2022年2月28日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
今年度から農林水産省にて始まり、初年度となる今年度は全国で22の都道府県が採択された「地域食農連携プロジェクト(LFP:Local Food Project)推進事業」もいよいよ大詰めを迎えている。筆者は岐阜県LFPの事務局として本事業に関わっている。今回は岐阜県LFPの取組みについて紹介したい。
LFPでは、地域経済の持続的発展のために、地域の将来像を見据え、社会的課題の解決と経済的利益を両立させるべく、①地域内外の食と農に関する多様な関係者が参画したプラットフォームを形成し、②異業種等の技術・知見の融合や産業連携による「イノベーションの誘発」、消費者ニーズや消費行動の変化に対応する「バリューチェーンとサプライチェーンの構築」し、③新たなビジネスモデルの創出をする、ことを目的としている。
端的に説明すれば、LFPはこれまでそれぞれの事業者が取り組んできた6次産業化や農商工連携からもう一歩進んで、地域全体(点ではなく面)で新しいビジネスモデルを創出することを目指している。
岐阜県LFPのプラットフォームには6次産業化に取り組む農林漁業者、食品事業者、流通事業者、関係機関など14団体が参画している(LFPパートナー)。パートナーの中で特徴的であるのは子育て世代のママやパパで構成されるNPO法人こどもトリニティネットがいることであろう。こどもトリニティネットは、①子育て世代に特化した社会的問題を見出し行政や地域社会へのアドボカシー(=政策提言)をすること及び、それらの解決すること、②子育て世代の本質的なニーズを把握し「このまちで子育てがしたい」「子育てをしよう!」と、子育て当事者が実感できる地域社会の実現を目指しており、まさにLFPの目指す「社会課題の解決」にとっては必要不可欠なパートナーとなっている。
岐阜県LFPでは7月から9月にかけて3回にわたって研修会を開催した。そこで、まず、そこで岐阜県内における社会的課題を洗い出した。その結果、“農村における課題”、“環境における課題”、“ビジネスにおける課題”、“生活環境における課題”、“文化に関する課題”、“お金に関する課題”に整理した。特に“生活環境における課題”では「一度出産のために仕事からフェードアウトしたママ達が社会復帰するためのハードルがまだまだ高い」という切実な課題が浮き彫りになり、その上で、岐阜県LFPパートナーの強みを生かして何が解決できるかを検討した。
その結果、辿り着いたのが「農村地域の維持・活性化」と「子育て女性の社会復帰」という2つの社会課題を解決することを目指した「消費者(女性)参加型の商品開発による地域循環ビジネスの構築」であった。そして、岐阜県LFPの中心的役割(事業主体)として白羽の矢が立ったのが、先述したこどもトリニティネットである。
今回、岐阜県LFPとして開発に至った商品が「家族で楽しめる幼児食スープ」である。これはこどもトリニティネットのメンバーが、自分達が子育てをする中で「親(自分達)の食事と子供(幼児)の食事を別々に作らないといけない」という苦労・手間を解決するために考えたスープである。このスープは子育てで忙しいママ(パパ)の手間を少なくするだけでなく、大人と幼児が同じスープを食べられることによって親子(祖父・祖母まで3世代)で食事を共感できるという魅力もある。また商品「GIFU to SOUP」は「岐阜(ギフ)」と「ギフト」を掛けて「“岐阜って美味しい”を届けたい」という想いで付けられている。
ビジネスモデルという視点でも見てみたい。スープの原料となる農産物はLFPパートナーである阿部農園、石川農園、㈱寺田農園を含む岐阜県産の農産物が中心となっている。それを同じくLFPパートナーの㈱まんま農場が低温スチームでペースト加工、このペーストだけでもさらに美味しいが、それに下味をつけることで温めればすぐに食べられるようにした。商品開発やブランディングにはLFPパートナーの恵那川上屋も協力しており、岐阜県内で農産物がペーストに加工され、スープとなり、地域内で循環するビジネスモデルとなっている。
そして、忘れてはならないのが、このスープを開発するまでにLFPパートナー全員から意見をもらい、反映していることだ。LFPパートナーには200年以上の歴史を持つ㈱秋田屋本店やスーパーマーケットを展開する㈱バロー、また地域金融機関や関係機関にも参画いただいており、いわば岐阜県LFPみんなで生み出した商品なのである。
みんなの想いがつまった商品は2月15日からMakuakeでテストマーケティングがスタートしたところであり、その結果や消費者からの反応を踏まえて改良していかなければならない。
【ママ考案】大切なひとに食べさせたい栄養満点スープ
https://www.makuake.com/project/kodomotrinitynet/
この事業を軌道に乗せることができれば、スープの原材料となる農産物を全て岐阜県産にするために産地づくりから生産者と連携することも可能となる。また、こどもトリニティネットとしてもスープを販売し、また新たな新商品を開発していく過程で、メンバーである子育てママ(パパ)達にも仕事を生み出すことができる。まさに岐阜県LFPが目指す「農村地域の維持・活性化」と「子育て女性の社会復帰」という社会課題の解決を実現できるのである。まだまだスタートし始めた岐阜県LFPではあるが、是非、類を見ない新しい取り組みに注目をしていただきたい。