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2018年12月25日

農産物取引の契約書

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 前回は、農産物取引は売買契約であること、法的なリスクを管理してトラブルを防ぐためには契約書を作ることが重要であることをお話ししました。
 今回からは、農産物取引の契約の種類とそれぞれの契約書作成のポイントについてお話していきたいと思います。

直接取引

農産物取引の方法としては、かつては卸売市場やJAを通じた販売がほとんどでしたが、現在はスーパーマーケットなどの小売業者やレストランなどの外食業者、食品を扱う商社などと直接取引をする方法が徐々に増えており、今や売り上げのほとんどをこのような直接取引が占める農業法人や農業者も少なくありません。
卸売市場やJAを通じた販売でも、そこには契約が存在しているのですが、実際上、卸売市場やJAを通じた取引では契約上のトラブルになることが多くないために、ほとんどの場合に契約があることは意識されていないように思われます。
しかし、直接取引の場合には、事業者間の直接の取引となることから、契約上のトラブルが発生することがあります。そのため、契約の存在を意識し、さらに契約を活用することで、このトラブルを回避したり、起こってしまったものについてもできる限り損失を少なくすることができます。

直接取引の契約の種類

 農産物の直接取引を行う場合の契約の種類としては、取引が単発か継続するものか、契約締結が農産物がすでにある状態で行われるか播種前に行われるかにより、主に以下の3種類に分けることができます。

 ➀通常の売買契約
 ➁継続的な売買契約
 ➂契約取引

 以下、それぞれの契約について具体的に見ていきたいと思います。

➀通常の売買契約

 ➀通常の売買契約とは、外食業者や商社などの買い手から売り手である農業法人、農業者に農産物購入の注文があった場合といった、ごく一般的な取引のことです。ここでは、継続的に取引を行うような場合ではなく、単発の取引を想定しています。(このような単発の取引をきっかけに、➁継続的な売買契約とつながっていくこともあります。)また、播種前に契約を締結するのではなく、農産物がすでに出来上がっている状況で契約を締結する場合です。
 この➀通常の売買契約については、単発の取引であることもあって、契約書を作っているという事例は多くないかもしれません。しかし、売り手からすれば、きちんと代金を回収できるかは最大の関心事ですし、買い手からすれば注文した農産物がちゃんと納品されるか心配になるところでしょう。
 電話などで買い手から注文が入り、指定された場所に送るという取引をすることがあるかもしれません。しかし、注文した商品と違った、支払われた代金が足りない、納品期日を過ぎても届かない、届いた商品に問題がある、といったトラブルが生じたときに、電話だけであると言った言わないの話になってしまい、トラブルの解決が困難になってしまいます。
 したがって、少なくとも商品と代金額、納品場所、納品期日といった最重要事項については、書面でお互いに確認をしておかなければなりません。最も簡単な方法としては、売り手の方で注文書のひな型を作っておき、その注文書に記載してもらってファックスやメールで送ってもらうというものがあります。このような方法でも、最もトラブルとなりやすいことについては、トラブルを回避したり、トラブルが起こっても早期に解決しやすくなるでしょう。
 
 もっとも、注文書だけでは記載できる事項に限りがありますので、特に取引金額が大きいような場合には、より詳細な売買契約書を締結するほうがよいでしょう。
 売買契約書に記載する主な事項には、以下のようなものがあります。
 
A)取引する商品
B)取引する量
C)商品の引渡時期・方法
D)売買代金
E)売買代金の支払方法
F)所有権の移転時期・危険負担
G)商品に瑕疵・問題があった場合の取扱い
H)契約の解除
I)義務違反時の損害賠償
J)裁判となった場合の管轄

 農産物の取引は売買契約であることから、売り手は農産物を買い手に引き渡し、買い手が代金を売り手に支払うことが中心的な内容です。
そのため、売買の対象物である農産物に関する(A)取引する商品と(B)取引する量については、具体的に記載することが重要です。特に、農産物は工業製品と違い、全く同じものは存在しませんので、例えば「リンゴ」といっても、その品種はもちろん、大きさや重さなどが一つ一つ異なります。「リンゴ」ならなんでもよいという場合を除けば、品種だけでなく、等級がある場合には等級のような指標で特定したり、場合によっては大きさや重さなどで特定するといったことも検討するとよいでしょう。
このように具体的に売買対象の農産物を特定することで、後になって納品した農産物が小さすぎるというような理由でトラブルになることを回避することができます。
また、売買契約のもう一つの中心事項である(D)売買代金や(E)売買代金の支払方法についても、誰が見てもはっきりとわかるように記載する必要があります。金額については確定額を記載して、あとで代金額をめぐる争いにならないように注意することが必要です。また、代金の支払い時期についても、いつまでに支払うのかといったことを明記しておくことも必要です。そうしないと、いつまでも支払われない状況になってしまうおそれがあり、資金繰りに窮する事態が生じてしまうかもしれません。
さらに、もう一つ指摘しておきたいのが、農産物に問題があった場合の取り扱い((G)商品に瑕疵・問題があった場合の取扱い)です。この点もトラブルになりやすい点ですので、問題があった場合の手続き(納品時にどんな検査をすべきか、問題が見つかった場合の通知の方法など)や期間制限(納品後いつまでに請求しなければならないか)、問題の解決方法(代品を納品するかなど)についても規定しておくとよいでしょう。特に、農産物は生鮮食品であるため、どんどん鮮度が落ちていきます。そのため、「問題がある」とされたものでも、それが納品時から存在していた問題なのかがはっきりしないことが多くありますので、問題があった場合の取り扱いについてもきちんと規定をしておく必要があります。

契約書を作るときには、インターネット上や書籍に載っている契約書のフォームを使うことを考えている方もいらっしゃるかもしれません。契約書フォームは確かに使い方次第では有用なものですが、特に農産物に関しては利用する際に注意が必要です。
というのも、一般的な契約書のフォームは、同じものをいくつも作ることができるという前提で作られているものがほとんどであり、多くの場合工業製品をイメージしているものです。しかし、農産物取引については、前記の通り、二つとして全く同じものはなく、売り手と買い手の認識に齟齬が生じやすいという特徴があります。さらに、生鮮食品であるがゆえに、早いペースで劣化が進んでいくという特徴もあります。
このような特徴を踏まえた契約書を作らなければ、実情から乖離した契約書になってしまうばかりか、場合によっては売り手または買い手にとって、一方的に不利な内容になってしまうこともあります。
だからこそ、このような特徴を踏まえた契約書作りが重要なのです。

➀通常の売買契約についてはここまでにし、次回は、➁継続的な売買契約と➂契約取引について説明していきたいと思います。

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