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2024年12月24日

販路と商品のポートフォリオを考える

(公財)流通経済研究所
農業・物流・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

■環境変化の激しい時代

 コロナウイルス感染症の感染が拡大した数年前、食の消費は、外食から小売へと大きくシフトした。また、外出自粛などの影響もあり、インターネットで注文し、宅配で農産物が自宅に産地直送で届くようなECも大きく利用が拡大した。そして、コロナ禍が一段落した現在では、海外からの旅行者による食のインバウンド消費が大きく拡大している。
 そのなかで円安は進み、農業資材を含む様々な物の価格は高騰した。この数年だけを見ても、農業経営を取り巻く環境は大きく変化したと言えよう。このような環境変化の激しい現在、特定の業種のみ、あるいは特定の販路のみに頼った農業経営は、非常に大きいリスクを抱えていると言える。

■リスク分散のためのポートフォリオ戦略

 以前から、経営リスク分散の方法の一つとして取引先を分散させることはよく言われてきた。売上の依存度が高い取引先1~2社で経営をしていると、その販売先が倒産した場合など、自社の経営に対する影響が大きくなりすぎてしまう。そのため、1社あたりの取引依存度を下げながら、複数の企業と取引をする必要があるのである。
 また、農産物においては、「取引先」だけではなく、「業種」や「販路」といった切り口での分散も必要だろう。小売、外食、中食、加工事業者…といったような「業種」別に、企業も分散させながら、取引先を開拓していく必要があると言える。また、販路も産地直売所やインターネット販売なども含め、複数確保することがリスクヘッジになるだろう。
 この販路の幅=「販売先の業種・業態、売場の種類の数」、と販路の深さ=「1つの業種での取引先の数」のバランスを考えることが今後は販路開拓において重要である。
 さらに言えば、今後の地震などのリスクを考えれば、取引先の地域なども分散させる必要があるかもしれない。災害などのリスクに対応していくためには、経営環境に合わせて柔軟に販路への対応を行っていくことが必要である。つまり、販路に幅があれば、外食から小売に需要がシフトしたとしても、それに合わせて出荷量を調整していくことができる=自社で外部環境の変化に対応できるのである。
 また、取引先ごとに自社視点での戦略的な意味を考えることも有効だ。例えば、「高品質なものをしっかりと評価してもらえる取引先」、「価格は厳しいが量をいくらでも引き取ってくれる先」といった形で、取引先ごとに自社にとっての役割を考えていくことで、より販路の組み合わせを高度に検討していくことができるだろう。
 金融用語にポートフォリオという言葉がある。これは資産構成を指す言葉で、投資のリスク分散のため、株や金など資産を様々な形でバランスよく管理することを「ポートフォリオを組む」と表現する。農業経営においても、経営リスクを分散させるために、販売先の構成を「販路の幅と深さ」の視点から見直していくこと、つまり販売先・販路のポートフォリオを組んでいくことが必要であろう。このとき、販路の業態(小売・外食・中食・宿泊業など)、販売先の地域、販路の意味(自社にとっての役割)などを複合的に見て、自社の経営戦略や課題によって整理していくことが必要である。販路のポートフォリオ、ぜひ考えてみていただきたい。

【ある生産者の販売先のポートフォリオ(例)】

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