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2019年1月29日

農産物取引の契約書②

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 前回の「農産物取引の契約書」では、直接取引(市場外取引)の契約の種類として、①通常の売買契約、②継続的な売買契約、③契約取引の3種類を紹介し、そのうちの①通常の売買契約について、そのポイントをお話ししました。
 今回は、このうちの②継続的な売買契約について解説していきたいと思います。

継続的な売買契約とは

 最初に、「継続的な売買契約」の内容について確認しておきたいと思います。売買契約の基本とも言えるのが前回解説した「①通常の売買契約」ですが、これは取引が1回で終了するものを想定しています。結果として取引が複数回に及ぶこともありますが、契約としては別個の複数の契約があるにすぎず、全ての取引に共通する契約はありません。
 これに対して「継続的な売買契約」は、取引が一定期間(例:1年間)繰り返されることが予定されているものであり、その都度個別に契約書を締結していると煩雑であるため、取引全体に共通する大枠となる契約条項を定めておくものです。
 例えば、外食業者があるコメ生産農家から直接コメを購入したいと考え、コメ生産農家に「必要に応じて注文をするので、その都度注文した量のコメを売ってほしい」と連絡があったという事例を考えてみてください。この事例で、外食業者からコメ生産農家に対して、1月10日にコメ150kgの注文があり、2月3日にコメ120kgの注文があったとします。
 この場合、1月10日と2月3日にそれぞれ「通常の売買契約」を締結するという方法を取ることもできますが、この方法では注文の都度、契約書を締結することになり、契約条件の交渉を毎回行うことになります。これでは煩雑ですし、非効率でもあることから、注文量などの毎回異なる条件を除いて、全取引に共通する契約条項を定めた契約書を締結しておくという方法が取られます。このような契約書は「取引基本契約書」といった名称(名称はほかにも「継続的売買契約書」など様々です。)で作成されます。
 そして、取引基本契約書を締結した後、外食業者がコメを注文する場合には、例えば注文書を発送し、これに対してコメ生産農家が注文請書を発送することで個別の売買契約が成立し、具体的な取引が行われることになります。
 このような取引の形式では、(特別な合意をしない限り)この個別契約が成立するまでは具体的な農産物を売買する義務(生産者の農産物の引き渡し義務と購入者の代金支払い義務)が発生しない点に特徴があります。

継続的な売買契約(取引基本契約)のポイント

 継続的な売買のための取引基本契約では、通常の売買契約に規定する内容に加えて、以下のような内容を加える必要があります。

・個別契約の成立方法
・契約期間
・途中解約の可否

 前記のとおり、継続的な売買契約(取引基本契約)は、個別契約が成立してはじめて売買の具体的な義務(売主は農産物を引き渡し、買主は代金を支払う)が生じます。そのため、この個別契約がどのような場合に成立するのかを明らかにしておくことが必要です(この点をあいまいにしてしまうと、個別契約が成立していた=義務が発生していたか否かについて、トラブルとなってしまうことがあります。)。
 具体的な個別契約成立の方法としてよく見られるのが、買主が注文書を売主に送付し、売主が注文を受ける場合には注文請書を送る、というものです。このような方法であれば、Eメールやファックスなどのやり取りで個別取引を成立させることができますので、手続きとしても比較的簡単です。
 注文書には数量などの必要事項を記載することになりますが、価格については事前に決まった価格がある場合を除いて、その都度交渉する必要があります。実際には、事前に電話などで価格の確認・交渉を行い、価格について合意したうえで注文書を出すという方法を取ったり、注文書を受け取ってから売主が価格を提示して交渉するといった方法などがあります。
 いずれにしろ、価格や数量、納期などの重要事項については、口頭の約束だけでは誤解などが生じてトラブルの元となりますので、注文書などの書面を残すようにすべきでしょう。
また、通常の売買契約と異なる規定として、契約期間や途中解約の可否についての規定を設ける必要もあります。継続的な売買契約は、その名のとおり取引が継続することが想定されていますので、契約がいつまで続くのか、契約期間中でも解約できるのかといった点についても規定を設けておくことが必要です。

 そのほかにも、買主がどのくらいの数量を注文する予定であるのかを一定期間前(1~3ヶ月程度前)に売主に知らせる(購入予定量の通知)義務を課すことがあります。これは、売主が納品の準備をできるようにして買主が確実に購入できるようにするための規定です。また、事前に予定量を通知することで、買主が購入しない分については、売主が別の販路を確保しやすくするという機能もあります。
 さらに、一歩進んで、買主の最低購入量を義務として定める場合もあります。この場合、売主からすれば販売義務ということにもなりますが、安定的に取引を行うためには、このような最低購入量を定めることもあります。

契約取引との違い

 継続的な売買契約(取引基本契約)の説明を読んで、「③契約取引」についてご存知の方の中には、継続的な売買契約と契約取引は同じではないかと感じた方もいらっしゃるかもしれません。たしかに、農産物が出来上がる前に契約をし、一定期間取引が続くという点で継続的な売買契約と契約取引は同じような特徴を持っています。
 しかし、ここでいう継続的な売買契約とは、(繰り返しになりますが)個別契約が成立するまでは具体的な売買の義務が生じないものを想定しています。一方、契約取引では、契約取引の契約締結により、具体的な売買の義務(生産者は農産物を引き渡す義務、購入者は代金を支払う義務)が発生するものを想定しています。この点が両者の大きな相違点です。
 もっとも、実際には、継続的な売買契約でも、最低購入量・販売量を定めることによって契約取引との違いはほとんどなくなりますし、契約取引と言っていても、実際には個別契約の成立までは具体的な売買の義務は発生しないようになっている取引もあります。
 このように、継続的な売買契約と契約取引はその違いがなくなっている場合もありますが、ここでは契約の種類の整理のため、継続的な売買契約は個別契約の成立が必要なものとして、契約取引と区別して説明しています。

 このように継続的な売買契約では、具体的な売買は個別契約の成立が前提となっていることや取引が一定期間継続するといった特徴があることから、これらに対応した契約書とすることが重要です。
 次回は、直接取引の契約の種類の3つ目として、契約取引について取り上げていきます。

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