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就労人口あたりでは建設業の2倍 高齢者対策が急務

2018年8月29日

農作業事故 年300人以上が死亡 事故件数は7万件も
就労人口あたりでは建設業の2倍 高齢者対策が急務

 都会の消費者にとって、農業にはなかなか見えない部分がある。その一つが農作業に潜む危険性だ。毎年300人以上が農作業中の事故で命を落とす。物損やけがなどを含めた事故件数は7万件と推計されている。多くの農家がヒヤリ・ハットに直面しながら農作業をこなしている。とっさ対応しきれない高齢者が、主な犠牲者だ。

▽年300人以上の死者

 農水省は毎年、農作業死亡事故の発生状況を公表している。2016年は312人が犠牲になった。その7割は農業機械の操作に関わっている。統計の残る過去50年近く、毎年300~400人が農作業事故で死んでいる。16年もその延長線にあるが、408人だった直近のピーク09年から、7年連続の減少となった。
 事態はわずかながら改善の方向にあるが、農水省の見方は少し慎重だ。
 「農業従事者の減少でそもそも農作業をする人が年々減っている。死者数は減っているが、危険性が改善されたとは言い切れない」(生産資材対策室)。実際に産業別就業人口10万人当たりの事故死者数は、農業が建設業の2倍で、しかもその差は広がる傾向にあるという。

▽死亡の8割が65歳以上

 なぜ、農業で事故が相次ぐのか。第1は農業従事者の高齢化の進行だ。農業就業人口175万人の中で120万人が65歳以上だ。人手不足の中で農業機械を利用する場面が増え、高齢農家がトラクターなどの操作を誤って転倒するような事例が増えている。農作業死亡者に占める65歳以上の割合は80%を超し、80歳以上でも38%だ。高齢者に焦点を当てた対策が求められる。
 第2には農作業そのものに潜む危険性がある。野外の自然環境で働くため、雨の中で傾斜地や溝を走行したり、大きな牛を扱ったりすることが少なくない。背の高い果樹で収穫中のはしごから転落、家畜飼料の切断中に腕が巻き込まれるなどのケースも多種多様だ。「農業が最も危険な産業」というのは、先進国共通の現象でもある。
 第3は他産業では一般的な労災対策が浸透していないことが挙げられる。建設現場では作業前に安全ミーティングが義務づけられ、労働者はヘルメットや安全靴などの装着が当たり前。ところが農家の多くは自営業で、対策は多くが自己責任だ。

▽農水省はプッシュ系対策

 第4は情報共有の弱さが挙げられる。他産業の場合、労災制度によって、軽微なものも含めて事故はすべて報告が義務づけられる。厚労省傘下の団体が中心となって事故の分析や防止対策をまとめ、企業や業種を超えて共有する。
 重大な事故に至るまでには、数多くのヒヤリハットの経験があるとされる。軽微な事故も含めた教訓を、農業関係者すべてで共有することが大切だろう。
 情報共有という点で、新しい試みが最近始まった。JA共済連が、共済金支払いデータを使って農作業事故発生状況を調べ、8月上旬に公表した。年間の農作業事故発生件数が、7万件と見込まれることが、この調査で初めて分かった。脚立からの転落やチェーンソーによる傷害など、死亡に至らない事故の状況を類型化。行政機関と協力しきめ細かい対策に結びつけるという。
 農水省は、9月1日から秋の農作業安全確認運動を全国で行う。従来のポスター掲示など「呼び掛け系」対策に加え、地域の実情に合わせた「リスク・カルテ」作成など対象者の行動を求める「プッシュ系」対策を充実させる方針だ。

▽若い参入者への訓練も

 田村孝浩宇都宮大学准教授の話 農作業安全の対策は今後さらに重要になる。現在は高齢農家の事故が目立つが、作業者は急速に世代交代する。新しく農作業に携わる人たちは農業機械などの経験が少ない。高齢者だけではなく、若い新規参入者に対する教育や訓練が必要になるだろう。

(ニュースソクラ www,socra.net 農業ジャーナリスト・山田優)

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