴン州の位置する北米西海岸北部は世界有数の果実生産地として有名で、質の高い果樹が育つ。ここに生産拠点を置くことで、同社に近接する原料生産地を確保することができ、製品の高品質化と差別化が実現できる。
また、オレゴン州は、米国本土では日本に一番近い州であり、隣接するワシントン州シアトル港は日本への物流も盛んである。同社で作った商品を日本に送っても十分なコスト削減が可能、さらに、サンクゼール社が日本で展開する「サンクゼール」や「久世福商店」ブランドの商品を米国の優良な取引先と連携し、同国内はもとより世界各国への販路拡大も期待できる。加えてこれらをトータルで活かすことを通じ、お客さまへのメリットの最大化を目指していくという。

SCOO社工場外観(一部)

オレゴン進出の背景・経緯

今回の北米進出の“原点”は、SCOO社久世直樹代表取締役社長(サンクゼール社取締役副社長)のアメリカ留学に始まる。高校2年の当時、今後の進路を考えるなかで、父親である久世良三氏(現 サンクゼール社代表取締役会長)からの「日本の大学もいいが、海外に出るのもひとつの選択肢」とのアドバイスに背中を押され、高校卒業後すぐにアメリカに渡った。語学学校等を経て、大学で畑作とワインの勉強を修め、その後、1年間、ナパバレーのワイナリーでのインターンシップ等も経験。米国農業を下支えする移民や南米労働者との触れ合いのなかで、こういう人たちと仕事がしたい、実家の家業を海外で成長させたいと感じるようになったという。
帰国後は約15年、営業の仕事に携わり、東日本の震災による影響や反日機運が高まった中国で約3年間、現地での指揮を取られた。中国でのサンクゼール社の展開は最終的に撤退のやむなきに至ったが、逆風のなかでのさまざまな対応や工夫等、貴重な体験ができたと振り返る。

2年ほど前、直樹社長は、かねてよりあたためてきたアメリカでの事業展開の思いをご家族に相談、具体的な取り組みが始まった。
まず初めに、色々な経営者と会って、自社(サンクゼール社)の「あくまでもメーカーであり、作るノウハウが強み」という点を再確認のうえ、アメリカ進出にかかるコンセプトを定めた。進出候補としたオレゴン、ワシントン、アイダホ、カリフォルニアの4州を様々な角度から比較した。
最終的に、①地元で美味しくて質の高い、新鮮なフルーツや野菜が入手可能、②労働賃金が比較的低位、その他税金や水道・光熱費用も安い、③北米西海岸のマーケットをにらむ物流拠点機能としての優位性の観点から、最終的にオレゴン州を選択。
また、オレゴン州が米国内でも自然豊かで美しい風土としての地域ブランドが定着している点も、サンクゼール社の「カントリーコンフォート」というコンセプトにも合致、将来の海外でのブランド発信拠点としての役割も期待される。
今回の資産購入の相手方となったベリノアール(Berry Noir)社は、多数の候補先の中から選定。選定後はトントン拍子で進んだとのことであるが、選定までの交渉では仲介者との信頼関係構築がポイントとなったという。

海外進出判断の後押しとなった事情として、日本国内での生産キャパシティの限界に加え、「労働者不足」がある。サンクゼール社の国内生産を担う長野・飯綱工場の生産能力が上限に近づくなか、2交代制の導入等の検討も行ったが、人が集まらず断念。新たな生産拠点の検討のなかで、海外への生産シフトの検討が俎上にあがってきたという。現在、国内各所で聞かれる「労働力不足」がこのような形で影響に表れてきている点は、ひとつの流れとして注視されよう。

SCOO社で久世直樹社長の説明を受ける

ブルーベリーの圃場

SCOO社の事業の現状

現在、直樹社長のほか、日本からの駐在は4名。当社立ち上げの際には10数名の職員と現地での顧客を引き継いでおり、現地向けの受託生産等を継続する一方、当初計画に沿って、日本での生産品を順次、米国での生産に切り替えを進める。雇用を拡大しラインワーカー40名の体制により、20~30%の移管が実現しているという。
視察訪問の時点では、日本への販売は約6割を占めるとのことから、日米でのコスト比較が気になるところであるが、原料費は大幅に安く、対象商品の検討※を十分に行なえば、十分に日本国内での生産に見合う価格水準は確保できるという。加えて、直樹社長からの「冷凍ではなく採れたての完熟ブルーベリーを使用する美味しさの違いは大きい」と自信に満ちたコメントも印象に残る。
※ 日本向け商品の選定の大きなポイントはその商品にかかる関税率とのこと。商品により数%~20%程度までの開きがある

