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2024年3月26日

「環境対応」すれば商品は売れるか?

(公財)流通経済研究所
農業・環境・地域部門 部門長/主席研究員 折笠 俊輔

■環境対応が付加価値……の幻想

 SDGsやみどりの食料システム戦略など、いわゆる「環境対応」に関連する話をこの数年で良く目にするようになった。小売業などもSDGsに力を入れている今、「環境対応すれば、それが付加価値となる」と考えがちである。
 つまるところ、環境対応の商品は、それを評価してくれる顧客に高く売れるはず! という発想である。しかし、これは本当だろうか。
 図1は博報堂生活総合研究所による「生活定点」調査の結果のうち、環境保護を考えた商品に関する意向の結果である。環境保護を考えた商品なら今より価格が高くても買う、と答えた人の割合は1992年から2022年にかけて10ポイント以上減少している。

図1 環境対応商品の購買意向


 図2は、同じ生活定点調査から、消費者が環境保護を考えているか、環境保護の行動を実行しているのか、について回答したものである。こちらも1998年から2022年にかけて、環境保護を考え、行動している人の割合が減少している。

図2 環境保護意識と行動


 この2つの調査結果が表しているのは、「環境保護」を付加価値として訴求したとしても、高く売れるものにはならない=付加価値にはなりえないということである。

■エコロジー消費における生活者のコスト・労力と便益の関係

 ではなぜ、環境対応が付加価値にならないのだろうか。そのヒントは図3にある。図3は西尾(1999)の図であり、エコロジー行動について整理したものである。一般的に環境保護やエコロジー行動は、コストや労力を要するものとしてとらえられている。

図3 生活者のエコロジー行動


 そのため、それらのコストや手間に対しての便益(ベネフィット)が重要であり、ベネフィットが大きく、コストや労力が小さい取組であれば、消費者に支持されやすい。
 よって、ここで言えることは、農水産物の生産:加工等に取り組む事業者が環境対応を経営に活用し、マーケティングに利用したいと思う場合は、できるだけ生活者のコストや労力を小さく抑えること、生活者が得られるベネフィットをしっかりとアピールすることが重要だということである。ベネフィットには当然、環境対応以外の要素も含まれる。単純化して言えば「美味しくて環境に良いなんて最高じゃないか!」ということである。環境を前面に出すのではなく、消費者のベネフィットに着目する必要があるのだ。

■環境訴求で考えたいこと

 また、環境訴求のマーケティング的な効果が低い要因として、「手触り感が無い」ことがあげられる。生活者が、手間をかけて、コストをかけて、環境対応の購買行動をしたとしても、その成果が分かりにくいのである。
 極端な話、環境配慮の農産物を買って、GHGを100g削減できたとしよう。それによって、どれくらい地球が良くなったのか、目で見ることは難しく、達成感を得られにくいのである。
環境対応をすることによる生活者の成果を分かりやすくするためには、訴求の粒度を小さく、身近にするアプローチが必要である。「地球」と言われても生活者はピンとこないが、近所の地名であれば良く分かるのである。例えば、「海を綺麗に!」というのは、単なるスローガン、タテマエにしか見えない人が多いだろう。しかし、「学校の裏の渡良瀬川を綺麗にしよう」という身近にある場所をテーマにしたアプローチであれば具体的なイメージが湧き、実際に川が綺麗になれば目に見えて達成感がある。

■まとめ

 環境対応商品・農産物をマーケティングする場合は、環境対応の訴求は身近なテーマで手触り感がある形でおこない、それに加えて消費者のベネフィットに合わせた価値も訴求することが重要なのである。

<参考文献>
「エコロジカル・マーケティングの構図」、西尾チヅル、1999年、有斐閣
博報堂生活総合研究所「生活定点」調査、https://seikatsusoken.jp/teiten/

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