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2019年7月29日

農業法人のM&A③

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 前回は、農業法人のM&Aにおいて利用することができるM&Aの方法について、その種類と目的について説明しました。今回はその中でも、利用頻度が最も高いM&Aの方法である株式譲渡について、農業法人の場合におけるポイントをお話ししていきたいと思います。

株式譲渡の特徴

 M&Aには様々な方法があることは前回説明したとおりですが、その中でも株式譲渡の最大の特徴は、会社の法人格を変更することなくそのまま取得することにあります。言い換えると、株式譲渡は株主が変わるだけですので、会社の外見はもちろん、株主以外の会社の中身も何も変わらないということです。
 そのため、会社が保有している資産もそのまま会社のものですし、負債もそのままです。また、取引先との契約や従業員との契約といった契約関係についても(個別に特別な合意をしていなければ)そのまま維持されます。
 このように、株式譲渡は株主が変わるだけでそれ以外は変わらないことから、手続きとしても比較的簡単で、M&Aとして利用される頻度が高くなっています。
 そして、そのほかの株式譲渡の特徴としては、会社の株式を100%取得することで会社の全部を取得することができることはもちろん、50%や30%など、株式の一部のみを取得することもできるということが挙げられます。そのため、複数の人・会社が一つの会社の株式を持つことができます。

農業法人の株式譲渡

 このように、株式譲渡は手続きとしても比較的簡単なことから、一般的な会社のM&Aでも最も利用頻度が高くなっていますが、農業法人において利用する場合には注意が必要です。
 農業法人(ここでは、農地を利用して農産物を生産している会社を「農業法人」と呼んでいます。)といっても、農地の利用形態は一つではありません。株式譲渡の場合にポイントとなるのは、農地を所有しているのか、それとも農地を借りて利用しているのかです。
 農地を賃貸借契約などによって借りて利用している場合には、株式譲渡においても株主の構成(株主が誰であるか、株式の所有割合がどの程度であるか)は事業の進め方に応じて自由に決めることができます。例えば、既存の会社が100%の株式を持つことで農業に参入することもできますし、すでに農業経営をしている場合には、個人が株式を持つことも、すでにある農業法人が株式を持つ(子会社化する)こともできます。
 しかし、株式を取得される会社が農地を(借りているのではなく)所有している場合には、株式取得後も農地法上の農地所有適格法人の要件を満たさなければなりません。そのため、原則としてその法人が行う農業に従事する者(「常時従事者」といいます。)が株式(正確には議決権です。)の過半数を持っていなければなりませんので、既存の会社の100%子会社とすることはできませんし、個人であっても常時従事者でなければ過半数の株式を持つことはできません。
 そのため、株式を取得される会社が農地所有適格法人の場合には、この農地法の要件を満たすように株主の構成を検討することが必要です。特に新規参入のためにM&Aによって農業法人を買収しようとする場合に注意が必要です。

 今後、規模拡大や農業への新規参入を目的として農業法人のM&Aが増加することが予想されます。株式譲渡は使い勝手のいいM&Aの方法ではあるものの、特に株主の構成について注意しなければならない場合がありますので、最初に対象となる農業法人の内容をしっかりと検討することが重要です。

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