2018年9月、弊機構の北米視察一行11名は、サンクゼール・オレゴン・オーチャーズ社の久世社長からのご紹介を受け、ポートランド市のダウンタウンにある「フード・イノベーションセンター」(以下、FICという。)を訪問した。
一行は、在ポートランド須田領事(農水省からのご出向)、オレゴン州政府 農務局Theresa Yoshioka国際貿易マネージャーのお話を伺った後、オレゴン州立大学のDave Stone博士に同施設をご案内いただいた。
FICは食品と飲料関係企業向けのサービスに特化したユニークな農業実験施設であり、ポートランド市街の近代的なビルの中に位置する。
このセンターの特色は、オレゴン州農務局とオレゴン州立大学との連携で運営が行われている点があげられる。アメリカでも、州政府と大学が共同でこうした施設の運営を行っているケースは少ないとの話である。
農務局Yoshioka国際貿易マネージャーによれば、もともと、ポートランドという都市自体が食品のテストマーケティングに良い規模であるという。さらに、食に対する関心が高い住民構成、そして、その食への関心の高さから地域的に先進的な珍しい商品が揃うこと、加えて地元の農産品を大切にする風土があり、中小企業の成功が多く、デザインへの関心が高いことなど、アメリカ北西部への進出拠点としては最適との説明があった。
FICは、食品産業のマーケティング活動のサポートのほか、農業起業や起業家育成を目的としており、主に3つの機能を有している。
企業等が新たに食品を開発・販売する際に、商品開発や販売方法等のサポートを行う。
商品開発面では、コンセプトの考案にはじまり、実践的な商品開発作業に共同での取組み等を行う。販売面では、商品梱包やパッケージの提案、賞味期限のテストなど、専門のチームがセンターに設置する様々な機材を活用してサポートする。その他、起業家と食品企業のマッチングも行っている。
消費者の反応を定量・定性の2つのアプローチにより評価し、上市前の商品受容性や販売戦略の検証を行う。
① 科学的アプローチ … 統計的に検証された測定方法により、対象商品に対する消費者の反応を評価する。
② 定性的アプローチ … 被験者(消費者)が何を見聞きし、体感して商品を選択するか、実際の消費者へのインタビュー等を通じ確認する。
FICには消費者調査のスペシャリストが在籍し、調査はFICのほか、店舗やレストラン、家庭内調査(インホームテスト)などの開催が可能である。
食品の安全にかかる全般的な情報、トレーニング手段の提供や個別の品質分析まで、食品安全にかかる顧客ニーズへの対応をサポートする。
あわせて、オレゴン州農務局のスタッフにより、食品や農業ビジネスにかかわる技術的、規制的、市場にかかる懸念事項等へのアドバイスを行う。
1階フロアの事務所横のオープンスペースには、様々なパッケージ類が展示されており、さながらパッケージの歴史館のようである。来館者は、そのパッケージ見本を手に取って確かめることもできる。
Stone博士の説明では、従来の箱型のパッケージと小振りの袋型パッケージを例に、最近の消費者ニーズは扱いやすく小さいもので、添加物の少ないものを求める傾向であることから、それに応える形でパッケージへの記載事項等の改善提案を行っているとの説明を受けた。また、パッケージへの記載事項のポイントとして、消費者の関心はその製品が製造されパッケージに封入されるまでの経路にあるとのことで、パッケージにもその履歴を明記するよう薦めているという。
今回、案内されたなかで、特に興味深かったものとして、消費者が実際に食べたり、飲んだりした際の反応を様々な角度から観察・分析するサービスがあげられる。
開発プロセスの初期での見た目、フレーバー等への反応を、FICが抱える3万人のモニターのなかから抽出した調査対象者への聞き取りや観察により収集する。日本では、大手メーカーが自社で研究開発施設を有し自ら官能検査を行うほか、個別の市場調査会社等に調査全体、もしくはモニター呼集など一部の業務を委託するケースはあるが、中小企業が多い食品企業においては経営資源に限りがあるため、商品開発などの上市前に消費者を対象とした官能検査を行わない企業も少なくない。公的な機関が都市部に設備を抱え、このような機能を提供するケースはあまり聞いたことがない。この点は行政によるサービスとしては特色のあるものと言えよう。
①反応観察 … 案内された調査用の部屋では、クライアントが、警察の取調室のようにマジックミラーの一方から向こう側にいる被験者の反応を直接見たり、その様子を様々な角度からカメラに収めたりできるようになっている。
②聞き取り用ブース … 次の部屋では、個人ごとのブースの前の小さな扉から、対象商品の提供を受け、反応を調査することのできるスペースが多数並ぶ。扉の反対側には、様々な食材を効率よく提供可能な調理室が用意され、多数の食器が並ぶ。
また、スーパーでの試食会やイベント等で試食テストを行う等、いろいろなオプションを付加することもでき、様々なクライアントのニーズに応じた一般消費者の反応観察の場が用意されている。
なお、モニターは、SNSをハブに、年齢、人種、経済レベル等の条件にあわせ約3万人の消費者が登録されており、随時、更新されていくという。
消費者調査の委託費用としては、被験者への謝金の支払いが発生するため、人数や内容にもよるが、だいたい1件につき50万円~150万円程度とのこと。味覚調査では、1件に1週間程度を要するため、年間での対応件数の上限は50件程度という。
他にも消費期限、賞味期限のテストとして、温度や湿度等の条件を設定できる機械のなかで負荷試験を行う機材や独立した研究室等、専門家によるニーズに合った各種サービスが受けられる。
実際に、日本の食品企業がアメリカ進出の足掛かりとして、当地域への進出を行うため、共同調査等のオーダーも多い。日本からの進出を検討するクライアントへのサポートでは、日本の消費者に人気のあるものがアメリカではどう評価されるかということの確認がポイントとなる。ご案内いただいた際も、具体的なプロジェクトが進行中とのことで、幅広いニーズに応えられることを強調され、営業マインドにも富む姿勢が印象的だった。
今回は、当センターの担う機能のごく一端をご紹介いただいたが、官学が連携して、消費者の反応を視野に入れた食品開発・販売サービスの提供等、地域振興を目指すオレゴン州の意欲と工夫を感じられる内容だった。
(執筆:参与 田中久広 構成:内田文子)
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