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2021年9月29日

データからみる外食産業の動向と今後の展望

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 2019年に発生した新型コロナウイルスが2020年に入り瞬く間に世界中に感染が拡大してから1年半が過ぎようとしている。2020年4月7日に埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県の7都府県に発令され、4月16日には全国に対象が拡大された緊急事態宣言は2021年9月14日現在ですでに第4回目の発令となっている。特に東京都においては図表1のように2021年に入ってから緊急事態宣言とまん延防止措置重点措置および東京都独自の時短要請の適用外となっている日がわずか21日しかない。

図表1 東京都における緊急事態宣言・まん延防止等重点措置の状況 (出所)各種資料より食農夢創作成

 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置によって多大なる影響を受けている産業と言えば外食産業を思い浮かべる人が多い。実際、メディアでも宣言の延長や解除という議論が出る度に都内の飲食店へのインタビューが放送されている。しかし、「外食産業は厳しい」というイメージが定着している一方で、実際にどのくらいの状況であるかをデータで取り上げられることは少ない。図表2は(一社)日本フードサービス協会が毎月発表している外食産業市場動向調査であり、各月の前年同月比との比較をグラフにしたものである。

図表2 外食産業市場動向(前年同月比) (出所)各種資料より食農夢創作成

 このデータから伝えたいことは2つある。一つは「外食産業と言っても業態によって新型コロナウイルスの影響に差がある」ということである。例えばファーストフード業界は最初の緊急事態宣言が発出された2020年4月に前年同月比84.4%となっているが、それ以外の月は約10%前後の減少と比較的安定しており、2021年以降は2020年を上回っている月が多い。一方、居酒屋は2020年4月が前年同月比8.6%(91.4%減)、5月が10%(90%減)となっており「Go To トラベル」や「Go To Eat」で賑わった2020年10月ですら前年同月比63.7%という状況であった。つまり、「外食産業が厳しい」と一概に言っても業態によっては影響に差があると意識しておかなければ本当の意味での動向は把握できない。
 もう一点が「数字のマジックに惑わされないで欲しい」ということである。図表2を見た時に誰も驚くのが「2021年4月」であろう。各業態の前年同月比の比較を見てみると、ファーストフード117.6%、ファミリーレストラン175.6%、居酒屋304.9%、ディナーレストラン296.4%、喫茶229.1%と前年同月比を大幅に上回っている。また、図表1と照らし合わせてみると、2021年4月は2021年で唯一の平常期間(全国含めて)と重なっている。そのため、「平時に戻った反動で外食産業に人が流れて新型コロナウイルスの感染者が激増した」という印象を持つかもしれない。しかし、注意しなければならないのは2021年4月の前年同月である2020年4月は最初の緊急事態宣言によって外食産業の各業態が最も影響を受けた月である。その点を鑑みると考えてみるとどうだろうか。平常時であった2年前の2019年4月を100%とした場合、2020年4月は前年同月比8.4%であり、そこから2021年の304.9%となったとしても平時であった2019年4月から比較すると25.6%にしかならない。実際、居酒屋の5月の数字を比較してみると2020年5月が前年同月比10%であるのに対し、2021年5月は102.7%とほぼ変わっていない。このように数字をきちんとデータを読みとらなければ誤った情報を受け取り、また流してしまうリスクがある。
 しかし、外食産業も悲観ばかりではない。日本政府が進めている新型コロナウイルスのワクチン接種については2回目の接種が終わった人が64,476,713人(9月13日時点)と日本の人口の半数に達しており、政府の中ではワクチン接種証明や陰性証明による酒類提供等の制限の緩和の話が出始めている。デルタ株によるブレイクスルー感染のリスクはあるにしても状況は確実に変わっている。その新たなステージに入った局面で、新型コロナウイルスによって1年半以上制限をされ続けた消費者の「反動」がどのような外食業態へ向かうかを予想し、準備することがウィズコロナ・アフターコロナの鍵を握るのではないか。

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