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2024年10月22日

農業者が考えるべき契約とリスク

(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

■契約を結ぶことの重要性

 自分の農産物を小売業や飲食店に販売するとき、契約を結んでいるだろうか。「契約栽培」という言葉がある。これは、特定の事業者(多くの場合は、小売業か、卸売業か、飲食業)と、収穫する前、もっと言えば生産する前に契約を結び、その契約に基づいて収穫後に販売するものである。
 特に種を撒く前の契約は「播種前契約」と呼ばれ、生産の前の段階で、「このタイミングで、この農産物を、これくらいの品質で、これくらいの量を、単価いくらくらいで販売する」という契約である。
 この播種前契約を含む「契約」は、生産段階で売り先が決まることで、生産者にとっては、事前に売上や利益をある程度正確に把握できる、農業経営上、安定的な収益を確保できるといったメリットがある。
 また、買い手側の実需者においては、安定的に必要な農産物を調達できる、自社で求めるスペックと価格の農産物を調達できる、と言ったメリットがある。

■契約はリスク分担でもある

 契約はお互いに課す制約でもある。契約を結んだのであれば、お互いにそれを履行する義務を負う。例えば、米を1俵15,000円で100俵、契約をしたのであれば、相場が1俵12,000円になろうと18,000円になろうと、売り手・買い手ともに契約した価格と量を守る必要がある。短期的に見れば、相場で購入する方が利益があがるかもしれないが、考えるべきは長期的なお互いの利益、調達や販売の安定性である。
 それは、契約することでお互いにリスクを回避しているという最大のメリットがあるためである。生産者は1俵15,000円で契約することで米価が下落した時のリスクを回避できるし、実需者は1俵15,000円で契約することで米価が高騰した時のリスクを回避できる。つまり、元の契約(1俵15,000円)が生産者にとっても、実需者にとってもメリットのあるものであれば、目先の利益にとらわれず長期的な関係を築いていくことがお互いのリスク回避になる。もしも短期的な収益を重視するのであれば、契約を結ぶべきではないとも言える。
 また、契約の方式でもリスク分担は変わってくる。例えば、面積で契約する場合は、その面積で想定した収量を確保するリスクは買い手側(実需者)が持つことになる。仮に天候不順で収量が少なかったとしても、生産者には栽培面積に応じた金額を支払う必要があるためである。一方、重量や収量で契約する場合は、単収に関するリスクは生産者が負うことになる。生産者は単収が下がれば収益性が悪くなるし、単収を上げれば収益性を高めることができる。生産者側から、リスクの観点で見れば面積契約はローリスク・ローリターンで、重量契約はハイリスク・ハイリターンであると言える。
 契約を結ぶうえでは、その契約内容でリスク分担がどのようになるのかを考えたうえで、長期的な視野で考える必要がある。

■契約は書面で

 民法上、契約は口頭でも成立するとされる。いわゆる口約束である。ただし、これは証拠が無いために、簡単に反故にされたり、言った・言わないの水掛け論になりがちである。
 詳細な内容までお互いに話し合い、WIN-WINとなる契約とする意味でも、そして長期的に相手と信頼関係を構築する意味でも、可能であれば契約は書面で締結することが望ましい。むしろ安定的な経営を目指すのであればお互いに「契約書を締結できる」相手とパートナーシップを結ぶべきだろう。
 どんなに良い話であっても、「契約書は結べない」という相手と長期的に信頼関係を構築することは難しい。天候リスク、原価高騰リスクなど、様々なリスクに囲まれている今だからこそ、「契約」について考えてみて欲しい。
 

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