2020年4月30日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
6次産業化にかかわらず、ビジネスに関わっている人であればマーケティングという言葉は少なからず聞いたことがあるだろう。しかし、マーケティング界の世界的権威であるフィリップ・コトラー氏は、「マーケティング4.0」を提唱している。本稿では、「マーケティング4.0」とこれからの6次産業化について論じたい。
本題に入る前に、「マーケティング1.0」から「マーケティング4.0」の変遷について簡単に解説したい。「マーケティング1.0」は作ったものをどう売るかという「製品中心」の考え方であり、プロダクト・アウトとも言われる。「マーケティング2.0」は消費者が求めるものを製造して販売するという「消費者志向」の考え方であり、マーケット・インとも言われる。「マーケティング3.0」は単に製品を購入するのではなくその価値に共感する「価値主導」の考え方である。少し前に中国人が日本に訪問する目的が「爆買い」から「コト消費(体験型の消費)」に変わったとメディアで取り上げられていたのが記憶に新しいのではないか。
では、「マーケティング4.0」とは何か?フィリップ・コトラー教授は「伝統からデジタル」や「ニューウェーブの技術」をキーポイントに挙げている。つまり、インターネットやSNSといった近代的な技術によって顧客の「自己実現」を支援するサービスを提供することである。昨今では若者が「インスタ映え」する商品・サービスに行列を作り、将来の職業が「Youtuber」という子供達が増えている。しかし、これだけ情報が溢れている中では、単に見栄えが良い、動画が面白いというだけでは差別化が難しく、いかに驚きや感動といったインパクトを与えるかが重要となっている。
では、6次産業化における「マーケティング4.0」とは何か?筆者は「自己実現」という言葉を聞いた時、一つの事例が頭をよぎった。それは静岡県富士宮市にある㈱いでぼくである。当社は富士山の麓にてホルスタイン牛、ジャージー牛、ブラウンスイス牛合わせて約160頭の乳牛を飼育している。当社の最大の強みは、何と言っても素材そのものの品質であり、こだわった飼料や徹底的な衛生管理等によって搾られた良質な生乳は、関東全域を対象にした関東生乳品質改善共励会で2012年から8年連続で最優秀賞、特別賞を受賞している。
私は最初に訪問した2016年の時から、代表から「将来、牛のための牧場を作りたい」という夢を聞いていた。そして、2019年5月にその夢は実現し、牛のためのリゾート牧場「COW RESORT IDEBOK」がオープンした。牧場は放牧できるようになっており、ジャージー牛とブランスイスが自分達の好きな時に牧場内を散策できる。また、牛舎は清潔に保たれているだけでなく、牛に負担がかからないように床にはウォーターベッドを導入しており、まさに「牛ファースト」の牧場なのである。
しかし、牛のための牧場にもかかわらず、富士山を一望でき、かつ牛が放牧されている風景を見ながら食事やバーベキューをできることが、地域住民や観光客を惹きつける要素となって、あっという間に新たな観光スポットとなっているのである。
筆者が考えた6次産業化における「マーケティング4.0」は顧客の「自己実現」だけでなく、農林漁業者の「自己実現」でもあるということである。農林漁業者が地域において「夢」や「ビジョン」を実現する過程において、消費者がその想いに共感し、ファンになって応援してくれることによって、双方の「自己実現」に繋がる。これこそ、これからの6次産業化の目指す姿ではないだろうか。