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2024年6月25日

農産物のサプライチェーンにおける「加工」の置きどころ

(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

■ サプライチェーンの「加工」を行うプレーヤー

 農産物の「加工」が昨今、サプライチェーン構築のカギとなっている。とりわけカットなどの一次加工は量販店などの小売業においてニーズが高まっている。この背景には、簡便調理の消費者ニーズの高まりと、小売業における人出不足によるバックヤードでの加工が難しくなっていることがあげられる。さらにコロナ禍を経て、カットされた食材と調味料、レシピがセットになったミールキットと呼ばれる商品の売上が大きく伸びたことも、「カット」を中心とした1次加工ニーズの高まりにつながっている。

 この加工を行う事業者は、サプライチェーンの組み方や、事業者の戦略によって多岐にわたる。例えば、京都の九条ネギの生産法人である「こと京都」は自社で九条ネギの生産を行いつつ、カットねぎも自社工場で製造している。また、卸売市場の仲卸の中にも、販売先の量販店からの注文を受け、キャベツ等のカットを加工場を設けて実施している事業者がいる。さらには、大手の食品スーパー等ではプロセスセンターと言われる食品加工場を設置し、自社で農産物のカット加工などをおこない、パッキングを行い、各店舗に配送しているケースも多い。

■「加工」工程をどこにおくか?

 このように、農産物の1次加工はカット専門の加工事業者が実施するだけではなく、農業生産者が6次産業化の一環として実施したり、農産物の卸売業が販売戦略の一環として実施するものまである。

 では、加工工程は、サプライチェーンのどの段階に設置するべきであろうか。その答えは、それぞれの事業者の戦略によって変わるが、基本的には加工工程で付加価値や利益を創出できる事業者が行うことになる。
 農産物のカット加工を行った場合、無加工の場合よりも衛生管理や温度帯管理がシビアになる。カットした切り口に細菌や真菌が付着、増殖すると商品が腐敗したり、最悪の場合は食中毒の原因になるためである。例えば、ネギなどはカット加工を行う前は常温で取扱うことも可能であるが、カットした場合は冷蔵で取扱う必要がある。加工することによって、その後の流通や物流のコストが上昇する可能性があるのだ。

 よって、生産者側で加工を行う場合、加工することによって得られる付加価値(原体で販売するよりも多く得られる利益額)が、その後のサプライチェーンの構築も含めて増加するコスト(トラックの冷蔵対応料金等)よりも大きいことが条件となる。
 一括して大量に処理することでコストが下げられる場合、あるいは大消費地よりも最低賃金等を含めて加工にかかる人件費を低く抑えられる場合は、生産者にとって加工工程を実施することは「付加価値の創出」となるのである。

 逆に、消費地に近い加工事業者や卸売業者が、遠隔地から大きなロットで農産物を仕入れて、顧客の細かいニーズ(企業別にカットサイズが異なるようなニーズ)に対応しながら販売するような場合は、消費地に近い場所で加工する方が、その後のサプライチェーンとして効率的であることが多い。このような場合、生産者側は農産物の生産に特化することができるメリットがある。

 つまるところ、生産者の視点で言えば戦略的に、

  • 農産物の生産に特化したい(経営資源的に)
  • 出荷先・消費地までの距離が長い
  • 事業構成的に「加工」は「手間」でしかない
  • 顧客の加工ニーズが多様化している

 と言った場合は加工を自社(産地側)で実施するよりも販売先などのサプライチェーンの下流事業者に任せた方が良く、

  • 農産物の販売だけでは利益が創出しにくい(品目や商品的に)
  • 出荷先・消費地までの距離が短い
  • 事業構成的に「加工」で「付加価値」を生み出せる
  • 顧客の加工ニーズが限定的(単純に半分にする加工が求められている)

 場合は、自社で加工し、それを武器として販路拡大や営業を行うことが良いと言える。サプライチェーン全体で「加工」を考えていくことが、今後非常に重要になるだろう。

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