2022年5月30日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
筆者は1月31日のコラム『コロナ禍で求められる「食育」から「食農教育」への転換(https://jfaco.jp/column/2589)』にて、農林漁業の現場での食農教育の必要性を提案している。5月某日、千葉県にて食農関係の友人達(子供含む)と実際に「農林漁業」から「食」まで体験する「食農教育体験ツアー」を実施した。今回は、そのツアーの内容と行った感想について述べてみたい。
まず集合したのが千葉県成田市の成田空港に隣接した「新生成田市場」である。この市場は国内外へ食を提供する日本初のワンストップ輸出拠点として今年の1月20日に開設したばかりである。当日は日曜日だったため市場自体は休場であったが、新しくできた市場の中を視察させてもらった。また、活魚車で運びこみ生け簀で管理していた鯛をその場で締める様子を実際に実演してもらった。子供達にとっては、実際に生きている魚を締める様子を見る機会はそうはなく、飛び跳ねる鯛に驚きながらもじっくりと観察していた。
次に移動したのが千葉県山武郡横芝光町。長靴に履き替え、動きやすい恰好で山林の中へ入っていく。山林を登る途中も「体験」が待っている。目を凝らしながら「タラの芽」を探し、見つけたら収穫していく。そして、山林の中で「たけのこ掘り」を行った。「たけのこ掘り」も「探す」「掘る」「獲る」という作業があり、それぞれの過程でコツが必要になる。最初はとまどいながらも慣れていくとそれができるようになる。また、伸びすぎてしまったたけのこは山林の維持のために折っておく必要があり、子供達は楽しみながら伸びたたけのこを折っていく。子供達はたけのこを「掘る」という体験だけでなく山林の維持・管理にも貢献できるのである。
たけのこ掘りの後は田んぼに移動。「田植え」というとみんなで横一列に並んで苗を一本一本手で植える「手植え」をイメージする人が多いかもしれないが、こちらでは田植え機に乗車しての「田植え」体験。自動で苗を植えながら肥料も同時に巻いていく。また田植え機はGPS付きであり、人が操作しなくても真っすぐ進んでいく。いわゆる昨今注目されている「スマート農業」である。自動で進んでいくので子供が乗っても安心であり、子供にとっては田植え機を“運転している”ような体験もできる。さらに「スマート農業」の魅力を味わうこともできるのである。
ランチは㈱アグリスリーが運営する“コミュニティカフェ&農家のキッチンLABO”「Farm to…」(横芝光町坂田)へ。こちらではアグリスリーが自社で栽培する梨、お米、野菜や地域の食材を使用した「地産地消」料理やスイーツが堪能できる。また、アグリスリーが自社で加工品開発やレストラン運営といった「6次産業化」に取り組むことによってフードロスをほぼゼロにできているということも話してもらうことで子供だけでなく大人もSDGsの勉強になる。
また、成田市場で締めた鯛を友人が捌いて刺身として、たけのこ掘りの時に獲ったタラの芽と当日朝に収穫してくれていたたけのこの天ぷらとして提供もしてくれたのである。まさに生産現場に近いからこそできることであり、産地だからできる「農林漁業体験」と「食」を組み合わせた「食農教育」である。
今回、実施したのは千葉県だったが、このような「農林漁業体験」は千葉県だけでなく全国各地でできる。海に面している地域であれば「定置網漁体験」や「釣り体験」、海がなくても川や池でできる体験があるはずである。その地域でしか体験できないオリジナルの体験ツアーを企画できると期待している。そして、大事なのは「食」に繋げることである。収穫した素材をその地域ならではの食べ方や料理で食べる。伝統的な特産品などがあれば加工や料理体験も「伝統文化×体験」を組み合わせることもできる。
コロナ禍がまだ収束したわけでなく、観光産業や外食産業もコロナ以前に戻るのにまだまだ時間がかかることが予想される。しかし、一方で2年以上行動制限を強いられてきた消費者はこのゴールデンウイークを見てわかるように旅行や外出することに飢えている。そんな今だからこそ、農林漁業という外で「体験」ができ、さらに「食」まで楽しみ、かつ子供達の「食育」にも繋がる「食農教育」にビジネスチャンスがあるような気がしてならない。