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2021年10月27日

「規格外品(訳あり品)」ビジネスはSDGsなのか!?

株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人

 最近、食と農林漁業分野に関連する企業から「SDGsに取り組みたいがどうすればよいか?」という相談をいただくことが多い。SDGsとは「Sustainable Development Goals」の略称であり「持続可能な開発目標」と訳されており、17のゴールと169のターゲットから構成されている。

フードロスという社会課題の解決=SDGs

 特に2次・3次事業者が興味を持っている分野の一つが「フードロス」である。日本では年間約600万tがまだ食べられるのに廃棄されているというデータもある。そのため「現場で廃棄されている規格外品(訳あり品)を活用することでフードロスの削減=SDGsに取り組みたい」という相談が多い。現在の市場流通は厳格な規格によって仕分けされており、少し形が悪かったり、傷がついているだけで正規品としては市場に出荷できないのが現状である。最近ではスーパーや直売所でも「規格外品(訳あり品)」として並んでいる光景を目にするし、ネット上でも「訳あり品」を専門に取り扱うサイトが増えている。しかし、この「規格外品(訳あり品)ビジネス=SDGs」という考え方に筆者は違和感を覚えている。その理由について述べていく。

図表 SDGsにおけるフードロス削減 (出所)外務省HP等より食農夢創作成

違和感①:規格外だから安くて当然

 「規格外品(訳あり品)」ビジネスにおいて、多くの2次・3次事業者は「本来は捨てるものなので、安く仕入れるのが当たり前」という考えで動いている。しかし、規格外であろうが、栽培過程では肥料も農薬も使用するし、栽培や収穫、仕分け作業には当然人件費がかかっている。そのことを考慮せずに「どうせ捨てるのだから・・・」と安く仕入れようとするのは、筆者からすれば形を変えた「買い叩き」のように感じざるをえない。

違和感②:規格外品と正規品の価格競争

 スーパーや直売所で「規格外品(訳あり品)」を販売するのは、結局は販売価格を下げている可能性がある。実際、正規品と比べて「規格外品(訳あり品)」は安く販売されていることがほとんどであり、消費者側からすれば、少し形が悪かったり、傷があっても味が変わらないのであれば価格の安い「規格外(訳あり品)」から購入するだろう。その結果、正規品が売れ残ってしまったらどうだろうか。販売者は正規品を値下げしてでも売ろうとするかもしれないし、鮮度の問題で正規品を廃棄しなければならない可能性もある。どちらにせよ、結局は生産者の所得は下がってしまう可能性が高いし、そもそもの目的から考えたら本末転倒である。

違和感③:規格外品と安定調達の矛盾

 一番の課題が「安定調達」である。まず「規格外品は正規品では出荷できないもの」なのでどのくらい確保できるかが見通せない。それは天候によっても左右され、気象条件が良ければ規格外品の量は減るし、逆に気象条件が悪ければ規格外品の量が多くなる。2次・3次事業者からすれば安定的に調達できないのであれば売上計画も見通せないので事業化にしにくい。「足りないのであれば正規品を回せばよいのでは?」と思う人もいるかもしれないが、「安く仕入れる」ことを前提としているので、正規品ではコストが合わない。

小手先だけではないフードロスの実現を

 最後に、筆者は「規格外(訳あり品)」ビジネスを頭から否定しているわけではない。実際、規格外品の活用はフードロスに繋がることは間違いないし、生産者の所得向上にも繋がっている事例も全国には多く存在している。また、コロナ禍では観光需要の減少やイベントの自粛により商品が大量に余ってしまい、値下げしてでも在庫を売り切らなければ資金繰りすら危ういという状況の事業者もいることも事実である。
 本稿で伝えたいことは、安易に「規格外品(訳あり品)」の活用による「フードロス削減=SDGs」を目指した結果、一番重要な「持続可能性」が欠け落ちてしまった取り組みになりかねないということである。本当にフードロスを削減したいのであれば、「規格外品(訳あり品)」から入るのではなく、正規品の取引を通じて、その上で規格外品も一緒に買い取る。さらに言えば、規格外品を正規品と同じ価格(kg単価)で買い取るビジネスモデルを作れれば、より生産者の所得向上および産地の持続可能性にも繋がる。そのようなビジネスを創造してこそ、第1次産業の持続可能性に貢献し、かつフードロスの削減およびSDGsを実践していると胸を張って言えるのではないだろうか。

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