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2023年12月18日

農産物分野×GPSの可能性

(公財)流通経済研究所
農業・環境・地域部門/研究員 高橋 漱(たかはし そう)

■ 米国の軍事技術だったGPSとは?

 今日、GPSという言葉とその機能を知らない人はいないだろう。GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)は、指定された地点に航空機から爆弾を正確に落とすミッションの技術として米国国防総省によって1970年代に開発された。大韓航空機撃墜事件を経て、自身の位置を知るニーズが世界的に高まったことや、GPSの根幹技術の特許を世界中で取得した米国がライセンス料増大を目論んだことにより、1990年代に民生利用が解放された。
 現在では、移動体ナビゲーションに留まらず、スマートフォン・時計等のあらゆる機器で、位置情報や時刻の取得に利用され、GPSは人間が日常生活を営むために不可欠なインフラとなっている。

■ 5m~数十mの測位精度……常に正しい位置を教えてはくれない

 ところで、GPSの測位精度についてはどの程度知られているだろうか。
 GPSは、上空に遮蔽物がない環境では、正しい地点から5m程度の誤差で位置情報を取得できる。一方で、高層ビルが密集した都心部では、信号が劣化してしまい、正しい地点から数十m以上離れた位置を示すこともあり、精度を期待することは難しい。以上が、一般的なGPSの測位精度に関する理解である。この測位方式は「単独測位」と呼ばれ、2000年代には既にコモディティ化して技術として特筆すべきポイントはない。
 ところが、都心部のような厳しい環境でなければ、GPSがcm級の高精度で位置を特定できることはご存知だろうか。その技術の1つが「RTK測位」である。

■ RTK測位……ピンポイントで位置を教えてくれる

 RTK測位は、Real-Time Kinematicの略称であり、国土地理院が運用する電子基準点(正確な緯度・経度・高度が分かっている地点)でのGPSの位置情報を取得し、測位計算により誤差要因を相殺することでcm級の高精度で位置情報を取得できる測位法である。
 近年、大手通信キャリアが国土地理院を上回る機能の電子基準点システムを提供しているため、受信機(数万円/台)を調達し、このサービス(数千円/月)を契約すれば、少ない投資で高精度位置情報をいつでも取得できる時代なのだ。

■ 「農産物分野×高精度測位技術」で何が起こるか?

 農産物分野の生産から販売までの各プロセスにおいて、RTK測位の利用事例はほとんど存在しない。本コラムでは、農産物分野におけるRTK測位の利用法をアイデアとして提案したい。

表1 高精度測位の利用アイデア

図1 生育モニタリング

図2 ドローン輸送

図3 パレット管理


図4 輸送品質管理

 上記アイデアはほんの一例に過ぎないが、RTK測位による自動化・無人化が、労働力不足等、農産物分野の事業者が日々対峙する課題を解決する手段となる可能性を秘めている。

■ みちびきが日本上空で一歩上をいくサービスを展開

 日本でも、GPSと同じ機能を持つ測位衛星みちびきが2010年に打ち上げられて、2023年現在4基体制となっており、東南アジア上空には常に1基以上のみちびきが位置している。下図のように、2024年度に7基体制となることで、日本国内ではGPSを利用せずにみちびきのみを用いて測位できる環境が整う。
 さて、みちびきが上空にいるおかげで測位精度が高まるという話を聞くが、これは誤解を招く表現である。日本上空には常に20~30基の各国の測位衛星があり、測位に利用可能な衛星数は既に足りているため、みちびきによって測位精度が、今以上に向上することはない。

図5 みちびき運用スケジュール(内閣府HPより作成)

 みちびきはGPSにはない固有の機能を持っており、そのなかの1つにCLAS(センチメートルレベル補強サービス)という測位信号がある。CLAS対応の受信機を用いることで、電子基準点サービスを利用せずに、スタンドアロンでcm級の高精度位置情報を取得できる。さらに、離島・海上でも測位可能なことが優位点である。RTK測位は本州陸上での使用を想定されており、離島等では電子基準点がない限りは機能しない。
 ところが現在、CLAS対応のリーズナブルな受信機は上市されていない。価格が十万円帯の大きな受信機であるため、積極的に採用することは難しい。一方、チップスケールで低価格帯のCLAS対応受信機が出現するときの準備として、みちびきを用いた高精度測位技術については引き続き着目していく必要がある。

■ 国産の新技術で高付加価値事業を拓く

 上述した高精度測位の利用アイデアの話に戻ろう。例えば、ある離島でしか生産されない非常に美味しいけれど日持ちしない高単価な青果物を消費地に届ける生鮮サプライチェーンを考えた場合、ドローンを指定したウェイポイント通りに正確に飛行させるにはCLASの測位がキー技術となる。
 内閣府ではみちびきの固有サービスを用いた取組みに対する補助金を組んで、社会実装を目指している。しかし、現時点では農産物分野での採択例は少ない。高精度測位技術の利用可能性を開拓することが、今後の農産物分野での高付加価値事業を生み出す端緒となることを期待する。

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