2023年1月20日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
2022年の秋、食と農林漁業分野で注目を集めたのがドラマ「ファーストペンギン!」ではないだろうか。ドラマでは、漁師が直接「おさかなBOX」を売ることに対して、漁協が猛烈に反対する場面が象徴的だった。このドラマの実際に反響は大きい一方で、筆者のSNSにも「漁協が間に入ることで漁師の収入が減る!」「農協・漁協は悪だ!」という反応があり、このような印象を持ってしまった消費者が多いかもしれないという危惧を抱いた。本稿では農協・漁協と市場の必要性や今後期待する役割について改めて述べてみたい。
図表1は日本の人口の推移のグラフである。日本の人口は2021年7月時点で1億2,512万人となっているが、歴史を遡ってみると江戸時代であった1700年の人口は2,700万人、1800年でも3,036万人と現在の四分の一の人口しかいなかった。しかし、明治維新(1868年)の3,330万人から加速度的に増加し、第二次世界大戦の終戦(1945年)に7,199万人、1968年には1億人を突破し、人口のピークとなる2008年の1億2,808万人まで人口は4倍に膨れ上がっていたのである。
明治維新後の急激な人口増加によって起こったのが食糧問題である。特に1914年は第一次世界大戦が勃発したことにより、物価の高騰と共に米の価格も高騰したことで庶民の生活がひっ迫した。その結果、1918年に富山湾沿岸一帯で米の県外移出禁止や米の安売りを求める運動「米騒動」が始まり、全国に広がった。この米騒動を重く見た当時の政府は1923年に「中央卸売市場法」を制定し、東京には中央卸売市場を、全国に小売市場を開設した。また第二次世界大戦後の1947年には農業協同組合法が、1948年には水産業協同組合法が制定され、全国で農業協同組合(農協)および漁業協同組合(漁協)が設立されたことにより、産地において生産者をまとめ農林水産物を集める機能が備わった。
図表2は国内の生鮮食品の流通構造である。全国各地の生産者から農協および漁協が農林水産物を集めて市場に出荷し、卸売市場では卸売業者(大卸)がセリを行い、仲買人・買参人が競り落とした農林水産物を、食品製造業や食品卸売業等を通して小売や外食へ流通させて最終消費者に届けている。この全国各地の農協・漁協が農林水産物を集めて市場機能を使い全国に再配分する機能は、明治維新後の人口増加や第1次世界大戦・第2次世界大戦時、そして戦後の高度経済成長において、消費者の胃袋を支えるために必要不可欠であったのである。つまり、冒頭に書いた「農協・漁協が間に入ることで生産者の収入が減る!」「農協・漁協は悪だ!」という意見は日本の歴史や背景などを全く無視した意見と言わざるを得ず、むしろ消費者にとって必要な機能だったのである。
改めて図表1を見て欲しい。日本は2008年をピークに減少に転じており、2046年には1億人を割り込み、2100年には4,959万人にまで人口が減ると予想されている。一方、これまで説明してきた農協・漁協や市場の機能は人口増加を支えてきた流通構造であり、現在そして未来の流通構造にマッチしているとは言いづらいのも事実である。実際に農林水産省の資料では市場外流通の割合が青果で40%、水産物で46%にまで増えており、スーパーや外食での産地からの直接調達や生産者と消費者を直接繋ぐECサイトなども増えている。
しかし、農協・漁協が全国各地から農林水産物を集め、市場機能によって再配分するという流通機能は現時点において最も優れた流通構造であることは間違いない。この流通構造を生かした上で農協・漁協および市場はこれからの日本の食糧問題を支える仕組みを模索していって欲しい。