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2019年8月28日

八百屋ベンチャーに注目 新たな価値が売り物

野菜・果実小売業者数の推移


旬八店頭 撮影は山田氏

全国で街の八百屋さんが減少する中、ベンチャー型八百屋の登場が注目されている。「新鮮・おいしい・適正価格」を掲げるアグリゲート社の旬八青果店だ。小回りの利く規模に抑え、粗利益を重視するビジネスモデル。ポイントは店員の目利き能力を引き上げ、野菜や果実の新たな価値を生み出すところにある。

 「大きなスーパーマーケットの場合、ダイコンやトマト、梨など一つひとつの青果物の種類ごとに管理するが、当社は店頭に置く〇〇農場のダイコンごとに管理する。そうすることで消費者に商品の価値を訴えられるようになる」

 東京・五反田にある本社で同社代表の佐今克憲さんに話を聞くと、「価値」という言葉を繰り返し口にした。

 佐今さんが起業したのは10年前。最初は業務委託でスーパーの青果部門を丸ごと借りてスタートしたが、「ある時トマトがいきなり売れなくなることがある。後で調べると、産地が変わり、味が変わっていた。トマトというくくりで管理すると、その辺りが見えない」という問題に直面した。

▽おいしさや鮮度売り物

 そこで、ダイコン1本のおいしさや鮮度という価値を訴える旬八青果店というコンセプトを生み出し、店舗展開を始めた。大型店ではなく、昔ながらの八百屋のイメージだ。現在東京都内に15、川崎市内に1店舗で営業する。

 店員やバイヤーは徹底して試食をする。食べ続けることで青果物が持つ価値を体で覚え、客が尋ねる「何がおいしいの」「今の旬は何」という質問に分かりやすく伝えられるコミュニケーション能力を磨く。アグリゲート社は、旬八大学を開設し、プロの八百屋として目利き能力を引き上げようとしているから半端ではない。

 本社横の店舗を訪ねると、こまごました野菜や果物に手書きのPOPが添えられ、特徴を売り込むスタイルだ。ちょうど夕暮れの閉店前だったので値引きの正札が目立った。若い主婦が珍しい野菜を手に取りながら料理方法を店員に聞く風景は、普通のスーパーではなかなか見ることができない。

 しかし、街の八百屋さんはまったく同じことをしていたのではないか。それが消費者の買い物行動がスーパー中心に変わり、八百屋さんの衰退につながった。経産省の商業統計で過去の「野菜・果実小売店」の数字をみると、1970年代まで6万店を数えていたが、2014年には2万店を割り込んだ。

▽需要の変化に商機

 いったんは失速したかに見える八百屋ビジネスに、なぜ旬八青果は商機を見いだしたのか。

 まずは需要の変化がある。おいしさや旬など、見栄えだけではない生活部の価値を評価しようとする消費者が増えてきたこと。需要の主流ではないが、高所得者を中心に、食生活でも本物志向が定着しつつある。

 「すばらしいトマトを栽培する高知県の篤農家から規格外品だけを仕入れている。消費者はおいしさに比べるとお値打ち品と考え、飛ぶように売れる」

 古い八百屋ビジネスでは卸売市場の仲買業者からの仕入れに頼り、産地の情報から隔絶されていた。「私たちは産地から流通、小売りまで一気通貫で取り扱うので、消費者が求めるものを素早く提供する」と佐今さん。小回りの利く旬八青果は、消費者の変化を機敏にすくい上げた。スーパーなどとの価格競争に陥らず、適切な粗利率を確保できるという読みだ。

 アグリゲート社は現在、店舗展開を保留し、既存店舗の収益性改善に取り組む。1店舗当たり月に900万円の売上高で200万円の営業利益を目標にして業務の見直し作業が進んでいる。

 「旬八青果の体質が筋肉質になったら、一気にフランチャイズで店舗を拡大したい」
 過去3年間に、JA全農、農林中金、三井物産から出資を受け、店舗拡大に向け社内のデジタル化などを積極的に進めているという。新しいタイプの八百屋が全国展開する日が近そうだ。

(ニュースソクラ www.socra.net 農業ジャーナリスト、山田優)

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