2018年9月26日
弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕
前回は、これからの農業経営のためには法務に取り組むことが必要であるとお話ししました。今回は、実際に法務に取り組むためには、何をどのように進めていけばいいのかについてお話ししたいと思います。
「法務」という言葉を聞くと、契約書を作ったり、法律の条文を調べたりするといったことをイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。このような具体的な業務は法務業務の一つであるものの、「法務」とはこのような契約書を作ったりする作業を指すのではありません。
「法務」とは、「法的なリスクを管理すること」です。契約書を作ったり、法律を調べたりするのは、法的リスクを管理するために行う業務なのです。
法務に取り組むというと、とても大変なことのように感じられるかもしれません。確かに、法務の具体的業務を行うためには法的知識が必要になりますし、経験も重要です。しかし、繰り返しになりますが、ここでいう法務への取り組みとは、経営者や従業員がこのような具体的な業務を行うこと、行えるようになることではありません。そうではなく、会社として法的リスクを認識し、そのリスクを管理するための行動を取ることなのです。
このような法務への取り組みの第一歩かつ最重要ポイントは、まず経営者自身が法務に取り組むことです。経営者が法務に取り組む姿勢を示すことで、はじめて従業員まで法務への取り組みを浸透させることができます。
経営者が法務に取り組むといっても、法律書を読みはじめるということはでありません。そのような方法は、生産や営業に加えて財務や人事といった多くの経営事項を抱える経営者に不可能を強いることになります。
経営者の法務への取り組みとは、法的リスクへの感度を高め、「違和感」を持つことができるようにすることです。例えば、契約取引を行うことになった場合に、「期限までに農作物をそろえられなかったら、どういう責任を取らなければならないのだろうか。」といった疑問や、従業員を雇う際に「作業量に応じた完全歩合制にすることで問題はないだろうか。」という疑問を持てるようになることが、ここでいう「違和感」を持つことができる状態です。
では、この「違和感」を持つにはどうしたらいいでしょうか。その方法としては、以下の3つが挙げられます。
①の方法は、比較的簡単にそれほど時間もかからずに始めることができます。新聞・雑誌には、法改正に関する記事や裁判の結果の記事が掲載されていますし、ほかにも現在問題となっている法的問題が特集されていることもあります。このような記事を意識的に読むことで、法的なリスクを嗅ぎ分ける力をつけることができます。
②はより実践的な方法で、興味のある、あるいは事業に関連する法分野に関するセミナーに出席するというものです。セミナーに参加することで、法律改正についての知識を得ることができたり、人事労務関連の知識を得たりすることができます。
③については、弁護士や司法書士、社会保険労務士等の専門家と付き合うことで、法的リスクの勘所がつかめるようになります。この時に重要なことは、すべてを専門家に任せてしまうのではなく、何が問題なのか、なぜ問題なのかの説明を専門家から聞くことです。そして、このような説明をきちんとしてくれる、説明ができる専門家と付き合っていくことも大切です。
このようにして「違和感」を持つことができるようになると、事業を進めるうえで「これは危ないかもしれない」というセンサーが働くようになります。そして、専門家を活用することで様々な対応を取ることができ、リスクを回避することができます。このようにすることで、取り返しのつかない損失が発生することを防ぐことができます。
これこそが法的リスクの管理=法務なのです。法務に取り組むことは、農業ビジネスを順調に発展させるための大きな支えになるのです。