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2019年4月24日

農産物の海外輸出

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 前回まで農産物取引の契約書についてお話ししてきましたが、今回は近年増加している農産物の海外輸出について取り上げたいと思います。

農産物輸出の現状

 農水省の発表によれば、2018年の農産物の輸出額は5,661億円であり、2017年の4,966億円から約695億円増加しています。さらに、2012年の農産物輸出額が2,680憶円でしたので、この6年で輸出額が2倍以上に増えています。
 品目別では、加工食品が大きな割合を占めていますが、牛肉をはじめとした畜産品も約660億円の輸出額があります。野菜・果実等については約420億円の輸出額となっていますが、注目すべきは前年比15.5%増となっていることです。
 水産物も含めたデータですが、国・地域別の輸出先は、香港への輸出が最も多く、次いで中国、米国、台湾、韓国と続きます。
 国も農産物、林産物、水産物を合わせて2019年には1兆円の輸出をすることを目標としており、農産物等の輸出を後押ししています。このような施策もあり、輸出は今後も増えていくことが予想されています。

農産物輸出の流れ

 日本から農産物を海外に輸出する場合、生産者が直接海外の消費者に販売するということは(海外直販のような一部の例外を除けば)ほとんどありません。また、海外のスーパーマーケットのような小売業者やレストラン等の外食業者に直接販売するということもまれです。これは、国内であれば、輸送手段さえ確保できれば生産者が消費者や小売業者、外食業者等に直接販売することは可能ですが、海外輸出となると輸出に関する様々な手続きをクリアしなければならないため、これを生産者自らが行うことは容易ではないためです。
 そのため、農産物を海外輸出する場合には、生産者が輸出商社等のパートナーと組むことが一般的です。そして、海外でも海外の輸入商社等が間に入り、さらに卸売業者が入ることもありますので、日本の生産者から海外の消費者の口に入るまで、国内取引以上に多くの事業者がかかわることも少なくありません(もちろん、もっとシンプルな場合もあります。)。
 このように、農産物の輸出には多くの事業者がかかわること、さらに法制度の違いといったこと等から、国内販売以上に法的なリスクについては気を付ける必要があります。

契約書の重要性

 前回まで4回にわたって農産物取引においても契約書を締結することが重要であることをお話ししてきましたが、海外輸出の場合には国内取引以上に契約書の締結が重要です。
 輸出取引では、言葉の問題や商慣習の違いなどが原因で、想定とは異なる事態が生じやすいことに加え、国内取引に比べて必然的に長距離を輸送することになりますので、農産物の状態が変化しやすく、農産物の劣化等により責任問題が生じやすいという特徴があります。さらに、いざトラブルが起こった場合、国内取引であれば最終的には日本の裁判所で裁判をして解決するという手段が取れますが、輸出取引の場合には、そもそも日本の裁判所では解決できないことも少なくなく、また、たとえ裁判で勝ったとしても、実際に代金などを回収するためには海外で手続きを取らなければならない場合もあります。このように、輸出取引には国内取引以上に多くの法的なリスクが潜んでいます。

 このような法的なリスクをゼロにすることは困難ですが、契約書をしっかりと作っておくことで、法的リスクを把握して管理することは可能です。契約書において取引の条件を明記しておくことで、後になって「そんなつもりはなかった」となってしまうことを避けられますし、いざトラブルになったときの解決方法も定めておくことができます。
 そして、何よりも重要なことは責任の分担を明確にしておくことができることです。長距離の輸送が必要であり、その間に農産物の状態に変化が起こることがあり得ますので(この点は、機械などの工業製品との大きな違いです。)、どの時点までの責任を誰が負うのかを明らかにしておかないと、想定していない責任を負うこととなったり、責任の所在をめぐってトラブルになったりしてしまいます。このような事態を避けるため、責任の分担を明確にしておくことは、契約書の重要な役割の一つです。

 輸出取引にはいろいろな法的なリスクがありますので、輸出取引を行う場合には、ぜひ契約書を締結するようにしてください。なお、国内の輸出商社に販売して農産物を輸出する場合も少なくないと思いますが、この場合は国内商社との取引は国内取引のように見えるものの、農産物が海外に輸出されることによるリスクがあり得ますので、海外に輸出することを前提とした契約書を国内輸出商社と結ぶようにする必要があることに注意してください。

ブランド戦略

 もう一つ輸出取引で注意していただきたいことは、ブランド戦略についてです。海外に農産物を輸出する場合、輸出先にもよりますが、現地では高級なものとして売られることが少なくありません。この場合、日本産というだけでなく、特定のブランドとして農産物を売ることがあります。
 このようなブランド戦略を取った場合、契約書でそのブランドをコントロールできるようにしておかないと、安売りや粗悪品扱いによりブランドイメージが悪化してしまうことがあります。そうすると、その輸出先の国だけでなく、近隣国でもブランドイメージが低下してしまい、輸出戦略に悪影響が及ぶことがあります。
 このようなことを避けるため、場合によっては販売方法や価格等についても一定のコントロールができるように契約書で定めておくことが必要かもしれません。まずは輸出先との話し合いが重要ですが、話し合いで決まったことは契約書に記載していくという意識を持っていただくとよいと思います。

 農産物の輸出は新たな市場として大きなチャンスになり得ますが、そこには法的リスクも潜んでいます。このリスクはゼロにすることはできなくても、リスクを把握し、一定程度管理することは可能ですので、輸出取引の際には契約書をしっかりと作るという意識を持っていただければと思います。

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