EN

CLOSE

コラム

TOP > コラム一覧 > 令和の米不足~店頭から米が消えた理由と今後~

2024年8月23日

令和の米不足~店頭から米が消えた理由と今後~

(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

■令和6年8月、店頭から米が消えた。

 令和6年8月現在、新聞やテレビで米が無い、と騒がれている。実際にスーパーの店頭に足を運ぶと多くのスーパーで米売場の商品が無くなり、「入荷予定なし」などの記載が見られる。
 現在、流通しているのは主に令和5年産の米である。だいたい9月~10月にその年の新米が出るため、そもそも8月は前年産米の在庫を消化するタイミングであり、米の在庫量は少なくなる傾向にあるが、それでも小売店頭から米が無くなることは珍しい。なぜ、令和5年産米は店頭から消えたのだろうか。

■「不作」であった令和5年産米

 令和5年は、米に関していえば「異常」な年であった。日本で一番、米の生産量が多い都道府県である新潟県の米の1等米比率が例年は80%程度であるのに対し、コシヒカリ 4.9%、うるち全体 15.7%と過去最低を記録したことは業界に大きな衝撃を与えた。米は、国で定めた品質検査において色や形などの基準での品質が示され、その内容によって1等から3等、規格外に格付けされる。令和5年産米は、新潟を筆頭に全国で1等米比率が低い結果となった。
 その要因は、記録的な夏の暑さによる高温障害と言われている。高温障害が発生すると米が白くなってしまい、等級が下がる要因となるのだ。出穂後に台風などの影響でフェーン現象が重なったことで高温障害が発生したほか、新潟においては8月の降水量が少なく、水不足が追い打ちをかけたと言われている。
 なお、農水省による米の作況指数は101であったことから、等級は低いものの米の量は確保できたと考えられたが、令和5年産米の場合、高温障害の影響からか精米したときに割れが発生するなどの要因で、精米の歩留まりが非常に悪かったと言われている。そのため、精米歩留りを考慮すると実際の作況は100を切っているものと思われる。
 高温障害による米の品質低下と、それによる精米歩留りの悪化によって、令和5年は「隠れた米の不作の年」であったと言えよう。

■米の需給調整の状況

 ここで、令和の米不足の要因を不作以外でも考えてみたい。米は価格維持を目的に、減反による需給調整が行われている。そもそもの米の生産量を見てみると、令和5年産水稲の作付面積(子実用)は134万4,000ha(前年産に比べ1万1,000ha減少)であり、うち主食用作付面積は124万2,000ha(前年産に比べ9,000ha減少)であった。水稲の全国の10a当たり収量を533kgと見込むと、収穫量(子実用)は716万5,000t(前年産に比べ10万4,000t減少)と見込まれる。このうち、主食用の収穫量は661万t(前年産に比べ9万1,000t減少)となる(以上の数字と内容は農水省WEBサイトより)。
 つまり、もともとの作付けからして、10万トン近く収穫量を下げる計画となっていたことが分かる。その理由は需要の減少である。農水省の「米穀の取引に関する報告」によれば、平成15年くらいから平成28年までの間の米の需要量の減少幅は年間で8万トン程度であったが、平成29年以降は年間10万トン程度の減少で推移している。

出典:(財)全国米穀取引・価格形成センター入札結果、農林水産省「米穀の取引に関する報告」,米をめぐる関係資料(農水省)

 ここから、年間10万トン程度の減少が見込まれる需要に合わせて、10万トン程度の生産減少を見込む生産調整は正確に機能していた、と言える。この生産調整がしっかりと効いていたことが、皮肉にも不作となった令和5年産米の「不足」に一役買ってしまったことは否めない。

■令和の米不足を発生させないためにはどうすればよいか。

 現在の米不足は、令和6年産米が9月以降に出てくることで解消されると見込まれるが、主食であり、日本人のソウルフードである米の供給が不安定になることは消費者の幸せな食卓を考える上でも、食料安全保障上も望ましくない。
 令和の米不足を繰り返さないためには、生産者と消費者の双方の努力が必要だと考えられる。
 来年以降、夏が大幅に涼しくなるとは考えにくい。生産者サイドでは現在の気候変動を前提とした高温障害対策や、気候変動に対応した農業が求められるだろう。ITや農業技術を駆使し、気候変動の状況下でも品質・量ともに安定的に生産できる体制構築が重要である。
 また、消費者サイドでは、米の需要を減らさない努力が必要である。需要が減少するために生産調整が行われていることも含め、国内の米需要と米生産をしっかりと食べることで支えることが必要である。
 なお、人口減少や高齢化で自然に減少してしまう国内の米需要を輸出でカバーすることも重要である。食料安全保障の観点にたてば、輸出需要で米生産をしっかりと維持しておけば、有事の際には国内にそれを回すことができるためである。
 需要が無ければ米の価格は上がらず、生産者の所得も向上しない。米を生産する生産者が再生産できるだけの収入が得られるようにならなければ、将来的に生産者不足で米が足りない、といった事態に陥ってしまうだろう。生産技術の向上と需要の拡大、その両輪が必要なのである。

年別アーカイブ