なお、雇用環境としては、ITでの雇用が拡大するサンフランシスコ等とは異なり、継続雇用者であれば問題なく採用ができ、人材の円滑な確保は可能。トランプ政権の管理強化により季節労働者の需給はややタイトながら、SCOO社では、手続の簡便さ等の理由から派遣会社を活用しており、特段、問題は発生していないとのこと。

SCOO社は、2017年6月には日本国内店舗向け商品の生産を開始しており、2017年夏、SCOO社(オレゴン工場)からの新商品として、「フルーツビネガー(飲む酢)」を初出荷。その後、摘みたての完熟果実を加工した「手摘みブルーベリーのコンポート」、果汁含有率80%の「トラディショナルリッチジャム(ブルーベリー、マリオンベリー、ミックスベリー等)」、2018年3月には、「カリフォルニア産トマト使用パスタソース」の日本国内店舗での販売を開始している。
また、もうひとつの目標であるSCOO社商品のアメリカでの販売についても、「飲む酢」の米国での販売に着手するなど順次取り組みが進み、米国内への卸販売(小売店へのコーナー展開)も徐々に活発化しているとのこと。それぞれのご努力を結実させ、同国での販売拡大も着実に進められている。

SCOO社で製造したサンクゼール社商品

 

ギングリッチ・ファーム(ブルーベリー)

続いて、仕入先である近隣のGingerich Farm Products 社を視察させていただいた。同社の基盤となるGingerich Farmは、1919年に設立された農場で、現在5代目。農場の規模としては、アメリカでは大きくはないとのことながら、家族経営により会社組織を構成する。現在はブルーベリー、ヘーゼルナッツを中心に穀物等の種子植物も栽培する。
1981年からブルーベリーを栽培、現在は供給過剰対応での規模縮小により、ピーク時の120エーカー(48.5ha)から面積を減らし、約50エーカー(20.2ha)で生産する。ヘーゼルナッツは600エーカー(242.8ha)を栽培するとのこと。

同社では、2008年にブルーベリーのパッキング施設を改装、5ラインでの選果作業を行う。自社生産分だけでなく周辺農家の生産分を含め、生のブルーベリーは他の販売会社を通じ販売するとともに、冷凍用ブルーベリーのパッキング業務を行い、こちらは自社で販売する。

農場主のギングリッチ氏からお話を伺う

ブルーベリーの選果ライン(ギングリッチファーム)

ブルーベリーの保管庫(ギングリッチファーム)

ブルーベリー選果場全景(ギングリッチファーム)

工場周辺農地の活用

SCOO社は今回の工場買収に合わせて周辺の農地12haを取得。現在は、約8haを近隣農家に貸し出しているが、将来的には、長野の拠点で展開する「サンクゼールの丘」のように、サンクゼール社のコンセプトを伝えるための飲食や物販も含めた観光滞在型施設の展開を構想する。
あわせて、日本の文化を伝えることができるようなジャパニーズガーデンを中心にした、SCOO社等の商品を販売する直営店の建設をしたいと、目指される目標は高い。

隣接した圃場で久世社長の説明を受ける

「メイド・バイ・ジャパニーズ」を世界へ

今回訪問させていただいたSCOO社の工場は、広大な自然に囲まれた場所でありながら大都市圏にも隣接しているため、アクセスにも恵まれ海外進出への第一歩に相応しい条件が揃う。
引き続き、アメリカの優れた原材料を有効に活用した商品の日本での販売とともに、アメリカ国内はもとより全世界のマーケットをにらんだ日本の食品製造技術を活かした日本食品の拡販にも期待がかかる。

(執筆:参与 田中久広、構成:内田文子)

 

<会社概要>
会社名:St.Cousair Oregon Orchards,Inc.
http://www.stcousair-oregon.com/
代表者:代表取締役社長 久世 直樹
所在地:8951 NE St.Paul Hwy Newberg.OR 97132
創 業:2017年4月
社員数:40名(うち日本からの駐在者4名)(2018年10月現在)
製 品:ジャム、飲料、各種ソース類、 スムージー、ドレッシング、パスタソース等