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2019年8月28日

農業法人のM&A④

弁護士・カリフォルニア州弁護士 大城章顕

 前回まで3回にわたって農業法人のM&Aについて取り上げてきましたが、今回が農業法人のM&Aの最終回となります。最終回では、農業法人のM&Aで利用されることが多い事業譲渡と(個々の)資産譲渡について取り上げます。

事業譲渡と資産譲渡

 事業譲渡とは、特定の資産や負債、契約などからなる「事業」を売却するM&Aです。譲渡される事業にどのような資産や負債、契約が含まれるかは当事者が選択します。前回取り上げた株式譲渡では会社そのものを売買することになりますが、事業譲渡では売手と買手の会社はそのままに、売手の特定の事業を買手が取り込むことになります。
 事業譲渡では、移転させる資産の移転手続きが必要となりますし、負債・契約については債権者・契約当事者の同意が必要です。農地については、買手となる会社が農地所有適格法人の要件を満たす必要がありますが、すでに農地所有適格法人である会社が買手である場合には、農地法に基づく許可を得る必要はあるものの、議決権要件といった農地所有適格法人の要件はすでに満たされているはずですので、改めて対応を取らなければならないわけではありません。
 これに対して資産譲渡とは、個々の資産を譲渡するだけであり、商品や土地の売買と変わりありません。農業法人の場合で言えば、土地や関連する建物、農機具といったものが売買の対象になります。
 この場合は単なる売買取引であることから、当然資産の移転手続きが必要になりますし、農地については通常の農地の売買として農地法の許可申請をする必要があります。また、当然ながら、会社の売買ではありませんので、買手がすでに農地所有適格法人であれば、改めて対応することはありません。

農業法人のM&Aにおける事業譲渡と資産譲渡の利用

 農業法人のM&Aにおいては、この事業譲渡や資産譲渡が利用される例が多くなっています。その理由としては、少なくとも現状ではM&Aの対象となる農業法人の規模が大きくなく、移転しなければならない負債や契約が多くないために、個々の資産や負債、契約の移転手続きがそれほど負担とはならないためであると考えられます。それに対して、例えば合併といったM&Aの方法は、契約等の移転については個々の手続きが必要とされなくても、合併を行うための手続きが複雑で簡単ではないため、むしろ事業譲渡や資産譲渡といった方法の方が簡単に行うことができます。
 また、株式譲渡との大きな違いとして、買い取った事業や資産を一つの会社の中で利用することになるという点が挙げられます。株式譲渡はあくまでも別会社のままですので、複数の会社を運営することの人的な負担、コスト面の負担を考えると、一つの会社の中で事業等を行う方がメリットがある場合も少なくありません。
 このように、農業法人の規模が大きくない場合には、事業譲渡や資産譲渡は有力なM&Aの方法として利用されています。

 繰り返しになりますが、今後、農業法人のM&Aは増加していくことが予想されています。それぞれのM&Aの方法の特徴とメリット・デメリットを踏まえて、いずれの方法が最適であるかを検討し実行することが、これからの農業の発展には必要なことかもしれません。

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