2023年2月27日
株式会社食農夢創 代表取締役 仲野 真人
筆者は農林水産省からは農山漁村発イノベーションエグゼクティブプランナー(旧6次産業化エグゼクティブプランナー)を拝命し、生産だけでなく加工・販売まで一体的に行う「6次産業化」により農林水産物の付加価値を高める支援を行っている。しかし、どの生産者支援においてもネックになるのが出口戦略である。既存の販路はすでに多くの競合がひしめき合っており、その中で差別化をすることが簡単ではない。そこで本稿では、新しく需要を創造する取り組みとして、筆者が支援している鹿児島堀口製茶㈲の取り組みについて紹介したい。
鹿児島県志布志市にある鹿児島堀口製茶㈲は「品質本位、顧客第一主義、価値創造」を経営理念とし、系列農家合わせて約300haの茶畑を管理している、お茶業界における日本有数の農業法人である。また、化学農薬に頼らないIPM農法とロボット、AI、IoT等の先端技術を活用したスマート農業を掛け合わせた「スマートIPM」、茶の生産だけでなく煎茶・碾茶の加工から最終商品の製造、また創作茶膳レストラン「茶音の蔵」の運営などの「6次産業化」、そして海外への「茶の輸出」など、常に新しい農業経営にチャレンジしている。
図表1は緑茶の消費量の推移である。2011年に87,106tであった緑茶の消費量は上下を繰り返しながら2020年には68,442tに減少している。2019年から2020年に急落しているのは、新型コロナウイルス感染症が大きく影響している。
年々緑茶の消費が減っている要因として大きく2つの要因が考えられる。一つは飲料としての選択肢が増えたことである。お茶で言えば緑茶だけでなく、紅茶、ほうじ茶、ウーロン茶、ハーブティーなど様々な種類のお茶が増えており、また茶以外にもコーヒーや清涼飲料水、ミネラルウォーターなど競合も増えている。もう一つが、緑茶を飲む文化の衰退である。ペットボトルが当たり前となった一方で、自宅にて急須でお茶を飲む習慣がなくなってきたことも影響している。
鹿児島堀口製茶の主力商品の一つである「あらびき茶」は、独自に研究した粒度で一番茶の緑茶をまるごと粉末化した商品で、新しい挽き方だから「あらびき茶」と命名されている。緑茶の風味も強く、粒度もこだわっているので溶けやすく、お湯に溶かして緑茶として飲むのはもちろん、牛乳と合わせてラテにしたり、スイーツや料理にも使える万能商品である。その中で、筆者が飲食店に向けて新たな飲み方として提案しているのが「あらびき茶」とビールを掛け合わせた「あらびき茶ビール」である。ビールに緑茶を溶かした緑色のビールはスッキリとして飲みやすくビールが苦手な人でも飲みやすいと好評をいただいている。
この「あらびき茶ビール」は、緑茶の消費を増やすだけでなくビール業界にも貢献できる可能性がある。図表2はビール類(発砲酒、新ジャンル含む)の消費量の推移である。こちらも2011年の560万klから2020年には480万klに減少している。2019年から2020年は新型コロナウイルス感染症の影響もあるが、ハイボールやレモンサワーブームなどもありビール離れが進んでいる。そこで「あらびき茶ビール」が浸透すれば緑茶もビールも両方の消費量が増える可能性がある。
いきなり緑色のビールを出されても受け入れられない人もいるかもしれない。しかし、ビールは様々な組み合わせで商品化されている。トマト×ビールの「レッドアイ」、ジンジャーエール×ビールの「シャンディガフ」、最近では2022年にサントリーが開発した「ビアボール」はビールを炭酸で割ることでハイボールのような飲み方を提案している。つまり、「緑茶×ビール」があっても何ら不思議はない。
今回は鹿児島堀口製茶のオリジナル緑茶粉末「あらびき茶」の事例を取り上げたが、「お茶だからできること」と思う生産者もいるだろう。しかし、ここで伝えたいことは、品目の可能性を徹底的に追求し、料理シーン・利用シーンも含めて食文化を提案していくことで需要を創り出すことができるということである。そのためにも従来の概念を取っ払って老若男女問わず様々な意見と取り入れて考えてみて欲しい。