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2019年2月28日

農産物取引の契約書③

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 これまで連続して農産物の契約書について取り上げてきましたが、今回が最後となります。最終回では、直接取引(市場外取引)の契約のうち、③契約取引についてお話ししていきたいと思います。
 なお、①通常の売買契約は前々回、②継続的な売買契約については前回取り上げていますので、ご覧になりたい方はバックナンバーをご覧ください。

契約取引とは

 「契約取引」という呼び方は農業に特有の呼称ではないかと思いますが(「取引」はすべて「契約」に基づくものですので、最初に「契約取引」という言葉を聞いたときには、当然のことを言っているだけのように思えました。)、一般に使われる「契約取引」とは、「農産物の種まき(播種)前に生産者が取引先と農産物の価格、数量、対象(品質)について取り決める取引」を指します。
 もっとも、実際にはこの取り決めの範囲や程度には差があり、前回お話しした②継続的な売買契約との違いがほとんどないものも数多くあります。ただ、ここでは理解しやすくするために、契約取引を最も基本的な形態と言える「農産物の種まき前に」「農産物の価格、数量、対象(品質)について取り決める」ものとして考えていただければと思います。

 契約取引が利用されるのは、購入者サイドから見ると、安定的な供給を求めることを主な目的としています。例えば、食品加工業者や外食業者など、年間を通じて農産物が必要であり、かつ、相場に左右されずに安定した価格で購入することが必要な業者が契約取引をすることが多くなっています。
 食品加工業者や外食業者などは、一年を通じて商品を提供することが必要ですが、通常の取引で農産物を購入しようとすると、相場によって購入価格が大きく左右されることになります。しかし、こういった事業者は、原材料である農産物の価格が上がったとしてもそれをすぐに商品価格に転嫁することが難しいことや、そもそも購入できないことになれば商品を提供できないことになってしまいますので、安定的に農産物を調達する必要性が大きいと言えます。
 生産者サイドから見ると、種まき前から購入者が決まっていれば、作付計画を立てやすくなりますし、また相場に左右されずに農産物を売ることができますので、事業計画を立てやすくなります。確かに、相場が上がった場合でも低い価格で売ることになりますので、このような場合は損をすることになりますが、反対に相場が下がった場合でも、あらかじめ約束した価格で売ることができますので、長い目で見れば損得を平均化することができ、リスクを回避することができる取引です。
このような特徴のある契約取引はそれぞれにメリットがあることから、近年は拡大傾向にあります。

契約取引の契約書のポイント

 では、契約取引をする際の契約書のポイントとはどのようなものでしょうか。
 契約取引の特徴は、種まき(播種)前に農産物の価格、数量、対象(品質)といった条件を決めるところにあります。種まき前ですから、当然農産物の影も形もない段階です。そのため、買主としては「本当に約束したとおりの量、品質のものが届くだろうか」という点について関心が高いでしょうし、反対に売主(生産者)としては、「約束したとおりの量・品質のものを届けられるだろうか」という心配があります。そして、契約取引においてトラブルとなりやすいのも、約束通りの納品ができない(と主張される)ことです。
 そのため、契約取引の契約書では、まず価格、取引量、品質といった取引条件(上記で言うところの「約束」の内容)について、明確に定めておくことが必要です。約束の内容があいまいであると、売主(生産者)と買主が考えていることが違う可能性があり、後から思っていたものと違うというトラブルになってしまいます。
 例えば、品質について何の定めもしていないと、売主(生産者)としては十分な大きさだと思ったものでも、買主からすると小さすぎるので約束と違うということにもなりかねません。品質については、可能であれば等級など客観的な指標で定めておくことができれば、トラブルにはなりにくいでしょう。
 また、もう一つのポイントは、予定通りの収穫ができない場合の対応です。取引量については、重さなどの客観的な基準で決めておくことができれば「量が違う」といったトラブルになることも少ないのですが、問題は収量が予想に届かない場合の対応です。前提として、計画段階からリスクを回避できるように余裕を持たせないと、予定収量がぎりぎりとなってしまい、天候不良などの原因により合意していた取引量を確保できないことになります。そのため、ある程度余裕のある計画にしておくことも必要でしょう。
 また、余裕のある計画であっても、台風などの自然災害などで予定収量を大幅に下回ってしまうこともあるでしょう。このような場合に売主(生産者)はどのような対応を取らなければならないかといったことについても、契約で明確化しておくことが必要です。取引量を確保できない場合、契約の内容次第では売主(生産者)が責任を負う(最終的には損害賠償責任という形で金銭を支払うことになります。)ことになる可能性もありますので、注意が必要です。
 生産地を分散させるといったリスク回避の方法もあり得ますが、これはかなりの大規模農家であり、かつ生産地を分散させるという経営方針を取っていない限り難しいでしょう。ほかには、自然災害等により収量が確保できないことが判明した場合には、(単に生産者が責任を負わないとするのではなく)生産者も買主が取引量を確保できるように協力するといった義務を負うという方法も考えられます。
 
 このように、契約取引の契約書では、取引条件をあらかじめ明確化しておくことが重要ですが、あわせて予定通りにならなかった場合の対応についても定めておくことが必要です。買主としても損害賠償が得られることよりも、まずは予定通り農産物が確保できることの優先順位が高いはずですから、互いにとって最善となる方法を検討することが重要です。
 契約取引は不確実な点が通常の売買契約等に比べて多いため、売主と買主の利害対立が起きやすく、もともとトラブルの火種を抱えていると言えます。だからこそ、契約段階で十分な協議を行い、しっかりとした契約書を作っておくことが売主と買主の双方にとって重要です。

 3回にわたって直接取引(市場外取引)の契約についてお話ししてきました。直接取引の取引額は年々増加していますが、今後もさらに増えていくことが予想されます。そうすると、契約書の果たす役割も大きくなりますので、直接取引を行うときにはぜひ契約書を作るようにしていただければと思います。

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