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2023年10月27日

体験農園、コト消費に向けたサービスマーケティングを考える

(公財)流通経済研究所
農業・環境・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

 

■マーケティングの4P

 有名なマーケティング用語に、4Pがある。これは、マーケティング戦略として、ターゲット顧客を決めて、差別化の要素を検討(ポジショニング)したのち、具体的な実施内容を考えるうえで重要な頭文字がPで始まる4つの要素を指す。
 第一のPは製品(Product)であり、第二のPは価格(Price)、第三のPは販売場所などチャネル(Place)であり、第四のPは販売促進や広告(Promotion)である。どんな商品を、いくらで、どこで、どうやって宣伝して売るかを考えましょう、というものであり、マーケティング理論の古典でありつつ、一般的な検討方法として定着している。
 

■マーケティングの8P

 しかし、「体験」を提供するようなサービスを実施する場合、あるいは直売所やカフェを運営するような事業を行う場合は、4Pだけではない要素が求められる。そこで提唱されているのが、7Pや8Pと言われる考え方である。以下、具体的に見てみよう。まずは、通常の4Pと同じ部分である。

①製品(Product)は、サービス・プロダクトとなる。商品としてのサービスの設計をどうするか、という要素である。カフェであればメニューであり、体験消費であれば、「何を体験してもらうか」である。
②価格(Price)は、サービスの価格だけではなく、その他のコストも検討が必要になる。例えば、イチゴ狩りのサービスにおける価格を考える上では、イチゴ狩りの体験にかかる料金だけではなく、その場所まで来てもらう交通費も含めて検討する必要がある。
③場所と時間(Place & time)では、サービスの提供なので流通チャネルというよりは、体験実施場所や店舗の立地、営業時間などを指す。カフェであれば店舗の立地や営業時間、体験型サービスの場合は、どこで実施するか、どれくらいの時間、体験してもらうか、である。
④プロモーションと啓発(Promotion & education)は、広告宣伝、販売促進に加え、消費者側への啓発や知識の提供を指す。体験型の場合、特に後者が重要で、「体験することでどのような学びを提供するか」を含めてサービスを検討する必要がある。

 続いて、サービスマーケティングに特化した内容として、残りの4つのPを紹介する。

①1つは、物的環境(Physical environment)である。これは、サービスを提供する物理的な環境を指す。例えば店舗であれば、サービスを提供する場となる建物の外観や内装、立地、インテリアなどの環境がこれに相当する。
②2つ目は、プロセス(Process)である。これは、どのようにサービスを顧客に提供するか、一連のサービスを提供するまでの流れや段取り(プロセス)を指す。顧客の体験には、全てプロセスが存在しており、そのプロセスまで検討することが重要である。体験型サービスの場合、予約から来場、体験、解散までの一連のプロセスを考慮する必要がある。
③3つ目は、人(Person)である。ここまでをサービスマーケティングの7Pという。これは、サービスを提供するスタッフや、その対象顧客以外の顧客などを指す。サービスの場合、必ず何かしらの人との接点が生まれるため、それを考慮する必要がある。
④最後に8Pという場合は、生産性とサービス品質(Production & quality)が加わる。これは、生産性と品質を同時に検討する必要がある、ということを示している。一般的には、サービスを考える場合、効率性を追い求めるとサービスの品質は下がり、サービスを追求しすぎると生産性が低くなる。そのため、サービスと品質は同時に検討・改善が重要であると言える。

図 4Pと8P

■サービスマーケティングの8Pを考えるために

 体験農園や体験教室などを実施する場合はもちろん、店舗を構えて販売を行う場合など、「サービス」を実施する場合、マーケティングの8Pを考慮すると効果的であるが、どのように検討を行えばよいだろうか。
最も簡単な方法は、顧客視点でサービスの全体像を辿ってみることである。これは、サービスの提供を受けるまでの一連の流れで考えていくことである。例えば、イチゴ狩りというサービスを提供する場合、顧客視点で一連の流れを一例として簡単に辿ってみると…

  1. どこかでサービスの存在を知る(いちご狩りしたいと思った時に、インターネットで調べるなりしてサービスを知る)
  2. 日程を決めて予約する
  3. 当日、いちご狩りの受付事務所まで来場
  4. いちご狩りの説明と料金の支払い
  5. いちご狩りの実施(合間合間に写真をスマホで撮影)
  6. お土産としてのパックいちごの購入

といった一連の流れが存在する。
 それぞれの工程において、どのようなサービスや体験を提供できるか、8Pの視点で考えることが重要である。例えば、「予約をどのようにするか」はプロセスであるし、事務所で受付する場所や設備などは物的環境であるし、受付スタッフの接客は人(Person)である。

 新しいサービスのビジネスモデルを検討するとき、あるいは既存のサービスの見直しを行うとき、ぜひ8Pの視点を使いつつ、顧客の体験を丁寧に追いかけてみて欲しい。あるいは、他社の同様のサービスを自ら体験してみても良いだろう。客観的に自分のサービスを見直すキッカケになるはずだ。

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