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2019年3月28日

農業ドローン、すでに16機種1000台に

 手軽に操作できる農業用のドローン(小型無人飛行機)利用が急増している。農薬や肥料、種子の散布、受粉の他、ほ場の観測(センシング)、鳥害獣対策といった用途が見込まれている。深刻な省力化の中で農家の関心は高いが、安全対策などの課題も山積している。

 春の農作業を前に、農業改良普及センターやJAの技術講習会が全国で開かれている。これまでは新しい農薬や肥料、トラクターの新機種紹介などが中心だったが、今年は各地でドローン講習が加わった。ふだんJAなどの会合には顔を見せない若い農家がたくさん集まり、会場は盛り上がっているという。かつて田植機やコンバインの登場が稲作栽培を大きく変えたように、ドローンの登場が農作業の姿を再び変える予感を抱かせる。

 現場でドローンの導入は爆発的なスピードで進んでいる。農水省によると、農業用のドローンは11メーカーの16機種が認定されている。機体登録数は1000台以上。2017年3月から18年末までに6倍以上に急増するペースだ。オペレーター認定者数も同じ時期に5・5倍に増えた。今後も勢いは加速する見通しだ。

農業用ドローン(山田勝氏提供)

 農業用ドローンの用途として、農水省は7つを挙げる。ドローンに農薬や肥料を積み込んでほ場に散布したり、収穫物運搬に利用したり、撮影した映像データ活用したりする。

ドローン用用途(農水省)


 先行しているのは農薬散布だ。これまでも無人ヘリコプターによる農薬の空中散布が行われてきたが、1台数千万円という高価な機体がネックだった。ドローンは数十万円から200万円前後の機種が多く、複数のローター(回転翼)で安定した飛行が可能。個人農家でも手が届く値段だ。

 「農薬散布作業を省力化できるだけではなく、病害虫の発生箇所を突き止め、ピンポイントで散布する技術も開発が進む」と同省は説明している。

 22年度までにドローンによる農薬散布面積を、現在の2万ヘクタールから50倍に相当する100万ヘクタールにまで広げるのが同省の腹づもり。ドローンの自動操縦飛行を認め、機体に搭載できる登録農薬を大幅に増やすなど普及を後押しする。吉川貴盛農水相は「(今年は農業用ドローン利用の)実証から実装の元年にしたい」(吉川貴盛農相)と省内にはっぱを掛ける。

 多くのドローンが農地の上を飛び回る時代を迎えようとしているが、課題も少なくない。

 いちばん大きいのは安全対策だ。ドローンは自動で空中停止するなどの複数の安全装置を組み込んでいる。オペレーターになるには操縦のための受講が条件だ。しかし、高濃度の農薬を搭載した数キロの重さの物体が、ローターを高速回転させながら移動するのがドローン。「空飛ぶ凶器」にしないための方策を最優先させるべきだ。万一の事故に備えた保険の普及も欠かせない。

 実際に農家が利用するための技術開発も急務だ。機体メーカーはもちろん、行政や農業団体を含め「あれができる」「これができる」と説明しているが、農薬散布を除けば開発途上の技術が多い。機体の普及だけが先行しているように見える。「スマート農業、ICTの掛け声に押されドローンを買ったが、結局はお蔵入り」となっては元も子もない。ブームに流されることなく、冷静な議論が必要だろう。

(ニュースソクラ WWW.socra.net  農業ジャーナリスト 山田優)

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