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田舎の不満を吸い上げ

2023年3月29日

オランダで農家党が地滑り勝利
田舎の不満を吸い上げ

ニュースソクラ 農業ジャーナリスト、山田優

 オランダで農家主導の政党が、上院議員選挙で第1党に躍進した。ルッテ首相が率いる政権は厳しい窒素排出制限を進めてきたが、反旗を翻した農家を地方有権者が支援した。人口比率で1%に満たない農家の怒りが政治を動かしたのはなぜか。グローバリズムに対する素朴な反発が背景にある。
 「農家の抗議政党がオランダの投票で衝撃の勝利(Farmers’ protest party win shock Dutch vote victory)」
 英公共放送BBCが選挙直後に報じた見出しが、波紋の大きさを伝えている。

オランダの農家党の選挙活動=PD

▽国政で重要な役割担う

 今回の選挙は、直接的には国内の12の州議会議員を選ぶものだが、彼らが5月に国会の上院議員(75人)を指名する仕組み。現地メディアによると、選挙直後に15議席とみられていた農家市民運動(BBB)党の上院議員数は、集計が進むとともに得票を増やし、17議席になる見通しとなった。単独で第1党だ。政権与党は合計で32議席から22議席に激減する見込みで、BBB大躍進のあおりを受けたかたちだ。
 2019年に誕生したばかりの農家市民運動(BBB)党は、これまで上院はゼロで、下院(150人)議員は党首のキャロライン・ヴァン・デル・プラス氏1人だけだった。上院での多数議席は法律執行に欠かせないことから、BBBがオランダ政治の中で重要な役割を担うとみられている。
 当時、農家の不満は高まっていた。問題の象徴となっていたのが、環境中にある過剰な窒素をどう減らしていくのかだった。中でも焦点は家畜。大量に発生するふん尿には窒素が多く含まれているからだ。22年春に在日オランダ大使館のデニーズ・ルッツ農務参事官に話を聞いたところ、次のような説明をした。

▽迫られる家畜の削減

 「欧州連合の指令(法律)に基づいて、オランダ政府は独自の政策を実施してきた。ところが、裁判所が19年に『機能していない』と厳しい判決を出したことで政府はさらに規制強化が迫られた。イノベーションなど総合的なアプローチで窒素危機を克服するつもりだが、うまくいかなければ農場移転など(強制的な頭数削減)が余儀なくされる可能性がある」
 つまり、政府はさまざまな対策を打つものの、十分な効果が得られなければ、家畜を強制的に減らすなどしわ寄せが及ぶ可能性があった。死活問題と捉えた農家団体は数多くのトラクターで高速道路を封鎖し、都市部でデモ行進を繰り返した。抗議活動が繰り返される中で生まれたのがBBBだった。
 BBB党首のヴァン・デル・プラス氏とは何者なのだろうか。彼女をよく知る人に話を聞いた。語るのはオランダの農業ジャーナリスト、ハンス・シーメス氏だ。
 「元々は養豚を専門とする農業ジャーナリストで、弁が立った。政治的にアジると言うよりも、人々が分かりやすく話す天性の才能を持っている。母親がアイルランド出身で、選挙集会では米国の人気歌手ニール・ダイヤモンドの名曲スイート・キャロラインに乗って演説をしていた」
 この曲はアイルランド系のジョン・F・ケネディの長女キャロライン・ケネディ(後の駐日米大使)に捧げたものと言われ、アイルランドでは人気の曲だ。
 ちなみに現地メディアによると、オランダ国内で「キャロライン」という名前は非エリート層の出身を思い起こさせるという。

▽都会のエリート批判が勝因

 世界第2位の農産物輸出を誇る農業大国とは言え、オランダの農業従事者数は15万人で人口の1%たらず、国内総生産に占める農林水産業の比率は1・6%。「農家代表というなら上院で1議席を得るのが精一杯」(シーメス氏)だ。地方選挙区を中心にした地滑り的な勝利は、アムステルダムなど都会を中心にした国政運営に抱いていた田舎の不満を、BBBが上手にすくい取ったというのがシーメス氏の解説だ。
 農家や地方の有権者が、グローバリゼーションで恩恵を受ける都会のエリートや富裕層をやり玉に挙げ、政治の場で反旗を翻す風景は、欧米で広がっている。庶民性を表す「キャロライン」を前面に出したBBBのパフォーマンスは、それを意識したもので、十分に効果を発揮したようだ。
 メディアの中にはBBBを欧州のポピュリスト政党の一つと見なすものもある。そうしたポピュリスト政党の中には短期間で分裂を繰り返したり、支持を失ったりするものもある。だが、怒れる農家が主導し田舎代表として存在感を示したオランダの反乱は、多くの国で関心を集めた。
 日本でも肥料や飼料価格の高騰や生乳需給の緩和など農家の不満は高まっている。いずれもグローバリゼーションによる弊害だ。しかし、政権与党に刃向かってまで自分たちの要求を突きつける兆候は見られない。かつて環太平洋連携協定(TPP)反対運動で反グローバリゼーションの立場から市民団体を巻き込んだ農協は、自民党の安倍政権下で徹底的に牙を抜かれた。まずは農家が自ら怒りをぶつけない限り、オランダのような存在感を示すことはできないだろう。

(ニュースソクラ www.socra.net)

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